4.内情不穏 不吉の前兆
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投稿者名:あくせる Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
第四弾の追加以降、賞金首の討伐数増えたよな。
スレの最初でまだ一割って言ったけど、この二日で五人も増えた。
やっぱ目撃情報がバンバン挙がるようになったおかげか?
投稿者名:天和 Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
>>あくせる
目撃情報が増えたのは確かに利いてると思うぜ。
しかもおおよその人数も分かるから、攻め時かそうじゃないかの
判断材料にもなるしな。
おかげでランクDだけど一人倒してやったぜ!
投稿者名:エスニー Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
>>天和
おめー。
つってもその情報って確かに賞金首には会えるんだけど、結構な
確立で不意打ちも食うんだよな。
俺、この前ここの情報頼りに単独活動の賞金首狙ったんだけど、
さあこれからって時に『宴』のフルパーティーに友人ともども
轢かれたんだ……
投稿者名:セウト Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
>>エスニー
ドンマイ(涙)
投稿者名:地和 Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
>>エスニー
そりゃ災難だったな。
まあ確かにそんな話は↑の方でも出てたけど、賞金首がいなかった
って事はほとんどないんだよな。
その意味ではすごい信頼性はあるんじゃね?
投稿者名:ウィット Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
目撃情報挙げます。
フラミー海岸で賞金首が三人で行動してました。
近くの初心者の方や生産職の方は注意してください。
名前はよく見えなかったので不明です。
投稿者名:てりぶー Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
てな事言ってる間にまた情報来たな。
でも俺、今カルテナの森だから行けんわ(泣)
投稿者名:ひまわり Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
うーん。私近くにいるけど今ソロなんだよね。
誰かソロとかで動いてる人いない?
せっかくだから一緒に討伐挑戦してくれる人募集。
五分以内に【ささやき】よろ。
投稿者名:ともちん Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
>>ひまわり
あ、うちも近くにおるわ。【ささやき】送るから待っとってー。
投稿者名:ひまわり Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
>>ともちん
はやっ!(笑)
えっと、これで前衛と後衛は揃ったから、出来ればヒーラーさん
居て欲しいかも。あと最低でももう一人前衛。
投稿者名:ジェイス Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
>>ひまわり
じゃ、俺ヒーラー役で立候補。よければ知り合いに前衛頼むけど。
『重戦士』と『聖騎士』だけどオーケー?
投稿者名:ひまわり Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
>>ジェイス
【ささやき】の意味がないというね……
十分です。それじゃあ集合場所は今度こそ【ささやき】送りますね。
あ、募集締め切ります。
投稿者名:てりぶー Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
頑張ってこいよー。
投稿者名:たすく Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
なんかいい雰囲気だな。
賞金首の初心者狩り云々の時はダメイベント臭がぷんぷんしてたが、
こんな感じで活発になれば面白そうだ。
投稿者名:キール Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
賞金首目撃情報を挙げます。以下テンプレ使用。
遭遇場所:フラミー海岸(↑の三人とは別)
賞金首名:『銀狼』鳳牙
交戦:した……というより一方的に殺された(以下で詳細)
自戦力:剣士、僧侶
戦績:負け
↓ 使用スキル他 賞金首のスペック等 ↓
話し始める前にちょっと確認したいんだけど、フラミー海岸で
『フェンリルシャドー』を目撃した事のある人っている?
今日フラミー海岸でそれに襲われたのを賞金首に助けられて、
その後で改めて殺されたんだけど……
で、ちょっと会話出来た時のログを貼ります。
殺された時はむかついたんだけど、落ち着いたらなんか
気になったので検証をお願いしたいです。
左を揃えるためにA:俺 B:賞金首に名前変更してます。
A「いや、なんかあれだよな。人工知能って分かってても、驚きだよ。
まさか助けてもらえるなんて。
俺たちはお前たちを狩る側なのにな」
B「…………はっ、あはははははっ」
A「な、なんだよ。人工知能なのに、他人の事笑うのかよ」
B「………………」
A「……え?」
A「え? ……あれ?」
A「ちょ……何で!?」
B「何でって、何が?」
A「だって、あんたさっき俺を助けてくれただろ!?」
B「……ああ、そっか。
いや、ただ単に俺がお前を倒さないといけなかったから、
モブに殺される前にモブを排除したってだけ。
俺の狙いは最初からお前だから、
何もおかしいところはないんだ」
A「はあっ!? なんだよそれ。俺は別に賞金首じゃないぞ?
