表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Chaos_Mythology_Online  作者: 天笠恭介
第二章 ボーダー
16/50

7.新規参入 クリスタルの繰手



 戦況は、ただ一方的であった。


 黒き巨人がその豪腕を振るおうとすれば、たちまちの内に複数の鎖が絡み付いて動きを阻害する。強引に振り払って攻撃を続けても、すでに狙った先に獲物はおらず、全て空振りに終わってしまっていた。

 ならばと超重量の踏み付けを行おうとすれば、今度は地面が急激にぬかるみ、軸足を取られて無様に横倒しになってしまう有様だ。


 もがけばもがくほどにはまり込む、まるで蜘蛛の巣にかかった憐れな獲物のようだった。


「すごいな。こんなに戦いやすい状況は、初めてだ!」

「うはははっ! まだまだまだーっ!」

「うぬ。火柱が切れたで御座るか。ならば、毒煙玉でいくで御座るよ!」


 ひたすらに攻撃を加え続ける鳳牙、小燕、アルタイルの働きによって、ギガンテスのヒットポイントはもう残りわずかとなっていた。

 今現在が戦闘開始からわずかに三十分程度である事を考えれば、驚異的な削り具合である。


 それもこれも一重に、


「来んしゃあ!」


 四つのクリオプを自在に操りながらギガンテスに啖呵を切る魔術師――ステラの存在によるものだ。


「ゴアアッ!」


 ギガンテスが高々と棍棒を振り上げ、今まさにステラへ向けて振り下ろさんとした瞬間、


「っ、ミラージュミスト!」


 ステラが魔法スキルを高速詠唱。また、それに合わせてギガンテスの周囲を飛び回っていた青のクリオプが、彼女の指示を受けてギガンテスの一つ目をめがけて無数の氷柱――アイスニードルを解き放った。


 アイスニードルは水属性系統の初歩的なスキルのため威力は低いが、手数が多いので牽制によく使われるスキルである。


 目を狙われたギガンテスは手にした棍棒の狙いを変更。激しく振り回して飛来する氷柱をことごとく撃ち落して粉砕した。砕かれた氷の破片がわずかな光をキラキラと反射して、場違いなほどに美しい光景を作り上げる。


「ゴアッ!」


 そんな光景に見とれる事も無く、攻撃を凌いだギガンテスが再び棍棒を構え、今度こそと言わんばかりに力を込めて振り下ろした。


 ミサイルの着弾を思わせる爆音が轟き、立っている者のバランスを失わせるほどに大地がうねる。見た目と威力が非ではないが、御影の用いた一之太刀と違って地面の爆散による追撃がないのがせめてもの救いであった。


 そんな一撃をステラは避ける間もなく喰らったかのように見えて、実はギガンテスの攻撃は彼女の立つ場所とは大きく外れた位置に振り下ろされている。

 先のステラが唱えた魔法スキルによってギガンテスが蜃気楼に惑わされ、本当の位置とはずれた位置に映った虚像を攻撃してしまったせいだ。


 その結果当然無傷であるステラは、


「ストロングバインド!」


 攻撃を外したギガンテスに対し、体勢を立て直す前に新たな魔法スキルを詠唱。地面に描かれた魔法陣から伸びる無数の光の鎖を触手のように伸ばし、前屈みになっていたギガンテスを拘束する。


「グゥオアアッ!」


 絡め捕られたギガンテスが強引に鎖を引きちぎろうとするが、


「やらされんばい!」


 ステラの宣言と同時に緑と赤のクリオプが同様の拘束魔法スキルを展開。三重の鎖に縛られたギガンテスが、うめき声を漏らすだけでまったく動けなくなる。


「こんで――」


 ステラが大きく右腕を振り上げた。すると、青と黄色のクリオプが動きを封じられたギガンテスの真上に移動する。と同時に二色のクリオプはそれぞれに魔法陣を展開させ、その上空に巨大な氷槍と鋭く尖った岩石を形成させた。そして――


