魔法薬の分離
粉薬を分離する方法って他にあるのかと考えて、薬を手に取ったり置いたりしていた。
いい方法が思い浮かばない。
そんな私を見て、魔法騎士学科のブライアン・アークライト侯爵令息が声をかけてくれた。
「焦ってどうしたんだ?」
「あっあの…その。緊急事態で、みんなが危ないんです。特効薬を作りたいけど、薬草がもう無くて、これを分離して魔法草を取り出したいけど、自分じゃ出来ないので、どうしていいのかわからないんです」
「よくわからないけど、つまりこの薬から特定の魔法草を取り出すんだな?」
「はっはい!でも、その…分離が…」
「それは、それぞれの得意分野を合わせればできるよ」
自信に満ちた顔で答えて、少し離れたところにいるクライド・ワインバーグ伯爵令息を呼ぶ。
「クライドは、この粉薬を薬草ごとに分離できるだろう?」
「可能ですよ、いつものように。ね?」
ワインバーグ伯爵令息は私を見てウインクしながら、何故か私に同意を求めてきた。
「はっ。はい…ぃ?」
挙動不審に返事をすると楽しそうに笑う。
「分離が成功したらどうすればいいんだ?」
アークライト侯爵令息は、箱の中に綺麗に並べてある粉薬の包み紙を見た。
すぐにでも使えるように、薬包紙に1回分ずつに小分けして包んである。
一度使った薬包紙は使えないから、新しいものを出さなきゃ。
「この薬包紙の上に乗せてください」
未使用の大きな薬包紙を作業台の上に置く。
「わかった」
答えると同時にアークライト侯爵令息は、左手を真っ直ぐ突き出し掌を上に向けると、小さな竜巻が起こった。
先ほど作った一回分ずつに分けられている粉薬の包み紙が魔法の力でゆっくりと開き、中の粉薬が竜巻に巻き込まれていく。
手のひらサイズの竜巻は、粉薬を巻き込みながら、1メートルくらいの大きさになった。
アークライト侯爵令息とワインバーグ伯爵令息は、右手の人差し指を竜巻にかざし、優しくクルクルと回すと、指先からキラキラ光る星屑が出てきて、竜巻に巻き込まれ、その度に速度を上げていく。
2人の指先からでる光の粉が竜巻に巻き込まれて、竜巻全体が光り輝く。
「始めますね」
ワインバーグ伯爵令息は、チョコレート色の綺麗な人差し指を竜巻に向け、指を上下に動かしていく。
何度も何度も指を上下させた。
すると、竜巻が断層のように色分けされていく。
高速回転が遠心分離機代わりで、薬草や魔法草の種類毎に分かれているんだ。
すごい魔法!
あまりの美しさに見とれていると、細かな粒子の粒がキラキラと光りながら、私が広げた薬包紙の上に砂時計の砂が落ちるかのように落ちていく。
紙の上に乗ると光を失い、元の色に戻る。
キッチリと混ぜられた粉薬が、朱色、ライトグリーン、栗色など、二十種類の薬草や魔法草に綺麗に分離された。
魔法の精度の高さと美しさに息を呑む。
薬草毎に小さな砂状の山が出来上がった。
「これで分離できたよ」
ワインバーグ伯爵令息が薬包紙を見た。
「ありがとうございます!」
お礼を言って2種類の魔法草と3種類の薬草をシリルが調合中だった釜に入れて、水薬を作っていく。
火力を一定にして同じ温度を保ち、魔力を込めながら10分間かき混ぜ続けないといけない。
時間との勝負なのに!
でも、手を抜くことはできない。
魔力をこの薬全体に行き渡らせるために、自作の杖を出して、鍋の真上から魔法を送り込んでいく。
魔力を一定に保ち、同じスピードで慎重にかき混ぜていく。
焦っちゃダメ。
自分に言い聞かせ続けてキッチリ10分で、単なる水だった物が、どろっとした質感になり、投入した物が全部混ざりきった上に結合してクリーム色に近いオレンジ色になった。
できた!
拙い魔法で釜を冷やそうとすると、アークライト侯爵令息が「私がやろう」と言って、氷魔法で冷やしてくれた。
急冷したおかげで、透き通った紫色になる。
成功だわ。
シリルを見ると、さらに悪化していた。
手が真っ赤になっている。
きっと水疱ができるのは時間の問題なんだろう。
1秒を争う状況だ。
「手を出して」
シリルの手に薬を乗せて、両手の肘から指先まで塗り込んでもらった。
私が触ると、蛇毒草の毒が私の手にもついてしまうから、塗り込んでは上げられない。
みるみる赤みが引いてくる。
「体調はどう?」
「少しふらつくけど、この塗り薬を塗ったら少しラクになったよ」
弱々しい声を聞いて、かなり体力が奪われている事を感じる。
「きっと熱が出始めてるのよ。皮膚から毒が体内に入り込んでいるから、これも飲まなきゃいけないわ」
容器に水薬を入れてシリルに渡す。
「舌がピリピリするけど、我慢して飲み込んで!すぐに」
「わかったよ」
見たことがない薬を飲むように言われたので、少し躊躇っていると、アークライト侯爵令息が威圧的な目になった。
「明らかに赤みが引いて水ぶくれが無くなったんだ。薬の効果だろ?君も魔法薬学科の学生なら、躊躇せずに飲むべきだ。それとも君はこの薬の効果を信じないとでも?」
圧が凄すぎて、シリルは返事をすることができずに首を横にふる。
「じゃあ早く飲めよ」
ワインバーグ伯爵令息に迫られて、コクコク頷く。
そして、意を決したように目を瞑りぐいっと飲んだ。
小刻みに震えている。
「想像以上にピリピリする。あっ、でも急に体調が良くなってきた」
声にハリが出てきたので、シリルのおでこを触る。
「熱もないし、青白い顔も元に戻ったわ。よかったー。シリルが元気ないと、どうしていいかわからない」
座り込んでいたシリルは立ち上がる。




