大都会での仕事探しは想像と違って大変だった
きっと上手くいくわ。
移転魔法の装置の座席に乗り込み、シートベルトをつけた。
中を通過するのに15分ほどかかる。
キラキラと光る魔法装置の中をワクワクしながら眺める。
生活魔法以外の魔法に触れるのも、魔道具に触れるのも初めてだ。
『到着しました』
アナウンスが流れて、ベルトを外す。
移転魔法の出口を出ると、びっくりするくらいの人がいた。
先が見通せないほど人が歩いている!
驚きのあまり、立ち尽くしてしまった。
ジーラさんは王都の端に出ると言ってたけど、これが端なの?
お祭りだってこんなにたくさんの人、見たことがない。
どれくらい道を眺めていたのかわからないけど、宿屋に行くことにした。
ジーラさんから、宿を取る場所などには気をつけるように言われて、宿屋の候補のメモを貰ったけど、1軒目、満室。
2軒目、オーナーが変わっていた。
ジーラさんに教えてもらった5軒の宿を道に迷いながらも回ったけれど全滅で、どうしようかと途方に暮れていた時、たまたま目の前の古い宿が目に止まって飛び込んでみた。
「空いてるよ」
と言われて、チェックインしたけれど、なんだか陰気臭くて、あまり好きじゃない。
「長期滞在?掃除は週に1回だから」
あまり清潔じゃない部屋を掃除して、自作の魔法鞄から服などを数着出して、クローゼットにかける。
部屋が借りられるまで、なんとか我慢しなきゃ。
まずは、職業紹介所に行こう。
土産物屋で王都の地図を買って、近くの職業紹介所に行き、希望を持って受付に並んだ。
20分後、順番が来たので、ワクワクして窓口の女性を見る。
「いらっしゃいませ。求人の登録ですか?それなら、こちらの紙にお名前などをお書きください」
ライトブルーの可愛らしい制服を着た、同じ歳くらいの女性を見て、更に気持ちが高鳴る。
渡された紙に、記入しようとして、フリーズする。
「あの、出身校や専攻って?」
質問すると、女性は少し顔を曇らせた。
「この窓口は、専門職の求人窓口ですが…」
「専門職に就きたいので、この専攻って何か教えて欲しいんです」
笑顔で聞き返すと、困惑した顔は呆れた顔に変わった。
「専門職に就くには、どこの学校を出て、どんな資格を持っていて、専門知識はどんなものがあるのか記載してもらわないと、紹介できる仕事がありません」
「卒業した学校はないですけど、自分で勉強したから何でもできますよ!」
胸を張って答えるが、女性は無表情になった。
「中等部はでていますか?」
「いえ」
学校は出ていないけど、11の教科書まで終えてある。
「それなら、無学歴ですね。では、地下になります。そちらに行ってください」
よくわからないけど、言われた通り地下に続く階段を降りると、沢山の人がいて、壁に求人が貼ってあった。
ここは、地方出身の学歴がない人の求人スペースで、荷物運びなど簡単な仕事しか無いようだ。
それなら自分で探してみよう。
地図を見ながら街にある魔道具屋さんや、古魔道具屋さんなど訪ねる。
仕事はありませんか?と聞くけど、「うちにはないね」とそっけない対応をされた。
毎日色々なお店を回ったけど、魔道具関係の仕事はない。
弟子入りをお願いしても、軽くあしらわれて取り合ってもらえない。
やっぱり、経験のない仕事は難しいのかもしれないわ。
まずはダイナーで働いていた時のような仕事を探そう。
気持ちを切り替えて接客業の仕事を探すけど、それもない。
驚いたことに、掃除も皿洗いも魔道具が補助してくれるのだ。
モップを濡らして、力を入れて水拭きなんてする必要がない。
王都は色々な魔道具で溢れていて、人がやる簡単な仕事が少ないんだわ。
オープンキッチンから見える料理用魔道具だって、ダイナーで使っていたものと全く違う。
途方に暮れて、広場の噴水前に座る。
気がつけばハナメイを出て、もう二週間も経ってしまったけど、私は一歩も進んでいない。
毎日変わらない都会の景色を眺める。
人が溢れていて、毎日お祭りみたいだけど、これが都会の普通。
田舎にいたんじゃ、掃除用魔道具なんて見た事もなかった。
街を歩く人の服装や持ち物、黒塗りの馬車や、高級そうな看板。
どれも田舎にはない物だわ。
田舎じゃ、農作業着に飾りっ気のない洋服。
ダサいダイナーの看板と制服。
馬車は荷馬車がほとんど。
そこから抜け出したくて、王都に出てきたのよ。
自分を奮い立たせ、目の前の大きな教会をじっと見る。
お祈りをして、これからの未来について……って!