「止めばい!」


 振り上げられたステラの右腕が振り下ろされ、上空に生じていた氷柱と岩石が自由落下。ほぼ同時にギガンテスの身体に突き刺さった。


「ゴゥアアアッ!!」


 スキルの炸裂と同時に光の鎖の弾け飛び、ギガンテスが天を仰いで咆哮する。それはまさに断末魔の叫びだった。


 そして、叫びが途絶えると同時にギガンテスはその巨体をぐらりと傾け、地響きと共に大地に倒れ伏した。空になったヒットポイントゲージは、もう二度と自然に回復していく事はない。


「皆お疲れ様。なんか、僕だけずいぶんと楽しちゃったみたいになったけれどね」


 終始安定した攻勢が続いたため、アースクウェイクで全員が被害を被った時以外はほとんど仕事らしい仕事の無かったフェルドが、やや申し訳なさそうながらも労いの言葉を口にする。


「そげなこつなかばい。あーたん支援がなかったら、皆とうに死んどうとよ」


 全てのクリオプを自身の側に戻したステラが、手と首を同時に振りながらフェルドの後半の言葉を否定する。

 その動きに合わせて、四色のクリオプもふるふると左右に振れていた。


「そうですよ。ステラさんの魔法スキルでギガンテスの物理攻撃はほぼ無力化出来ましたけど、アースクウェイクだけは動きを封じても使用されましたしね」


 ギガンテスのドロップ品を回収した鳳牙は、ステラの言葉に同調しつつ、今の戦闘を思い返した。

 とにもかくにも危うい状況がまったくなかったのだ。一撃を受ければ死んでしまうという状況下で、これほどまでに安定した交戦が行えるなど鳳牙は夢にも思ってはいなかった。


「うぬ。しかし、これだけ攻撃のみに時間を割ければ恐ろしい火力になるもので御座るな」


 ゴキゴキと首を鳴らしながら、アルタイルがそんな感想を漏らす。


 確かに彼の言う通り、鳳牙も初撃に『徹し』を放った際のヒットポイントの減り具合から長期戦になる覚悟をしていた。

 しかし終わってみればわずか三十分弱である。通常のギガンテスを相手にした場合でも平均二十分前後の時間がかかる事を考えれば、あまりに驚異的に過ぎる速度と言えた。


「うはー。なんかすっきりしたー」


 ヘルメットを脱いだ小燕が、実にすっきりとつやつやした表情をしている。思う存分暴れて、色々なストレスが多少は解消されたのだろう。


 鳳牙としては、それに加えて戦闘時間もちょうど良かったのだろうと思う。安定した状況での長時間の交戦は単調作業を繰り返すだけになってしまいがちだ。そこへ来て三十分前後というのは、集中力を持続させるにはもってこいの時間である。


 実際、鳳牙もまた攻撃に全力集中出来たため、なんとも言えない清々しさを感じている。


「そう言ってくれると助かるよ。まあ、他にもめったに使えないリミテッドの『栄光への一撃ワンショットアットグロウリー』で皆の攻撃力を倍化させ放題だったから、がくんと減るギガンテスのヒットポイントは見てて面白かったけどね」


