全ての始まり
「破っ!!」
気合の声と共に放たれた渾身の一撃は、バーチャルリアリティ技術の恩恵によって確かな手応えを大鳥圭介の手に残していた。
「ウ゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」
轟雷の如き怨嗟の断末魔が波動となって全身を打ち、骨の髄をも震撼させる雄たけびに圭介――プレイヤーキャラ鳳牙は『獣人』の特徴でもある頭頂部の獣耳をぺたりと伏せた。髪色と同色の柔らかな銀毛を持つ尻尾は全ての毛を逆立たせている。
眼前の鳥とも獣とも判断し難い相手は、この世界で『神』と呼ばれる存在。見る者全てを圧倒し畏怖させる。巨大なる火の神、火之迦具土神。
今、鳳牙はその神を屠った。神がその身に纏っていた鮮やかなる紅橙の猛炎は消え去り、真珠の如き白き肉体をくすんだ灰色と化して地に伏している。
それは疑いようもない、死の証。
「いやっほう! 大・勝・利、だー!」
「……神って本当に四人で倒せるんだ」
「大金星に御座る。スクショを撮って忍者仲間に自慢するで御座る」
それを確認して、共に神殺しを為し得た三人の仲間が歓声を上げている。
そう。これは鳳牙一人の功績ではない。仲間がいたからこそ達成出来たものだ。
鳳牙は大きく息を吐いて一度脱力すると、
「神様消えちゃう前にドロップ品の回収してもいいですか?」
「にゃ! 消えるのダメ! 鳳兄確保確保!」
「危ないところだね。消えたら苦労が水の泡だよ」
「うぬ。スクショは万全に御座る。遠慮なくルートするといいで御座る」
鳳牙の言葉に仲間がそれぞれの反応を返してきた。
その様子にわずかに笑みをこぼし、鳳牙は死せる神に手を触れてドロップ品の確認をする。
――あれ?
表示されたアイテムウィンドウを見て鳳牙は首を傾げた。羅列されるアイテムには確かに目的のものがあったのだが、不思議な事にアイコンが表示されていないのだ。
すわ描画遅れか何かかと考えるが、それにしては他のアイコンは正常に表示されており、そのアイテムだけが表示されないというのもおかしな話だった。
――まあ、いいか。
鳳牙はそれを細かなバグか何かだと判断し、まずはと目的であるアイコン未表示のアイテムを選択した――その時だった。
「うあ……」
突然急激な立ち眩みに襲われ、全身から力が抜けた事で身体を支えきれなくなった鳳牙は見事に地面に倒れこんだ。
――な……んだ……こ……れ…………
声を発する事も出来ず、急速に視界が暗転していく。そうして意識を失う直前、仲間に助けを求めようとした鳳牙が見たものは、同じように地面に倒れてピクリとも動かない三人の仲間の姿だった。