何で賞金首のお前らが俺を狩る必要があるんだ」
B「こっちにはこっちの理由があるんだよ。
あと、別にお前である必要は無い。
賞金首じゃなければ誰でもいいんだ。
っと、これ以上は話しても無駄だな。
あ、悪いけど、そこの彼女も狩らせてもらうよ」
俺の変な発言はとりあえず置いておいてください。
気になるのは『銀狼』鳳牙がその手で『俺』を倒す事に
こだわった理由と、賞金首側の事情って部分です。
投稿者名:エッジ Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
>>キール
……え? 何この外道。
後一応言っとく。
リア充爆発しろ!
投稿者名:桂冠 Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
>>エッジ
だから煽るな(笑)
ってかお前ROMってたのかよ!(俺もだが)
>>キール
いや、すげえな。賞金首とまともな会話した時のログが貼られるのは
初めてじゃね?
個人的に会話したって話はちらちら出てくるけどさ。
あとシャドーの方は知らん。
ってかそいつフェンリル専用の特殊召還モブだろ?
何かの間違いじゃね?
投稿者名:ふぉんふぉん Re:【総勢】賞金首目撃情報交換スレッドその2【百名】
>>キール
あー、いずれにせよこれなんか議論が議論呼びそうだから、
別スレッド立てる事をお勧めするわ。
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『真理の探究者』のギルドホーム整備は、結局昼過ぎまでかかってようやく一段落となった。
各自好きな場所に自室を設け、余っている部屋は空っぽのまま放置してある。一つ一つの部屋はさして大きくもないが、ずっと野宿状態だったこの約一月の間を考えれば劇的な改善具合と言えよう。
今は用事でログアウトしているギルドマスターの御影を除く全員が玄関ホールに集まり、改めて自分たちのギルドホームを堪能している最中だった。
鳳牙も新しい玩具を手に入れた時のような高揚感を抱いていたのだが、
「おお。君らんとこもなかなか小奇麗なもんじゃないか」
ややハスキーな印象を受ける声が飛び込んできて、鳳牙を始めその場の全員が開けっ放しにしてあった玄関口の方へ顔を向ける。
「やっ」
そんな感じで軽く手を挙げているのは、真紅の改造鎧を着込む女武者、ハヤブサだった。
「あれ? 『秘密の花園』のギルマスさんじゃないですか。何か用ですか?」
誰よりも速くフェルドがそっと眼鏡の位置を直しながら一歩前に進み出て、突然の来訪者を出迎える。
と言っても、ギルドホームは構成員以外は許可が無い限りは出入りすることが出来ないため、ハヤブサはいまだホームの外にいるままだったが。
「なに、完成祝いってとこさね」
「それはどうもご丁寧に。その節は施設を貸していただいてありがとうございました」
丁寧に礼を述べ、フェルドが深々と頭を下げる。釣られて、鳳牙も頭だけではあるがお辞儀をしてしまった。
「なんだいなんだい。えらく他人行儀じゃないか。同じ釜の風呂に入った仲だってのに」
歯を見せて笑うその顔は、可愛いとか綺麗というよりは格好いいという方がしっくり来そうな感じだった。見た目は文句なく美人なのだが、性格的な部分に引っ張られるものが大きいのである。
「使い方が違う気もしますけど、まあいいですよ。それで、本当にどうしたんですか? まさか粗品も無しに本当に完成祝いだけって事はないでしょう?」
「んー? ……そうだね。まあ隠し事してるつもりもないんだけど……さ」
突然歯切れが悪くなったかと思うと、ハヤブサはそわそわと落ち着きをなくし、
「その前に悪いんだけど、入場の許可をくれない? あまり外でおおっぴらに話したい内容じゃないんだ」
そんな事を言ってきた。
周囲をきょろきょろと警戒するハヤブサの様子を見て、鳳牙は軽く首を傾げる。ふと左右を見てみれば、アルタイルも小燕もそれぞれに不思議そうな表情をしていた。
背中しか見えないフェルドもおそらくは似たような表情をしているはずだ。変わらないのは相変わらずのハルナだけだろう。