 笑顔のまますっと眼鏡の位置を調節したフェルドが、


「でも、やっぱり今回のMVPは――」


 最後まで言わず、きょとんとしているステラを見た。

 自然とその場にいる全員の視線がステラに集中し、彼女はやや居心地が悪そうに身じろぎをしている。


「あ、えっと、改めて宜しくばい。うちは『魔術師』のステラばい。高一ばい」


 視線が集中するのが恥ずかしかったのか、ステラがわたわたとしながら早口で述べ、ぺこりと頭を下げる。


 鳳牙たちはステラが顔を上げるのを待ってから、


「うん。僕はフェルド。見ての通り『司祭』をやってる。大学一年だよ」

「うぬ。拙者はアルタイルに御座る。職業は『忍者』で御座るよ。同じく大学一年に御座る」

「はいはいはーい。小燕ちゃんでーす。『重戦士』だよ。中一にゃん」

「最後に、俺は鳳牙。『獣人』だ。今は高二だな」


 それぞれに相手に合わせて名乗り返した。


 とにもかくにも最初はバタバタしていたが、これでようやく落ち着いて話せるというものである。

 五人は出現した宝箱の中身だけは回収しておいて、ひとまずトランスポーターは無視して地面に腰を下ろし、簡単な状況確認をする事にした。


「――という具合ばい。知り合いが誰もおらんかったけん、ともかく行ってみよう思って今日の朝からここにおるばい」


 そう語るステラの話を要約すると、鳳牙たちと同じく劇場で説明を受け、掲示板を確認して知り合いがいない事を確認したあと、二日かけて状況の把握と準備を整えてから世界の境界へ足を踏み入れたのだという。


 CMOを普通にプレイしていた時代はギルドにも所属していたという話だが、あくまでそれは割りと最近の事で、基本的にはソロで活動していたためにその感覚のままで挑戦したらしい。


「モブは変に強かったばってん、数が多くなかったけん。二・三体までならどうとでもなるばい」


 ステラが近くに待機している赤のクリオプの表面を柔らかな手つきで撫でる。


 確かにギガンテス戦での操作を見る限り、モブ三体程度なら魔法スキル無効化の特性を持つモブでもなければ確実に各個撃破する事が出来るだろうと鳳牙は思う。

 試しに自分が相対した場合の戦闘を思考してみるが、自分の数を三人に増やした段階でようやくまともな勝負になった。鳳牙もごく普通の魔術師相手であればそうそう負けるつもりも無いが、さすがに最大で五つの方向から必中攻撃に狙われる状況を単独で打破出来る自信は無い。


「そっちのルートだとずいぶんと出現するモブが少なかったんだな。えっと、俺たちのルートだと最大で何体出ましたっけ?」


 鳳牙が誰ともなしに話を振ると、


「うぬ。確か砂漠フィールドでサンドシャーク三匹とジャンクイーター七匹の計十匹で御座るな」

「あ、そう言えばあそこで武具の耐久値ガリガリ食われたなー。あたしジャンクイーター嫌ーい」


 アルタイルと小燕がそれぞれに反応を返してきた。

 ただ、フェルドだけがなにやら考え込んでいるようである。


「皆も砂漠フィールド行ったと? うちん時はサンドシャーク二匹だけだったばってん、運が良かったんやね」


 ステラがぴっとピースをするように人差し指と中指を立てて見せた。


 サンドシャークやジャンクイーターなどの砂魚(サンドフィッシュ)族は、ヒットポイントこそ少ないものの砂中に身を潜める特性を持っているため、地表に近い位置で行動している時でなければ攻撃を当てる事が出来ない。

 地中から半ば奇襲に近い攻撃を行ってくる厄介さも合わさって、集団で襲われると非常に面倒なモブなのである。


 そこへ来てもわずか二匹となれば、ステラの実力であればそう苦戦する事もなかっただろう。確かに運が良かったとも言える。そう鳳牙は思ったのだが、


「いや、単純に運と言うよりも、パーティー人数によって出現するモブの数に差が生じると見る方が自然な気がする……かな」


 ただ一人難しい顔で考え込んでいたフェルドが、ステラの言葉を受けてそんな仮説を口にした。


 言われてみればと鳳牙はステラの言葉を思い出しつつ、改めて自分たちの戦闘も思い出して出現モブ数を数えてみる。すると、大方の傾向としてパーティー人数の二倍から三倍に納まる範囲でしかモブが出現していないという事に気が付いた。


