急展開
私が壮也くんに出会ったのは、夏真っ盛りの7月下旬だった。私はその日、ゲームセンターに寄っていた。なにをしようか悩んでいたとき、ふと目に留まった知り合い。
「あ、山田くんだ! おーい、山田くーん!」
最初は気づいていないようだった。山田なんてどこにでもある苗字。自分のことではない。そう思っていたのだろう。
「やーまーだーくーん」
仕方なく私は、近づいていって肩を叩いた。振り返った人を見ると、やはり山田壮也くんだった。
「誰だ?」
「え? 私のこと、知らない?」
「ああ」
即答されちゃった。ちょっと傷ついたけど、これを機に覚えてもらおうと思った。
「そっか……じゃあ、自己紹介するね」
あからさまに嫌な顔をされる。でも、今は取り合えず私の印象を強くしないと。
「私は黒川愛子。今はクラス違うけど、去年はおんなじクラスだったんだよ?」
なんだか呆れられている。いや、呆れたいのはこっちなんだけど。
「悪いが、俺はお前のことを覚えていない。つーか、お前と喋ってるよりゾンビ撃ってる方がまだ楽しい。というわけでどっか行け」
「そんなぁ……」
正直泣きそうになった。何を隠そう、私は山田くんのことが好きなのだ。
高校の入学式。皆が初々しい様子で、緊張していた。そんななか、唯一緊張していなかったのが山田くんだった。凄く目立っていて、興味本位で顔をのぞいた瞬間、私は恋に落ちた。
「あ、じゃあ、見てるだけならいい?」
「別に」
なんとか近くにいる口実をつけて、山田くんを見る。そのまま見続ける。そのまま……
GAME OVER。画面にはそう書かれていた。山田くんは、続けるわけでもなく、そのまま立ち去ろうとした。
やだ。まだ一緒に居たい。
そう思った私は、苦肉の策に出た。筐体に近づき、コインを入れる。コレを見られるのは本当に嫌なんだけど、仕方が無い。備え付けてある銃を手に取る。血が上る。テンションが上がる。興奮する。あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
「うおっしゃぁ!! ぶっ殺したらぁ!!」
豹変した。ゲームをやろうとするとすぐコレだ。自分で自分が嫌になる。引いてた。周り皆が引いていた。
「オラオラオラオラ!!」
女の子がオラとか言っちゃいけないと思います。自分で自分に突っ込む。
「ヒィィィィィィィィヤッハァァァァァァァ!!!!」
自分で自分に引くわ。
アレから一時間。全力で本気だった。どんな不意打ちにもとっさに対応し、全てのゾンビを撃ち殺していく。
「アーッハッハッハ!!」
ゲーマーズハイになっていた。いやむしろトリガーハッピーかも。
「ふう、終わった」
画面を見ると、ボスを倒してクリアしていた。
「すげえな」
あ、山田くん。良かった、帰らないでくれたんだ。
「あんな本気、久しぶりに見た」
? 山田くんの言ってる意味が分からない。まぁ、とにかく、一応聞いておかなければいけないことがある。
「あ、えっと……引いた?」
「引いた」
即答。泣きそう。
「うう……」
「でも」
ほえ?
「お前を」
?
「本気のお前を」
「好きになった。付き合ってくれ」
「………………へ?」
頭真っ白。アレ? 今なんて?
「え? え? え?」
ふっと微笑んだ山田くん。あ、かっこいい。
「付き合ってくれと言ったんだ」
もう一回告白される。鼓動が早くなる。
「な、んで? こんな変な女じゃなくて、もっと可愛い子とか捕まえられるでしょ。山田くんなら」
嬉しいけど、こんな言葉が出てしまう。
「あいにくだが、俺はお前が好きになったんでな」
「……理解できない」
けど嬉しい。
「理解する必要は無い」
なんだか、見透かされているような目。少し硬直したあと、私は、
「あ、う、あ、わ、私、は、山田くんと、付き合い、たいです」
しどろもどろになってそう言った。
「行こうぜ。変な目で見られてる」
「あ、う、うん」
山田くんが手を差し出してくれる。私は、それをためらいながらも握り返す。
私は山田くんと付き合うことになった。