「……そんな含みを持たされると、聞かないわけにはいかないですね。みんな構わないかい?」
振り返って同意を求めるフェルドに、鳳牙は小さく頷く。アルタイルも小燕も無言のままだが、同じように同意を示しているようだった。
「それじゃあ――」
それを確認して、フェルドが視線をハルナに移した。彼女はホームの管理者なので、ギルドマスターの次にギルドホームに関する高位権限を与えられていた。
そのため、御影が不在の現状では彼女が実質的なギルドホームの主という事になる。
「lib。ホーム管理者として、ハヤブサ様の立ち入り許可を承認致します」
ハルナは静かにお辞儀をすると同時に、構成員以外の立ち入りを許可する設定を加えたようだった。
彼女の宣言に合わせて、それまで玄関口から動かなかったハヤブサがゆっくりとホールに立ち入ってくる。
「ん。感謝するよ」
そう言いながら、ハヤブサは後ろ手でギルドホームの玄関扉を閉め、ギルドホームを外部と遮断させた。聞かれたくないというのは本当なのだろう。
彼女はぐるりと鳳牙たちを見回し、
「まあ、話ってのはあたしら自身にも関わる事なんだけど――」
そこで一度言葉を切り、少し躊躇ったかと思えば、一転して強い意志を瞳に宿し、
「――『宴』って知ってるでしょ?」
どこか怒りすら滲ませる声で一つのギルド名を口にした。
「『宴』……? それって、賞金首側で最大規模のギルドでしたよね?」
フェルドの返答に、ハヤブサは無言で頷いた。
そのギルド名は、当然鳳牙も知っている。設立はハントイベントの第三弾があった日のはずだった。
「確かギルドマスターは、Sランク『天崩』のどんどらですね」
鳳牙が追加の説明を加え、
「そう。……あの忌々しい野郎さ」
それを受けたハヤブサが固めた握りこぶしを自分の掌に打ち込み、パンと大き目の音がホールに響き渡った。
なかなかに穏やかではない様子である。
そんなハヤブサの様子を冷静に受け止め、フェルドが探るような視線を彼女に向けている。
「……何か込み入った事情がありそうですね」
「確かに込み入ってはいるけど、別に複雑じゃあないのさ。最近、『宴』の連中の行動が目に余るっていう、ただそれだけの事だよ」
嫌悪感を滲ませるハヤブサの言葉に、鳳牙は内心で首を傾げる。それは彼女の言うような事にまったく心当たりがないせいだった。
というのも、ギルドホームの有用性が発見されてからは野宿する者が圧倒的に少数になったため、プライバシーのない緊張状態が大幅に軽減されている。
必然的に警戒度合いが低くなったため、異端者の最果て内の空気は良い方向へ変化してきていた。
そこへ来てハヤブサの発言は実に不穏なものであるのだが、心当たりの浮かばない鳳牙たちの間にはなんと答えていいものか分からないという微妙な空気が漂っている。
「まあ、君らはこんな郊外な場所にギルドホーム構えてるせいで喧騒とは無縁なんだろうけど、他のギルドはほとんど中心部にホーム構えてるからね。自然と顔を付き合わせる事も多いのさ」
「そうですか。それで、結局何がどう目に余ると?」
フェルドが話の核心部分についての説明を求める。
すると、ハヤブサが再びその綺麗な顔を歪め、
「あいつら、ここ最近撃退マーク集めに躍起になってんのさ。どうも『世界の境界』の踏破を目論んでるみたいでね」
吐き捨てるようにそう言った。
「かく言うあたしも『世界の境界』の踏破は目標の一つにしてる。けど、まああそこのモブは規格外でね。君らはもう行ってみたかい?」
ハヤブサの問いに、鳳牙たちは全員首を横に振った。
興味が無いわけでは無かったが、最初の頃は御影に会う事を優先していたし、今の今まではギルド関連で手一杯だったため、専用エリアへはまだ一度も行っていない。
「なら、一度行ってみるといい。死んでも戻って来るだけだから、そこまでの危険もないさね」
ハヤブサは腕を組んで小さく嘆息する。
「貴女は行った事があると?」
フェルドの問いに、ハヤブサはコクリと頷いた。
「ここへ来たばかりの頃に一度ね。まあ、とんでもないところだったよ。一匹一匹のモブがそこらの下手なボスよりも強いんだ。あたしは早々に敗北を味わったよ」