 フェルドの仮説がピタリとはまる感じである。


「ばってん、このエリアのギガンテスはどうなっとうと? 一体しかおらんかったばい」


 ステラがフェルドの仮説を加味した上で問題を提起する。鳳牙たちにとってもステラにとっても六つ目に当たるこのエリアには、ギガンテス一体しかいなかった。ありがちな取り巻きもいないとなると、フェルドの仮説が成り立たなくなる。


「それに関しては確かにそうなんだよね。けど、実際試行回数が少な過ぎるよ。仮説に仮設を重ねる事になるけれど、例えば六エリア毎に中ボス的な存在を挟むのだとすれば、今の状況に筋は通っちゃうからね」


 フェルドが小さく嘆息しながら説明する。

 確かにそれもまたその通りであった。


 ――つまるところ、まだ何もはっきりとは分からないって事なんだよな。


 そもそもからしてまだ一回目の攻略である。そんな簡単に仕組みが理解出来るようであれば、一ヶ月もかかって誰も何も把握出来ない状態にあるはずが無い。

 一部のプレイヤーは意図的に情報を隠している節も見受けられるが、鳳牙は自分自身の体感からいってまだ二桁目のエリアに到達したプレイヤーはいないだろうと踏んでいた。


 出掛けのハヤブサの話によれば、『宴』に所属するプレイヤーが強引なマーク集めを行っているという話である。

 それはまず間違いなく世界の境界の攻略に行き詰ったせいだろう。数で押し切るにも限度があるというものだ。むしろ無駄に数を増やせばそれだけ敵の数も増えてしまう。


「ただそんな事よりも今気になるのは――」


 鳳牙がそんな事を考えている間に、フェルドが新たな話題を切り出した。


「――五つ目のエリアでステラと僕らのルートが合流した点だね。ステラの話だと僕らにとっては一つのトランスポーターしかなかったあのエリアもパターン通りの状況だったみたいだし、出現したトランスポーターも確かに移動四つに帰還一つだったんだよね?」


 後半部分はステラへの問いかけになったフェルドの言葉に、


「そうばい。確かに四つと一つだったばい」


 問われた本人はコクリと頷いた。


 それらの話から出された推論は、世界の境界の各フィールドはリアルタイムに連続しており、複数のパーティーが同時に攻略を進めている場合、先のパーティーが攻略したエリアに後から入り込む可能性があるという事。

 その場合、先のパーティーが選択したトランスポーターだけが残り、以後は先に追いつくか先のパーティーが全滅するまで同じルートを追いかけていく事になる、というものだ。


「うぬ。もしくは、あのオブジェクトにもリポップ時間が設定されていて、その時間を過ぎればトランスポーターも宝箱も消滅し、再びオブジェクトが復活するという具合で御座ろうな」

「あれ? それじゃあもしかしてこのままここにいたら、もう一回ギガンテスと戦うの?」


 小燕が人差し指を頬に当てながら、ちょこんと首を傾げた。


「うち、三時間くらい休んどったばってん、リポップせんかったとよ。しばらくは大丈夫ばい」


 朝から挑戦していると言うステラが、小燕の疑問にそんな答えを返した。

 リポップするにしても相当な時間が空くという事らしい。


「まあいずれにしても、もう一回出てこられても、ねえ」

「なん?」


 言葉尻で視線を向けられ、ステラもまたちょこんと首を傾げた。

 その仕草にフェルドが微笑しながら、


「ステラがいれば、少なくともギガンテスには負けそうもないって事だよ」


 小さく肩をすくめて見せた。

 ステラはそんなフェルドの言葉に一瞬ぼーっとなったかと思うと、


「な、なはは。て、照れるばい」


 ちょっとどもりながら魔女帽子を手に取ると、丸いつばで赤くなった顔の下半分を隠しながらそれをぎゅっと胸に抱いた。

 とっさの行動と見るに、おそらく彼女の癖の一つなのだろう。


「……うぬ。そういえばステラ殿。一つ尋ねてもよいで御座るか?」


 ステラの顔からやや赤みが引いた頃を見計らって、アルタイルがステラに問いかけた。


「なん?」

「最初から気になっていたので御座るが、何故ステラ殿はクリスタルオプションと重複詠唱をする事が出来るので御座るか? 拙者の記憶ではクリスタルオプションとの重複詠唱は出来ないはずに御座るが……」


