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優しさゆえに

作者: 菜の花


彼女は優しいから

全てを受け入れた


黒ずんだ誰かのヘドロも

その温かい胸に包み込んで

清らかな空気を作り出した


平和になった

これで平和になったのだと

人々は思い込んだ


彼女はヒーローだと

この世界の英雄になったのだと

皆が褒めそやした

彼女は正しいことをしたのだと


彼女は優しいから

あまりにも優しすぎるから

全てを受け入れた


彼女の胸が

その心が

少しずつ何かに汚染されて

黒く濁り始めたことに

彼女自身も気づいていなかった


気づいたのは、

僕だけだった


「もうやめようよ」


「世界なんか救わなくていい」


僕の言葉を

彼女はどうでもいいことにした

聞こえていないことにした

蟻が人間に踏まれるくらい

当たり前のことのように

そのまま流した


淡く光っていた彼女に

少しずつ黒が混ざってゆく

ほんの少し

ほんの少しずつ


募れば真っ黒だ

深夜2時の冬空なんて

比較もできないほど

黒く染まっていた


彼女は笑わなくなっていた

鮮やかな花が咲くような

柔らかい微笑みが

その顔から失われていた


いつの間にか

彼女は消えていた

暗い夜に溶け込んで

世界からいなくなっていた


「あんたらのせいだ!」


僕は人々を責めた

彼女の優しさにつけ込んで

彼女を壊したのは

他でもない

人々のせいなのだと


「彼女はそれでいいと言ったのだ」

「彼女が世界を救いたいと言ったのだ」

「平和を求めたのは、彼女だ」


人々は彼女の“優しさ”を

正しいものとして受け入れた

世界が平和になったから

それが正解だとしていた


それじゃあ少しも報われないじゃないか

自分を犠牲にしてまで

作り出した平和を

彼女は感じられない

彼女は、少しも知らない


彼女は言っていた

平和な世界で生きたいのだと

みんなが優しくあってほしいのだと

手を取り合って温かい世界を作るのだと


だから彼女は

自らの胸に黒いヘドロを包んで

世界をきれいにしようとした


だから世界が

平和になったように見えたのだ

彼女のおかげで

僕らが平和な世界を生きられるのだ


ならば


平和のために失われた

彼女の声は?

彼女の幸福は?

彼女の笑顔は?


一体どうすると言うんだ

どうやって彼女を救うというんだ


「そんなに言うならば、

お前が彼女を救えばよかったじゃないか」


人々は僕に向かって嘯いた


「お前は彼女の黒に気づきながら、

その手を差し伸べなかったじゃないか」


何も言い返せなかった

僕は彼女を救いきれなかった

きっと僕も、

彼女の優しさに甘えていた


闇に問う

僕はあのとき、

彼女を救えたのか

手を差し伸べれば

この声が届いたのか


暗闇に問う

深夜3時の冬空と海

陽はまだ昇らない

僕は真っ黒の深海に

躊躇いもなく溶け込んだ

ご覧いただきありがとうございました。


優しいゆえに、彼女は全てを受け入れた。


誰かに届きますように。

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― 新着の感想 ―
 水のような感受性の悲哀ですね。  土のような乾いた現実、水のように不安な彼女、木のように憤る友人、火のように嗤う世間、そして現実は土のようにまた乾く。五行の理の如くですね。  良識的金言が広まること…
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