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焼き尽くされそうな、七月の早朝

 じりじり、じりじり。


 何だこの、暴力(ぼうりょく)的な暑さ。まだ七月の早朝、しかも屋根のある、バス停の中にいるんだよ? 古いトタン屋根だから、太陽熱も貫通(かんつう)するんだろうか? 

 それにしたって、殺す気か。


 私は座ったまま、部活用の(かばん)の中からタオルを取り出し、(ひたい)に浮いた汗を(ぬぐ)う。

 まあ陸上部だし、汗をかくことには()れている。

 だからって、部活前にかくとは思わないでしょうが。

 私は汗を吸ったタオルを(ひざ)の上に置いて、はあ、と溜息(ためいき)()く。


「……やっぱり、サボればよかったな……」


 インターハイが近いとはいえ、私は一年生。しかも補欠だ。誰も私になど期待してないだろう。土曜日にわざわざ、バスを使ってまで部活に行くことはない。

 それにこんな炎天下で部活なんかしたら、熱中症になってしまうかも知れない。

 うん、そうだ。

 一日くらいサボったって、バチは当たるまい。


「……よし。そうと決まったら──」


 帰ろう。立ち上がりながら、言い掛けた言葉は引っ込んでしまった。

 バス停の中に、男子、しかも陸上部の先輩(せんぱい)が入って来たからだ。


「せ、先輩……!」

「あれ。君もこのバスか。おはよう」 


 小声でおはようございます、と返し、再び座る。

 何しろ、密かに(あこが)れてる先輩なんだ。

 サボりの計画はって? もちろん、却下(きゃっか)だ。


 先輩は、私のすぐ隣に座った。ちょ、近い近い。いや、田舎の小さなバス停だからしょうがないんだけど!

 ただでさえ暑いのに、顔がほてる。

 頭から湯気(ゆげ)も出そうだ。


 そんな私の様子を見てたのか、先輩はそうだ、と言って鞄から何かを取り出し、私の首元に押し当てた。


「ひゃっ……!」

 思わず声を上げ、押し当てられた物を見る。ペットボトルだった。

「ごめん、ごめん。でも顔が真っ赤だから、熱中症になりかけてるのかと思って。それ、飲んで」

「あ、ありがとうございます……」


 手で受け取り、キャップを開けて一気に飲み干す。

 半冷凍状態のスポドリだ。家で凍らせてたんだろう。

 けどこの暑さで中身はだいぶ溶け、飲み頃になっていて美味しかった。


 半分まで飲んだとき。

 いけない、先輩のがなくなる、と思い、先輩にスポドリを押し付けた。


「すみません、こんなに飲んじゃって。先輩も──」


 言いかけて気付く。いや、私が口を付けた物を飲めとか。

 それって、か、間接……!


 先輩は差し出されたペットボトルと、私の顔を交互に見てから、

「……君が良いなら」

と言ってペットボトルを受け取り、残りを飲み切ってしまった。


 私はあの、とかその、とか言いながら、

「……イヤじゃなかったんですか?」

と、何とか意味のある言葉をしぼり出した。


 先輩は照れたように笑いながら、

「──君の後だからね」

そう、答えた。


 クールダウンしたはずなのに。

 また顔が、頭が、……心臓が熱い。


 じりじり、じりじり。


 太陽光が、バス停のトタン屋根に焼き付ける、七月の早朝。

 私はそのバス停の屋根の下で、先輩の言葉と笑顔によって、心も体も焼き尽くされそうだった。

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