 その質問は、アルタイルがクリスタルオプションの説明をしていた時から全員が気になっていた事柄だった。その出来ないはずの事が出来たからこそ、鳳牙たちは短時間で強化ギガンテスを倒す事に成功しているのだ。


 そんな質問に対し、ステラは二度三度と瞬きをして、


「なん、そげな事ばい? それはうちのリミテッドパッシブスキル、『多重詠唱(マルチキャスト)』のおかげばい」


 何の事はないとでも言う様に、彼女は未知のスキル名称を口にした。


「パッシブついとうばってん、リミテッドスキルと同じったい。こんスキルは永続的に効果が続いとって、複数の魔法スキルを同時に詠唱出来るようになるばい」


 ステラの説明によれば、『多重詠唱』はクールタイムが独立した魔法スキルであれば、仕様上はいくらでも重複させて詠唱する事が出来るようになるスキルであるらしい。

 つまり、やろうと思えば五つと言わずに十の魔法スキルを同時発動させる事も出来るという事になる。


「なるほど。それ故にクリスタルオプションが詠唱中でも並行して別の魔法スキルを使用出来るという事に御座るか」


 説明を受けて合点がいったのか、元魔術師経験者であるアルタイルが何度もうんうんと頷いている。

 ステラもそれに頷き返しつつすっと手を上げ、


「ばってん、普通に使ったらあっという間にマナポイントが空っ欠になってしまうばい」


 デメリットに関しての説明を付け加えた。


 いくら重複詠唱が出来るとはいっても、使用者は一人なのだから当然マナポイントには限りがある。また、本来ありえない連続詠唱にもなるので、マナポイントの減り具合は通常とは比較にならないのだという。

 聞けばステラはパラメーターをマナポイント特化型に振っているらしく、通常であれば必要ないほどのマナポイント量と回復手段を確立しているという事だった。

 だがそれでもマナポイント不足は解消されず、リミテッドスキルの能力を持て余していたのだという。


「なるほど。その欠点を見事に補ってくれるのがクリスタルオプションというわけなんだね」

「そうばい。うちはこん子らを他ん人よか扱えるけん、うってつけったい」


 フェルドの言葉に、ステラが笑顔で応じる。


 確かに、ステータスの存在しないクリスタルオプションは無尽蔵のマナポイントを保持している。さすがに管理しきれないためにクリオプ側での『多重詠唱』は使っていないという事だったが、それでもマナポイントの負担が劇的に減ればもとより特化型のステラにマナポイント不足という悩みが残るはずも無い。


 こうして四色のクリスタルを操る魔術師が誕生したというわけらしい。


「けど、それだけ特異な真似が出来るんなら、掲示板とかで噂になってもおかしくないレベルじゃないか?」


 特異な存在はただそれだけで目立つ事を鳳牙は良く知っている。実際、四つものクリスタルオプションを操る姿は嫌でも目に付いたはずだ。あまつ魔法スキルの重複詠唱など、好奇の視線を集めるのに不足があろうはずも無い。


