蛇毒草
座り込んでいたシリルは立ち上がる。
「さっきまでの不調が嘘みたいだ。僕はもう大丈夫だけど、このナンテンみたいな草、みんな持っていたよ。ということは、全員熱が出るってこと?」
「それだけじゃないわ。人によっては後遺症も出るし、時間が経ってから薬を飲んでも水ぶくれの跡が残る人だっている。最悪の場合は死ぬことだってあるのよ」
「今まで、魔法草や薬草にそっくりな雑草が植えられていて、それを使って薬を作り失敗して、時間内にゴールできない事はよくある話だけど、毒草が紛れていた事なんて無いよ。ほら、やっぱりみんな持っている」
シリルの指摘で、アークライト侯爵令息とワインバーグ伯爵令息は周りを見た。
「あの赤い実のついた草が危険なのか?」
アークライト侯爵令息は事の重大さに気がついてくれたようだ。
「そうです。すごく危険なんです。あれは薬草にそっくりな毒草です。みんなが危険に晒されています。でも…誰も聞いてくれなくて」
自分には何もできない、そんな絶望感が押し寄せてきて、何もかも投げ出したい気持ちにもなるけど、それはダメ。
「俺たちに任せろ」
アークライト侯爵令息は、私の肩をポンポンと叩き、ゆっくりと歩き出した。
その宝石のようなコバルト色の瞳はキラキラと光って見える。
「あの草を持った手で触られると、僕たちも危険なんだね?」
ワインバーグ伯爵令息の質問に、「はい」と答えると、チョコレート色の手が私の頭を撫でてくれた。
「毒のある魔物と対峙している僕たちだよ?任せて」
それから2人は高く飛び上がりる。
「この会場には毒草がある。オレンジ色の実をつけた草が毒草だ。今すぐに作業をやめて、解毒剤を作ろう!」
上空から大声で叫んでくれたが誰も話を聞かない。
きっと妨害だと思ってるんだわ。
「ブライアン・アークライト侯爵令息様が言っている事だから信じたいけど」
「きっと妨害だろ?」
会場がざわつく。
誰も信用してくれないので、作業をやめる人はいなかった。
繰り返し叫ぶが、誰も話を聞かない事に2人はムッとして、100メートルほど上空にある小さな何かを攻撃した。
けたたましくブザー音が鳴り響き、空全体が赤く点滅する。
薬の調合中だった魔法薬学科の学生たちは驚き手を止め、他のチームとの攻防を繰り広げていた魔法騎士学科の学生たちは、動きを止めて空高くにいる2人を見上げた。
「何故、緊急ボタンを押した!赤チームは棄権するのか?」
黄色チームが煽るが、2人は無視している。
『赤チーム、棄権ですか?』
スピーカーを通したような女性の声が、会場に響く。
「違います。緊急事態です。医師または、医療鑑定士を今すぐに派遣してください。沢山の魔法薬学科の学生が毒に侵されています。モニターで確認してください」
『わかりました。しばらくお待ちください』
その間も緊急事態を知らせるサイレンが鳴っている。
『開始からの映像はリアルタイムで配信中です。ここまでの画像を確認しました。危険はないようですが、念のため医師を派遣します。派遣は20分後です』
20分?
間に合わないわ。
「シリル、どうしたらいいの?」
「考えるよ…」
気持ちばかりが焦って周りが見えていなかったので、いきなり肩を叩かれて驚いて変な声を出してしまった。
振り返るとキャロルだった。
「ごきげんよう、ハリントン子爵令息様」
流れるようにシリルに挨拶した後、キャロルはチラッと周りの様子を伺っている。
それから小さな声で、「緊急事態なの?」と聞いてきた。
「ランドール男爵令嬢、違うチームの陣地に入ってきたら攻撃を受けるよ。早く戻らないと、気付かれて攻撃を受けたら失格になるよ?」
「そうなんですけど、私は雑用係だから失格になってもあまり影響がないので、偵察に送られたんです」
ケロッとして答えるので、私は釜いっぱいの薬を見てから、キャロルの手元を見る。
やっぱり小さな水ぶくれができはじめていた。
「みんな、ナンテンだと思って採集してきたオレンジ色の実は、強い毒を持つ毒草なのよ。キャロルも触ったわね?手に水ぶくれができているわ」
私に言われて、キャロルは自分の手を見て驚く。
「本当だわ!気が付かなかった」
キャロルにも薬を渡して、手に塗り込んでもらった後、飲んでもらった。
「想像以上にピリピリするけど、なんだかスッキリしたわ。疲れが出てきて体調が悪いのかと思っていたのよ。熱っぽい感じもしていたんだけど、気のせいだと思っていたの」
「ランドール男爵令嬢、ふらつかなかったの?僕はすぐに立っていられなくなったよ」
「私、体だけは頑丈なんです。それよりも、この薬を投与しないと熱が出るの?」
「熱が出るし、後遺症が出たり水ぶくれの跡が残ったり。最悪、死に至るわ」
「嘘!怖すぎる…。だから、緊急ボタンを押したのね。このルートを作った教授達も、この毒草には気がついていないんだわ」