やれやれと首を振るハヤブサを見て、鳳牙は知らず知らずのうちに拳を握っていた。
実際に手合わせした事が無いためにその力量は類推する事しか出来ないが、ランクSの彼女をしてとんでもないと言わしめるだけのエリアであれば、相当な難易度であろう事は疑いの余地が無い。
そうであれば、確かに早い段階で撃退マークを収集し、有用なアイテムを手に入れようと躍起になるという事も頷けた。
つまるところ――
「撃退マークの価値がさらに上がったせいで生じた、混雑による狩場の取り合いなんかがいざこざの原因という事ですか? でも、そんな事は別におかしいものでもないと思いますけど」
古くからネットゲームに付きまとう問題点の一つだ。特に一度倒した後再度ポップするまでの時間が長い特定のモブを取り合うとなると、相当に面倒である。
だが、そんな事でいちいち目くじらを立てていてもどうしようもないというのが鳳牙の考えだ。実力で奪い取れなければ淘汰されるのは現実の世界でも同じなのだから。
「そりゃ、あたしだってただそんだけってんならなんも言わないよ。正々堂々奪い返すまでさ」
心外だとでも言わんばかりに、ハヤブサが鳳牙の言葉に噛み付いてくる。だが、声を荒らげたのはその一瞬だけで、
「問題なのは、マークの集め方だよ」
彼女は淡々と自身が問題視している部分についての説明を始めた。
「あいつらは外にマーク狩りに行ってる他の賞金首連中を捜索して、掲示板にその情報をリークして釣り餌、つまり囮に使ってるんだよ」
はっきりとした怒りを滲ませた声で、ハヤブサが言葉を吐き出す。
囮と聞いて、鳳牙はピンと耳を張った。それは劇場でMIKOTOが賞金首同士での協力ではない協力方法の一例として挙げていた行為だ。
だが、その説明を聞いて鳳牙の中に疑問が生じる。それは――
「リークって言っても、賞金首が賞金首の情報を流すっていうのはどうなんですか? 俺だったらかなり眉唾物だと思いますけど」
鳳牙の反論を受けて、今度はハヤブサが一瞬きょとんと不思議そうな顔を作り、すぐさま、
「四日前、だからイベント第四弾の二日前にマーク一個で交換出来るアイテムに『リネームカード』ってアイテムが増えたのを知らないのかい?」
聞き覚えのないアイテム名を口にした。首をひねりながら鳳牙はちらりとハルナの方を見る。
鳳牙の視線に気が付いたハルナは、
「lib。ハヤブサ様の仰るアイテムは、確かに四日前に入荷しております」
抑揚のない声でそう言って、ハルナは右の掌をすっと天井へ向けた。すると、その掌の上に白色のプラスチックカードのようなものが出現し、どういう原理なのかクルクルと回転し始めた。
「この『リネームカード』には一時間だけネーム群を偽装出来る効果があります。効果時間中は他者から『賞金首』である事は分からなくなりますので、通常のタウンエリアへ安全に潜入する事が可能です。一回の使用毎に二十四時間のクールタイムが発生します」
以上です、と説明を終了し、ハルナは出現させていたリネームカードを掌から消し去った。
「今の説明で理解出来るだろう?」
ハヤブサの確認に、鳳牙はコクリと頷いた。
確かに、今のアイテムで自分の名前を変えられるという事は、掲示板で賞金首である事を隠して発言が出来るという事になる。現状においてそれは匿名の発言とまったく同じ事だ。
キャラクターの名前は無限大であり、どんな名前が登録されていてどんな名前がまだ登録されていないのかをゲーム内で知る方法はない。せいぜい新規キャラの作成時に被りを指摘されるかどうかといったところだが、それをもって存在非存在の証明にはならない。
つまり、賞金首たちはリネームカードを使用する事でごく自然な情報操作が可能という事になる。
「そうさ。これで名前を変えて掲示板に書き込むんだ。そうすりゃ金に目がくらんだプレイヤーが勝手にやってきて、なおかつ誰かに襲い掛かっている最中って最大の隙を突く事も出来る。もしも手に負えなそうだったら逃げちまうんだから、最低な話だよ」
ハヤブサの説明は細部に渡るリアリティがあった。という事は、それは間違いなく、