そういえば、ジーラさんは『困ったら、グランドグリーン教会に行って名刺を出しなさい』と言っていた。
ポケットの地図を出して、現在地を見ると、運のいいことに目の前に建つのが、グランドグリーン教会だった。
急いで、中に入り、司教様への面会をお願いする。
ジーラさんの名刺を見せると、司教様は名刺を見て笑顔を見せた。
「昔、ジーラ様に助けていただいたことがあるんだよ。本当に何でもできる素晴らしい方で。今は荷馬車で配達のお仕事をしていらっしゃるのか。あの方らしい」
そう言った後、私を見た。
「ジーラ様の人を見る目は素晴らしい。その、ジーラ様の推薦とあらば、私たちも力になろう。ただ、マドロスさんの希望する職業は今はまだ難しい」
「何故ですか?」
「職人に弟子入りするなら、最低でも中等部の卒業証書がないといけない。工房の職人になりたいなら、専門課程の高等部を卒業していないと難しい」
「中等部や高等部ってどうやって卒業するんですか?」
「学校に通うのだよ。7歳から12歳までが初等部、15歳までが中等部。つまり、8年間学校に通わないといけない」
「そんなの無理です」
少し不貞腐れる私を、司教様は優しくなだめてくれる。
「マドロスさんはどうやって文字や計算をおそわったのかね?」
「読み書きや計算は、農作業の合間に地域の教会で習いました。近くに学校なんて無かったんです」
「地方によっては、教会も無くて、文字を読めない者もいるんだ。魔法を必要とする仕事は、大抵が文字を読んだり、計測したりと知識が必要な仕事だ」
「確かに、それができなければ魔道具は作れませんね」
「わかったかな?難しい高度な仕事だからこそ、学歴を聞いてくるんだよ」
「そんな…。私は魔道具製作には関われないんでしょうか」
どうしても、魔道具に関わる仕事がしたい。
「今は無理かもしれないけど、将来はわからないよ」
「何かいい方法があるんですか?」
「あるよ。知識認定試験を受けるといいよ。これは、学校がない地方出身者の学力を証明するもなんだ。ただ、問題なのは、次の試験は8月の上、受験料はかなり高い」
「その試験を受ければいいんですね?」
「そうだけど、かなりの知識が必要になる。そこで提案なのだが、今、魔法省で清掃員を募集していてね。魔法を近くで見れるし、うまくいけば職員専用の図書館の利用許可もおりるかもしれないから、受けてみないか?」
「でも魔道具が掃除してくれるんじゃないんですか?」
王都では、掃除用魔道具が掃除をしてくれるのが当たり前のようだもの。
「掃除魔道具は床に落ちた物を全部履いてしまう。だから、細かい作業をする工房や、高級ホテルなんかは、掃除をする人を雇っているんだよ」
「魔法省かぁ。その仕事、受けます!」
「履歴書を書いて、すぐに送るといい。応募者の中から、面接で決まるけど、掃除が中心だから、応募者はそんなに多くないと思うよ」
司教様達に手伝ってもらいながら、初めて履歴書を書いた。
「明日の10時に魔法省に行きなさい」
嬉しくて、その日は眠れなかった。魔法省ってどんなところだろう。
浅い眠りで目覚めて、気合を入れる。
早く仕事を決めて、この陰気な安宿から出なきゃ。
掃除は得意だもの。
10時に遅れてはまずいと思い、早くに宿を出て、歩いて魔法省に行く。
1時間かけて歩き9時に到着した。
早く来すぎたかもしれないと思いながら、受付を済ませて控室に行って驚く。
大きな部屋には、すでに沢山の人がいたのだ。
受付番号が302番だったのは、すでにこんなに沢山の人が受付を済ませていたからなんだわ。
司教様は、応募者は少ないって言っていたのに。
何故こんなに多いの?