 そう思っての質問だったのだが、


「あー……。うち、普通にゲームしとった時はあまりこん子らを使ってないばい。簡単になり過ぎるけん、今の戦闘もそうじゃなかったと?」


 少し不安そうな表情で鳳牙たちを見回しながら聞いてくるステラに対し、それぞれなんとも言えない表情を作ってしまう。


「うち一人じゃ押し切れんかったばってん、皆くらい強いと作業みたいになってしまうったい」


 そう言うと、ステラは少し目を伏せてしまった。


 鳳牙は今回の戦闘は時間がちょうど良かったと感じていたが、それはつまり時間が延びればステラの懸念が顕在化していたという事に他ならない。

 今の状況がただのゲームではないという点が最大の違いではあるが、だれた事による集中力の喪失はそれ以後の攻略上にも多大な影響を及ぼしてしまうだろう。


「あ、けど、その割にはずいぶんと扱い慣れてるよね? 実践であまり使っていないという感じには思えなかったけど」


 沈んだ雰囲気のまま沈黙に陥る事を阻止したかったのか、フェルドがやや強引ながらも話を続けようと、新たな質問をステラに投げた。

 すると、先ほどまで沈んでいたステラが突然少し嬉しそうな顔になって、


「ああ、それね。うちのギルドマスターがせっかく使える力を腐らせてしまうんはもったいなかて、訓練場借りて一日中練習に付き合ってくれたりしたばい」


 どうも憧れの人物であるらしいギルドマスターについて饒舌に語り始めた。驚きの変化である。

 ひとしきり明るくなったステラの話を聞いたところで、


「ほえー。話に聞く分にはすっごい人だよね。……あ、ステラ姉。ステラ姉のギルドってなんていうギルドだったの?」


 小燕が何と話に質問を挟んだ。


「え? あ、えっと、『時計塔の魔女クロックタワーウィッチ』ばい。所属メンバー全員が『魔術師』の特化ギルドったい」

「「「「え?」」」」


 ステラの口にしたギルド名に、鳳牙たちは綺麗に声をハモらせた。予想外の事態に、鳳牙はぽかんと口を開けて呆然としてしまう。


 他の三人も同じ顔をしているのだろう。ステラがそれぞれの顔を心配そうに見比べ、最後はフェルドの方へ向けて首を傾げている。


「あ……。ああ、ごめんごめん。いや、君の口からその名前が出てくるとは思ってなかったからさ」


 ステラの視線が集中した事でいち早く驚愕を脱したフェルドが、眼鏡の位置を直しつつステラに焦点を合わせた。


「フェルドさん、うちんとこのギルド知っとうと?」


 フェルドの言葉から類推したのだろう。今度はステラが驚きの表情を浮かべている。


「うん。まあ直接の交流は少ないんだけど、僕らのギルドマスターとその『時計塔の魔女』のギルドマスターが知り合いなんだよね」

「……そん人も賞金首になっとうばいね」


 面識が無いとはいえ、知り合いの知り合いが巻き込まれていると知って、ステラがなんとも複雑な表情を作る。それは真実として正解で、彼女の捉え方としては間違いだった。


「いや、御影殿は拙者らと違って今も普通のプレイヤーに御座る」

「鳳兄が決闘に勝って、ギルマスになってもらったのだ」


 アルタイルと小燕の補足を聞いて、ステラの顔が怪訝な表情に変化した。


「それじゃあ、皆は一般のプレイヤーとの連絡手段ば確立しとっとうと?」

「ううん。正直なところ、ギルマスである御影さん以外はまだ信用出来ないかな。でも、君がいるのなら『時計塔の魔女』のギルマスにも何らかの話が通せるかもしれない……か」


