間違いに気が付いて
立て看板には、『攻撃により薬の精製を妨げても良い』と書いてあるので、騎士学科の学生はシールドを張り、攻撃チームと防御チームに別れて活動を始めた。
薬草採取の学生は攻撃対象にしてはいけないルールのようで、魔法薬研究学科の学生達が薮に入り、野草や魔法草を探しはじめる。
私はシールドの中に人数分の釜をセットして、学生達が戻ってくるのを待つだけだから気持ち的にはかなり余裕だ。
林の中にはどんな植物が自生しているのかしら?
植物採取って、早く見つけられる人と時間がかかる人がいる。
植物について考えている間に、早く戻った学生は早速作業を始めだした。
薬草を洗ったり、乾かしたりと今から作業が増える。
薬草によっては洗う温度が違ったりするので、学生達が採取してきた薬草を見ると、オレンジ色の実がついた枝葉があった。
あれ、ナンテン?
嫌、違うわ。もしかして毒草じゃないかしら?
ナンテンの葉っぱと違って、裏が毒々しい紫色をしていて、実が少しだけオレンジ色っぽい。
というか、朱色が強いという方が正しいかもしれない。
私の行動を逐一みている人はいないので、まだ学生が戻ってきていない作業台を陣取り、ローブの中にある魔法鞄から古い魔法薬の教科書を出して、素早くページをめくった。
あったわ!
やっぱりナンテンじゃないわ。
毒草に分類されている。
採取した時は何ともないが、20分ほどすると皮膚に水ぶくれができて、その後爛れてくる。
高熱が何日も続いて、体力がないと死に至る事例もある。
また、毒に晒されている時間が長いと、爛れた跡は治らない事も多い。
治療は早ければ早いほど重症化しないから、すぐにでも治療が必要。
すごく注意喚起されているわ。
ニドルセント領ハナメイにいる時、この草を一度だけ見た事がある。
猟師さんに狩を教わっている時に見つけたのだ。
あの時、「自生しているところを滅多に見ない毒草だから、何気なく触ってしまうかもしれないが覚えておけ。本当に危険だから近寄ってはいけない」と教わった。
その時、どんな危険な草なのかは教わらなかったけど名前は蛇毒草だと聞いた。
その後、この教科書に出てきていたので、うっすらと記憶していたけど、まさかここでこの毒草に出会うなんて。
『蛇毒草』
名前の由来は毒蛇に噛まれた時の特効薬が効くから。
教科書には治療薬の作り方も出ている。
今すぐに作らなきゃ。
でも問題がある。
あの草の危険性を伝えようにも私の話を聞いてもらえない可能性が高いのに、ほとんどの学生が採取してきている。
誤解されてもいいから正しく伝えなきゃ。
「みなさん、聞いてください!オレンジ色の実が付いている草は、毒草です。すぐに捨ててください。急いで解毒剤を作りましょう」
大声で叫ぶけど、ベルツ研究室の学生達は、皆鼻で笑う。
「雑用係は口出し無用よ」
と言って、取り合ってはくれない。
しかも、私に聞こえるかのような大きな声で「ナンテン見たことないのかしら?無知って困るわ」と言うのだ。
やっぱり皆、話を聞いてくれない。
そうだ、シリルなら私の話を聞いてくれるわ。
シリルは、誰よりも早く採取を終えて、すでに調合を始めていた。
「シリル様、今すぐにお伝えしないといけないことが」
「大きな声で叫んでだけど、何かトラブルでもあったの?」
シリルの横の作業台には薬草が種類ごとに置いてある。そこに蛇毒草があった。
ということはシリルも触ったんだ。
「その草、ナンテンじゃないわ。毒草よ。早く処置しないと大変な事になるの」
「どう見てもナンテンだよ。どうしたのクリスティーナ?」
「本当に違う草なのよ。葉っぱの裏側を見て。紫色のはずよ」
私に指摘されてシリルは裏を見る。
「本当だ。でもこんな品種なんじゃないの?」
「違うの!毒草なの。早く処置しないと皮膚が爛れて、熱が出るわ。早くしないと…」
「課題に毒草が紛れ込ませている事はよくあるよ。でも、これは毒じゃないよ?」
そう言いながら、作業を進めていく。
シリルの手が心なしか赤くなってきた。
「シリル!皮膚が爛れ出したら本当に大変なのよ!」
蛇毒草を投入されないようにシリルの腕を掴む。
ここまで釜に入れた薬草は、治療薬の作り方と同じだから、ここからの作業を引き継いで薬を作りたい。
「お願いよ。私の話を信じて欲しいの。もしも、私が間違っていたら私はどんな事でもシリルの願いを聞くわ。だから、この釜の続きの作業を私にさせてくれない?」
「……わかったよ。クリスティーナがそんなに言うなら聞くよ」
シリルは釜から離れたので、その続きの作業をする。
まず、先ほど作った粉薬を出して、すりつぶした薬草から特定の薬草を取り出す作業をしないといけない。
「シリル、この薬を調薬前に戻せる?混ぜたものをそれぞれの薬草に分けて欲しいの」
「分離するってこと?」
「そう。少しでも他の薬草が混ざっていると特効薬が完成しないのよ」
シリルは難しい顔をする。
「完全に分離するのは、遠心分離魔道具を使わないといけないし、使っても数時間がかかるよ。簡単な分離なら魔法でできるけど、完全分離はできないなぁ」
粉薬をじっと見る。
「混ぜたものを分離したことがなかったから知らなかったわ。そんなに時間がかかるのね」
他にいい方法はないかしら?
焦りばかりが募る。
打開策を見つけられずにいると、シリルが地面に座り込んだ。
「熱が出てきたのね」
シリルに濡れたタオルを渡す。
「なんか体調が優れないんだけど。昨日悪いものでも食べたかな?」
「蛇毒草のせいよ!」
「え?そんなはず…」
力無く笑うシリルはおでこに当てた。
なんとかして助けなきゃ。