しかも、多くの人が質のいいドレスを纏い、バッチリお化粧をしている。
日付を間違えたかしら?
今日って、清掃員の募集よね。
綺麗な服を着た女性達はおしゃべりをしながら、窓の外をじっと見ている。
視線の先にあるのは、単なる渡り廊下だ。
廊下に興味があるなんて変わってるわね。
都会の人ってよくわからないと思っていたら、窓辺に集まっている女性達が急に歓声を上げた。
「キャー」
「ステキー!」
黄色い声を上げて、皆窓の外に手を振っている。
誰が通ったのかしら?
あんなに熱狂する相手って誰だろう?
やっぱり王様?
どんな顔していて、そもそも何歳なんだろう?
人垣で何も見えないからよくわからないけど、こんなに沢山の人が求人に集まるなんて思っていなかった。
これが司教様の言う『そんなに多くない』人数なの?
10時が迫ってくるに連れて人が増えていった。
きっと1000人くらいいそうだ。
部屋の隅で様子を伺っていると、魔法省のローブを着た男性が入ってきた。
「それでは面接を始めます。応募者多数のため、3次面接まで行います」
一次面接は集団面接だった。
綺麗なドレスの人達の間に立ってみて、初めて気がつく。
私って、田舎者そのものだわ。
垢抜けないドレスに、ノーメイク。
どうしよう、今すぐどこかに隠れたい。
そんな状態で面接が始まったが、綺麗なドレスを着た女性達は、「掃除の経験は乏しいがメイドの仕事を見てきた」だの、「メイドに教わる」などと答えている。
高そうなフワフワのドレスに、バッチリしたメイク。
髪には高そうなアクセサリーをつけた、どう見てもどこかの貴族のお嬢様が何故、清掃の仕事に就きたいのかしら?
全くもってわからない。
一次面接が終わり、「302番」と呼ばれた。
二次面接に進めるようで、別室に行くと、年齢層は幅広く、高そうなドレスを着た人は誰もいなかった。
誰かがおしゃべりする話が聞こえてくる。
「あのお嬢様方は貴族のご令嬢で、魔法省の第一魔法師団がお目当てなんですって。みんな背が高くて、カッコいいでしょ?何とかお近づきになりたくて応募してきたらしいわ」
「だからって、お掃除の仕事が貴族のお嬢様に務まるのかしら?」
「掃除魔道具を使うって勘違いしているのかもよ」
「そんなわけないのにね」
「あれじゃ落ちて当然よ」
確かに、お掃除の経験がないなら一次面接で落ちて当然。
ただ、ご令嬢達がいなくなっても、数百人は二次面接に進んでいる。
二次面接は、今までの具体的な職歴などを聞かれた後、落選を告げられた。
帰り際、控え室の前を通ると、三次面接に進めたの人達は、経験豊富そうな外見の人だった。それでも数十人はいそうだ。
地方のダイナーの勤務経験では、たいした職歴にもならないみたいだ。
王都に来れば、魔法を使った仕事が沢山あって、やる気さえあれば採用されると思っていたのに。
肩を落として、門を出る。
これからどうしようかと周りを見ると、向かい側に大きな公園があることに気がついた。
『戦勝記念ランドール森林公園』と入り口に書いてあった。
何気なく公園の中に入ってみて、標識を見る。
立て看板には、ボート乗り場や、ドッグランなどと書いてある。
ボート乗り場があるということは、かなり広い公園なんだわ。
気持ちを切り替えるために公園に足を踏み入れる。
芝生に座って空を眺めて、こっちに来てから空を見ていない事に気がついた。
都会の空って狭いのね。
ビルがそびえ立ち、開けた空が見えない。
泣きたい気持ちが込み上げてくるけど、もうあの町には戻らないという決意を思い出す。
自分の未来は自分で決めるもの。
またあの古ぼけたダイナーの仕事に戻りたいの?
絶対にイヤ。
…もう一度、仕事を探そう。
再度、職業紹介所に行ってできる仕事を見つけて、そこからだわ。
気持ちを切り替えて立ち上がり、出口へ向かって歩き出す。