 自問自答してまたも一人で考え込み始めたフェルドだったが、今度は誰に言われるでもなく、


「うん。時間も過ぎちゃってるし、ここはいったん戻ろうか」


 すぐにそんな結論を出してきた。そして、


「ステラ、君にもぜひ来て欲しいんだけど」


 いまだキーパーソンであるステラにも声をかける。


「断る理由がなかとよ。言われんでも付いて行くったい」


 ステラは待ってましたと言わんばかりに元気良く返事をする。すると、


「うぬ。それであればいっその事――」

「ステラ姉もうちのギルドに入らない? 個人的に同性のギルメンぼしゅーちゅー」


 アルタイルの台詞を途中から奪って、なおかつ自分の願望も加えたメンバー勧誘を小燕が行う。

 突然の申し出にステラは目をぱちくりとさせるが、


「えっと……。よ、よかと?」


 そわそわもじもじしながらステラが問い返してきた。

 それに対してまずフェルドが、


「僕は大歓迎」


 と言い、次にアルタイルが、


「うぬ。右に同じに御座る」


 と言えば、


「むしろ誘ったのあたしですが何か?」


 小燕はえっへんと言わんばかりに胸を張り、


「俺もまったく異論無し」


 最後の鳳牙はぱたぱたと尻尾を振りながら歓迎の意を表す。


「……それじゃあ、改めて宜しくお願いするばい!」


 全員分の歓迎を受け、ステラがひまわりのような明るい笑顔を作った。

 一人一人と握手を交わし、今度は最後になったフェルドと握手する時だけステラは若干恥ずかしそうに躊躇する仕草を見せたが、


「こちらこそ改めて宜しく」


 何も気が付かなかったのかフェルドは戸惑う手を自分から取りにいって握手を済ませてしまった。


「うぬ」

「あーあ」


 鳳牙は何も言わなかったが、アルタイルはやれやれとばかりに小さく首を振り、小燕は天を仰いでいる。


「まあギルマス権限使わないと正式に加入してもらえないから、とにかく戻ろうか。多分、もう戻ってきてると思うし」


 そんな他の面々の態度を知らず、フェルドがぐるりと全員の顔を見回した。


「うぬ」

「ういさっさ」

「そうですね」


 いつも通りに返事をするなか、加わったばかりのステラの反応が遅れるが、


「あ……。そ、そうばいね」


 再び全員の視線が集まったため、少し気恥ずかしそうにそう言うステラは薄く頬を染めていた。

 ギガンテス相手に啖呵を切っていた姿とは大違いだが、当然悪い印象などありはしない。存外照れ屋なんだろうなと納得し、鳳牙は赤いトランスポーターに向き直った。


 そしてふと思い立って再びトランスポーターから視線を外し、周囲をぐるりと見回してみる。


 実力にはそれなりの自負があった。だが、それはいとも簡単に打ち砕かれている。この場所でステラと出会っていなければ、まず間違いなく鳳牙たちは全滅していたはずだ。

 この場を生きて帰還出来るのは、一重にめぐり合わせという偶然に過ぎない。


 ――今のままじゃ絶対に攻略出来ない、か。


 鳳牙は思わず拳を握り固めてしまう。


 今立っている第六エリアは、果たして全体のどこまでなのか。先の見えない状況に、わずかばかりの焦燥を覚える。それはおそらく鳳牙ばかりではないだろう。

 全員今の状況に慣れてきた事もあって意識しなくてもいつものように振舞えてはいるが、今現在鳳牙たちが置かれている状況は変わらず異常なのだ。


 ――本当なら、もう少し焦ったほうが良いのかもしれないよな。


 心の奥でそう思いながらも、鳳牙は決して口にはしない。自分自身、仲間がいるからこそ保てている精神状態を揺るがすような真似をする気にはならなかった。


「鳳牙?」


 ふと呼ばれた先へ視線を向ければ、フェルドを初めアルタイルと小燕とステラが不思議そうな顔で鳳牙の方を見ていた。全員トランスポーターの前に立っており、鳳牙だけがやや離れた位置に立ってしまっていた。


「あ、いえ、すいません」


 あははと苦笑いをしながら、鳳牙は早足でトランスポーターの前に立った。

 薄赤く発光するそれは、われ関せずとばかりに静かに宙に浮いている。それを眺めていると、なぜか胸がざわついた。


「よし。じゃあ準備はいいね。説明通りならホームポイントに帰れるみたいだけど、一応何があっても対処出来るように準備はしておいて」


 フェルドの言葉に、一同がコクリと頷いてみせる。


「よし、じゃあ行くよ」


 いつものようにサッとフェルドが右手で合図を送り、鳳牙はトランスポーターに足を踏み入れる。

 その瞬間世界は暗転し、鳳牙は赤みを帯びた闇に全てを包まれたような気がした。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