「あたしらも、危うく死んじまうところだったんだ」
実体験を伴う経験によって裏打ちされた言葉ということだ。
ガリッとハヤブサが奥歯を噛み締める音を鳳牙の聴覚が捉える。相当頭にきているのだろう。
「『宴』はその人員数を生かして、二パーティー以上で圧殺する事で安全性を確保した狩りをしているのさ」
彼女の話では、『宴』は来る者拒まずという形で開放的なギルドを謳っており、下位ランクで孤立していた賞金首たちがこぞって参入をしているという。加えて、ランクSの賞金首がマスターをやっているという事もそれに拍車をかけているのだとも。
その結果、今では構成人数は十五人を超える勢いだという事だった。
それは最大で百名だった賞金首の人数を考えれば、異常とも言える数だ。
「けど、あたしのところは七人だから二つに分けると戦力的にね。しかもヒーラーが三人だからどうしても火力が足りないわけ」
両手を広げ、ハヤブサがフェルドと同じように肩をすくめて見せた。
「なるほど。事情は分かりました。それで、結局貴女は僕らに何を求めると?」
フェルドの問いかけに、
「ふふん。簡単な話だよ」
ハヤブサは口の端をわずかに吊り上げて、
「あたしらと協力して、撃退マークを集めないかい?」
そんな提案を口にした。続けて、
「それぞれのギルド単位で狩りをしてたんじゃ、どうしたって数を集められない。それに強敵に襲われたときでも数で勝れば勝率は上がるだろう?」
どんなメリットがあるのかに関して鳳牙たちが尋ねる前に説明してしまった。
最初に聞くべきことの回答を先に言われてしまったため、やや出鼻をくじかれた感はあるものの、
「なるほど。では、その提案をする相手に僕らを選んだ理由は?」
すっと眼鏡に手を触れつつ、フェルドが落ち着いた声で新たな質問を行った。
これに対し、
「そりゃあ、一番信用出来そうなのがあんたらだからさ」
ハヤブサがまっすぐな瞳でフェルドを、そしてその後ろにいる鳳牙たちを見据えてくる。嘘偽りのない、真摯な眼差しだった。
「もう、うちのメンバーの了解は取ってあるんだ。後はそちらが頷いてくれるかどうかだけど、まあすぐに返事をしてくれなくてもいいよ。考えといて」
やや間を置いてそう言うと、ハヤブサは鳳牙たちの返事を待たず、来た時と同じように一方的に帰って行ってしまった。しばらくの間誰も声を発さず、微妙な沈黙が生じていたが、
「ところで、ハヤブサ様の入場許可は継続しておきますか? それとも解消致しますか?」
淡々と抑揚のないハルナの声が発せられ、
「え? ああ。……とりあえず許可したままでいいよ。また来るかもしれないし」
フェルドが自分で肩を揉みながらハルナに答えた事で、妙な沈黙は水が引くように消え去ってしまった。
しかし、そんなややほっとした空気も束の間で、
「『秘密の花園』の構成メンバー、小燕は覚えてるかい?」
フェルドが小燕に問いかける。
「ふぇ? あ、うん。覚えてるよ。えっと、ギルマスのハヤ姉が『武者』でしょ。あとミル姉とリー姉とカル姉が『司祭』で、ビー姉が『巫女』で、トウ姉とサイ姉が『魔術師』だったかな」
同姓の年下ということで、『秘密の花園』の施設を借りている間、小燕は構成員たる彼女たちのアイドルになっていた。もともと小柄で可愛らしい事もあり、一緒にお風呂に入ったり添い寝したりしていたらしい。
そのためか、『真理の探求者』の中では小燕がもっとも『秘密の花園』の内情に詳しくなっていた。
「純粋な前衛戦闘職がハヤブサさんだけですね。強いてあげれば『巫女』の人が中衛ですけど、近接系統を育てているかどうかですね」
小燕の説明を受けて、鳳牙は率直な感想を述べる。
「ビー姉はオールラウンダーだって言ってたから、たぶん中衛であってると思う」
それに対し小燕が補足の説明をすると、
「『司祭』三人は置いておくとして、『魔術師』の二人が鍵だろうね。でも、確かにこの偏りじゃあ五人以上いてもパーティーを二つに分けるのは危険だよ」
「うぬ。『武者』・『巫女』・『司祭』・『魔術師』二人、が妥当で御座ろうな。場合によっては『司祭』が二人で御座ろうか」
