公園で不思議な人に出会う
湖でボートに乗る人を眺めたり、小さな売店で売っているお土産用のポストカードスタンドを見たりしながら歩いていると、手入れがされていない草むらで何かを探すが人がいた。
分厚い本を広げたまま持ち、ちぎった草と本を見比べている。
次々と草をちぎっては本と見比べ、時には虫眼鏡でも覗き、首を傾げた。
メガネをかけているのに虫眼鏡を使うなんて、どんな状況?
遠巻きに見ていると、ちぎった草を落としては焦り、手に持った草を口に入れて噛んで不味かったのか口をへの字に曲げて、また草をちぎっている。
こんな不思議な事をしているのはどんなひとなのかしら?
じっと見てみると、色白でメガネをかけた美人だ。
ミルクティー色の長い髪は、三つ編みにして背面に垂らしているので、綺麗に丸みを帯びたおでこと、黒縁のメガネが知的に見えるのに、やっていることがアンバランスでなんだか面白い。
服装も、足首まであるウエストメイクのないワンピースで、それが太い雑草に引っかかりそうで掛からなくて、思わず笑いそうになる。
危ない危ない。みている事を悟られないようにしなきゃ変な人よね。
草むらに入るのに、ロングスカート?
その不思議な光景が何だか面白くて、少し離れたところから、思わず「何か探しているんですか?」と声をかけてしまった。
急すぎたのかビクッとなった後、取り繕うように背筋を伸ばしてこちらを向く。
同じ年くらいだ。
すごく整った顔で、中性的な美人。
「あっ、怪しい人物じゃないんですよ?ちょっと…薬草…じゃなかった。雑草を探しているんです」
しどろもどろな言い訳が面白くて、笑い出しそうになるのを我慢する。
「雑草を探してる?なら、私も探しますよ?」
「本当ですか?でも…見つかるのかわからない雑草を探すのを手伝ってもらうのは申し訳ないです」
「いいの。暇だから。私、今無職で、時間はたっぷりあるの。それに田舎から出てきたから、貴方より草には詳しいはずだもの」
「いいんですか!自分1人では途方に暮れていたんですよ」
表情が表情が明るくなり、ハスキーな声のトーンも上がる。
「どんな草?名前を言われてもわからないから、絵を見せてくれる?」
側まで歩いて行くと、思いの外背が高くてびっくりする。
窪地に立っていたから同じくらいの身長に見えただけで、私よりは15センチほど大きいみたい。
気を取り直して、本を覗き込む。
「この草ね。知ってるわ。ドングリの木の側に生えるの。しかも、あまり日が当たらない所よ」
私が育った地域では『木蔭草』って呼んでいた。
しかし見せてもらった本には古代語で『光を嫌う草』と書いてある。
「僕が調べた限りでは、日影に生えるとしか書いていないけど」
自信なさげに言うが、気になったのは『僕』と言った事だ。
女性じゃなくて、男性だったんだ。
勝手に勘違いしてしまった。
よくよく見ると、首元には喉仏が見えるし、足首までのスカートだと思ったのは、魔法使いのローブだった。
勝手に勘違いしたことに、気まずさを覚えて、ドングリの木を探す。
「あれだわ!」
私が指差す木を見て、男性は困った顔をした。
「ドングリがないのに、ドングリの木だっでわかるのはなんでですか?」
「田舎ではよく見る木なの」
「あっ、あの僕、ドングリアレルギーなんです」
「何それ?聞いたことないけど」
男性の袖を掴み、引きずるように木の木陰を見て回る。
「あった!これだわ」
「本当にこれですか?」
男性が葉っぱに触ろうとするので、ぐっと手を引っ張る。
「触ってはダメ。葉っぱから出る汁に触れると、手荒れの原因になるのよ。1ヶ月手の痒さに悩まされることになるわよ?」
「え?そんな事、本には書いてない……あっ!小さく注意書きがある」
「これは根から掘り起こすんだけど、根っこは光に触れないようにしないといけないのよ。なにか覆うもの持ってる?」
「無いけど、草を暗闇魔法で覆うよ。草の周りだけ夜のように暗くするから大丈夫」
そんな魔法があるんだ!
初めて聞く魔法にワクワクする。
魔法鞄から軍手を出す。
腕を覆えるくらい長くて、分厚い革製だ。
まさか、都会に来て早々に軍手を使うと思わなかった。
「その手袋……」
不思議そうに軍手を見ている。
「都会じゃ売ってないの?農作業用の軍手よ。雑草には、害がある物も多いから、革製なのよ」
「へえ!そうなんだ」
軍手に興味を示す男性に、「何か掘り起こす道具と、これを入れる袋持ってる?」と聞く。
「あるよ」
ローブのポケットから麻袋と、小さいスコップを出した。
「掘り起こすにはコツがあるから、私がやるわ」
「いいの?」
「田舎者の実力を見なさい。それじゃ、魔法で暗闇を作っておいてね」
どうやって暗闇を作るのかを見てみたかったから、手伝うことにしたのだ。
どんな魔法の杖を使っているのかしら?