フェルドとアルタイルがパーティー構成の考察を述べ始めた。
CMOでは前衛二~三人、もしくは内一名が中衛を火力とし、後衛に回復役と魔法使いを一名ずつ組み込むのが一般的な推奨パーティーとされている。
前衛の内一名はタゲ持ちの盾役が望ましいが、火力次第ではその限りではないとされる。
この編成を『秘密の花園』に当てはめると、前衛一名・中衛一名・後衛三名という事になり、明らかな前衛の火力不足が伺える。幸い『魔術師』が二名だが、脆い後衛を守る前衛の数が少なければ安定性の面で問題が生じてしまう。
そしてなにより、『秘密の花園』には最大の欠点がある。それは――
「でもハヤ姉ギルマスだよ? 死んだらギルドの人も全員消えちゃうし、下手に出れなくない?」
小燕の指摘に、全員が頷く。
ギルマスが討たれてしまった場合、ギルドメンバーも連鎖的に討伐された事になって消えてしまうのがルールだ。故に、ギルマスはなるべく危険を回避する義務を負う。
しかし、唯一の前衛であるハヤブサは戦いに出ないわけには行かないのだ。
「その辺も加味しての申し出だと思うよ。現状では『秘密の花園』はマーク狩りには適していないギルドだ。しかもあそこは女所帯だからね。新しく人員を入れるのは難しいんじゃないかな」
冷静に、フェルドがそんな評価を下した。そして付け加えるように、
「でも逆に、『世界の境界』を進むには堅実ではあると思うけどね。『司祭』が三人もいればたとえ通常モブがボス級の強さだとしても十分に対処出来ると思う。……いや、これは実際に行ってみないとなんともか」
「うぬ。であれば、一度行ってみてはどうで御座るか? 御影殿は夜まで戻らぬ故、挑戦しておくのも悪くないと思うので御座る」
フェルドの言葉に、アルタイルの提案が続く。
鳳牙としてもその提案には賛成だった。実際にどの程度のものかによっては、ハヤブサの提案を受けることで増強される戦力が必要不可欠になるとも限らない。
「……そうだな。どれくらい規格外なのか見ておくのも悪くない、か」
それはフェルド自身にも分かっているのだろう。特に反対する事もなく、すんなりとその提案を受け入れた。
「俺は賛成しますよ。実のところ、ハヤブサさんの話を聞いてすごい興味湧いてますから」
「あ、あたしもあたしもー」
はいはーいと小燕が元気よく手を挙げる。
その様子にフェルドが柔らかな笑みを作って、
「じゃあ、ちょっと行ってみようか。様子見に行くだけだから、各自必要なものを準備して、三十分後に集合しよう」
いつものように話をまとめ、
「はい」
「うぬ」
「りょーかい」
鳳牙たちはそれぞれ返事を返していく。
「lib。ご入用の物品は私にお申し出ください。回復薬、ステータス回復アイテム、増強剤などなど、通常アイテムはおおよそ網羅しています」
最後にハルナが便利屋宣言をしたかと思うと、頭上のネームの横に露店マークを出現させた。
「あ、それじゃあ魔法触媒をいくつか――」
「うぬ。拙者は素材玉を――」
「あたしは――」
早速とばかりにフェルドたちがあれやこれやと注文を始め、ハルナがそれにあわせてさまざまなアイテムを出現させて行く。
鳳牙はしばらくその手品のような光景を眺めていたのだが、ふとじっと自分を見るハルナの視線に気が付き、何か用かと視線で返してみた。すると、
「lib。鳳牙様は何かご入用の物は御座いませんか?」
ハルナがいつもの無表情の中に、ちょっと何かを期待しているような感情を加えた顔で問いかけてきた。
「え? ああ、俺は特にないな。回復薬もまだあるし」
その様子に内心首をかしげながら、しかし鳳牙はさして気にする事もなくそう答えた。
途端、ハルナの表情からまた一切の感情が消え去り、
「……そうですか」
しかし声だけはやや寂しそうな、どこか拗ねたような感じの答えが返ってきて、鳳牙は妙な罪悪感に包まれた。
――あれ? 俺なんか不味い事言ったか……?
自分自身に問いかけるが、罪悪感の正体が分からない。
結局みんなの買い物が終わるまでの間、鳳牙は何をするでもなくその場に立ち尽くして、ハルナの様子を伺いながら悶々とした気持ちを持て余す事になった。