そこからして興味があるわ。
私が持っている古い教科書には、高度な魔法を使うための杖を自作しましょうと書いてあった。
教科書を見ながら、野原に落ちていた白樺の枝の芯をくり抜いて、魔法馬の抜け毛を入れた杖を作ったが、不恰好だからあまり人前には出したくない。
魔法を増幅させるために作るらしく、材料には魔法を通しやすい硬い素材と、魔法を増幅させるための芯になる素材が必要となっていた。
魔法馬の抜け毛は、厩舎のバイトの時、魔法馬のブラッシングをして抜け毛を集めた。
ここは都会だから、きっと自作なんてしないで買うんだろうな。
素敵な杖屋さんとかあるのかな。
「わかった。じゃあ始めるね」
どんな杖が出てくるのかワクワクしていたのに、男性は何も出さずに空中に手を翳して短い呪文を唱える。
杖を出さなくても魔法を使えるの?
驚きで何も言えない。
「暗闇を作ったよ。掘り起こし方を教えてくれる?」
「茎から、15センチくらい離れたところを、20センチほど掘ります。それから、草に袋を被せて、一気に掘る。ってしたいけど、もう少し大きな袋ないかしら?」
広げた麻袋は思ったよりも小さい。
根っこまで入れるには、90センチくらいの深さの袋が必要だわ。
無いなら、私の魔法鞄から探さないといけないけど、どこに入っているかわからないから時間がかかりそう。
「ちょっと待って」
男性は、ローブのポケットに次から次へと手を突っ込む。
いくつポケットがあるのかしら?
多分10個くらいポケットがあるのだろう。
「魔法のポケット?」
独り言が聞こえたようで男性は苦笑いをする。
「違うよ。心配性なのと、忘れっぽいからなんでもポケットに詰め込むんだ」
ガサゴソと、ポケットの中を探って、大きな袋が出てきた。
長さは2メートルくらいありそう。
「はい」
袋を受け取ると、手早く作業をする。
草の周りをぐるりと掘り、袋を被せてから、底を掘った。
「はい、完了」
「5分で完了!すごいね。君がいないと草も見つけられなかったし、採取も出来なかったよ。ありがとう」
「どういたしまして。運ぶときは、草じゃなくて、根っこの土を持って移動するか、袋の両端を持って移動した方がいいわ。少しでも刺激を与えると色々なところから液が出るから細心の注意が必要よ。2人なら、袋の端と端を持って運べるわね」
「そうなんだ。あのー、今更なんだけど、運ぶのも手伝ってくれる?バイト代出すから」
「本当に?バイト代くれるなら、なんだってやるわ!」
「じゃあ、終わってからその手袋見せてよ」
「いいわよ」
私が袋の先端部分を持ち、男性が根っこの部分を持って2人で運ぶ。
「僕は、シリル・ハリントン。シリルと呼んでよ。君の名前は?」
「私はクリスティーナ・マドロスよ」
「田舎から出てきたって言ってたけど、出身はどこなの?」
「ニドルセント領のハナメイっていう小さな町。領の端でね、辺境伯領に続く道の途中にあるの」
「辺境伯領の近く!それはかなり遠いね」
おしゃべりをしながら公園を抜ける。
魔法省とは反対側の出口から出たようだ。
「大きな公園よね。都会にはこんな大きな公園があるなんて驚きよ」
「東に4キロ、北に1キロの広さがあるんだよ。だから、自生している植物も多くてね。よく探しにくるんだ。ほとんど見つけられないけど」
シリルは力無く笑った。
「売っているところはないの?」
「ないよ。僕が探している草は、いにしえの魔法のレシピで使われていた草なんだ。だから需要がないんだよ」
「そっか。大変ね」
公園から出て10分ほど歩くと、「ここだよ」と大きな門を指さされた。
『サンドロペ魔法学校』と書かれた門の奥には、大理石で作られた、3階建ての建物が見え、その奥には更に高い建物の屋根が見える。
サンドロペ魔法学校の教科書は持っていないわ。
ここって有名な学校なのかしら?
もしかしてシリルはここの先生?
「魔法学校って…シリルは先生なの?」
「違うよ。学生だよ。大学部の研究生。それでね、言いにくいんだけど、ここは貴族の子息しかいないんだ。だから、本当に申し訳ないんだけど侍従のフリをしてついてきてくれるかな?」
中を見るにはそれしかない!
学校ってどんなところなのかしら?
しかも、貴族しか通えない学校の室内なんて想像もつかないから、願ってもない幸運だわ。
「それくらい簡単よ」
貴族に仕えたことは無いけど、後ろについて金魚の糞みたいに歩けばいいんでしょ?
「ごめん」
申し訳なさそうなシリルの後ろを、静々と歩く。
毛足の長い絨毯と、壁に掛かった絵画を横目で見るが、絵を見たことがないから、すごい絵なのか判別つかない。
よそ見すると、田舎者だとバレるから、黙って歩かなきゃ。
しかし、大きな麻袋を2人で持っているのは目立つようで、みんながじっと見て、ヒソヒソと話す。
誰も着ていないような古いデザインのドレスに、大きな麻袋を持ってるからだわ。
悪口を言うなら言えばいい。
私は2度とこの人達と会うことはないもの。




