クリスティーナの装備品
「あの、質問なんですけど」
私の声に、全員がこっちを向いた。
「質問?今ここで?」
「はい」
視線が痛いけど、質問を続ける。
「ここから弓矢を放ったら、矢はシールドを通過しますか?」
「通過するよ。でも誰も弓も矢も持っていないし、作る材料も時間もないけどね」
騎士学科の男子学生がイライラを抑えながら言った。
「ありがとうございます」
笑顔でお礼を伝え、素早くローブの下に隠し持っていた背中の弓矢を取る。
クサントスの奥に見える上半身は女性だが下半身は蛇の魔物に狙いを定めた。
クサントスもこの怪物を狙っているようだが、ここにいる全員がクサントスに気を取られて気がついていない。
矢は10本ある。
怪物2体は、向かい合っていて、お互いを威嚇しているようだから、動いていない。
動き出したら狙いを定められないから、すぐに矢を放った。
下半身のヘビの部分を狙うが外す。
上半身に狙いを変えて、間髪入れずに2本目を放つ。
見事腕に命中した。
3本目を放つと、蛇の尾に刺さった。
怪物は声を荒げるが、その隙にクサントスが怪物を仕留めて、どこかに持ち去って行く。
多分、縄張りに持ち帰って食べるのだろう。
息を整えて、弓を背中の筒に仕舞う。
「まさか、デルピュネーもいたとは!君よく気がついたし、弓を持っていたね」
あの怪物、デルピュネーっていうんだ。
「今まで、武器を所持していた魔法薬研究学科の学生に出会ったことがないから驚いたよ」
魔法騎士学科のチョコレート色の肌に、黄金の瞳をした学生が話しかけてきた。
「君、凄い腕だね。この距離から弓矢で仕留めるなんて!それに社交会では魔法銃での鹿狩りが流行っていて、弓なんて使う人見たことないから興味深いよ。もしも銃なら、すごい音がするからこちらの場所を教える事になって危険だったけど」
「イヤ、あの…田舎者なので。それに私は平民で、雑用係なんです」
「能力に貴族だとか、そうじゃないとか関係ないよ。俺も、弓は使ってみた事があって、難しい事はよくわかっている」
私の前まで来て、右手をそっと握られると、ゆっくり傅き手の甲にキスを落とした。
きっ…貴族って!
心臓が口から飛び出そうだし、顔から火が出そう。
全身から汗が出て、どこを見ていいかわからない。
綺麗な顔のこの男性は私の目をじっと見ているのにも耐えられない。
パニックで発狂寸前になりそう……。
「そこまでにしろ。クライド・ワインバーグ。どこでも女性に手を出そうとするのはやめろ。お前の父上、ワインバーグ伯爵から泣きつかれるのは勘弁だ」
言葉で制止してくれたのは、ブライアン・アークライト侯爵令息、魔法騎士学科のリーダーだ。
「はい。わかりました」
睨むアークライト侯爵令息を見て、私の手を握るワインバーグ伯爵令息が手を離してくれた。
短い時間だったけど、すごく長く感じた。
背中の汗が止まらない。
硬直した体から少し力が抜けたが、ワインバーグ伯爵令息はこちらを見てウインクする。
「今度、デートしようね」と耳元で言って、魔法騎士学科の学生達のところに行った。
耳にかかった吐息で今度は耳が熱くなる。
ワインバーグ伯爵令息、美しすぎだし、女性に慣れすぎだわ。
まだ心臓がバクバクしている。
体が熱くて、思わず手で顔をあおぐ。
これが自然にできるのだから貴族社会って恐ろしい。
ゆっくりと呼吸をして、いつもの自分に戻ろうとすると、ローランド伯爵令嬢がこちらを睨んでいるのが視界の隅に写った。
あの視線には気が付かなかったフリをしよう。
「シールドを解除して、警戒しながら進むぞ」
ブライアン・アークライト侯爵令息が抑え気味の声で皆に周知する。
この後はオオカミに出会ったが、魔法騎士学科の学生が攻撃をして先に進む。
森を抜けると、チェックポイントだ。
既に緑チームと黒チームが課題に取り組み始めていた。
課題は1メートル四方のヘドロの中から探せとなっている。
赤チーム専用の箱の前に立ち、見た事もない不思議な魔道具で一枚の紙を取り出した。
シリルにこっそり聞き、農作業用の魔道具だと教えてもらう。
乾燥魔法だと、紙も乾燥して取り出せないから、単純な魔法では課題を探せないようにしているようだ。
課題は『気管支炎に効く薬と、破傷風薬。それから、痛み止めを作る事。必ず採取した草を二種類以上使う事。出来上がった薬の完成度が高いチームにポイントが後から加算されるが、下位3チームにはポイントは入らない』
山の中腹にあたるこの場所は、草むらになっていて、探せば沢山の魔草や、薬草があるはずだ。
「どんな時に、野草を使って気管支炎に効く薬を作るのかしら?ちょっと不思議な設定じゃない?」
シリルに聞く。
「過疎の村を通りかかったら、病気が蔓延していたとかじゃない?国中を回る役人とかになるとあるらしいよ」
コソコソと教えてもらい、ふーんと納得したフリをする。
けど、あまり納得していなかった。
辺鄙な地域の小さな町出身の私は知っている。
薬師や医師がいなくても、口伝えに伝わる薬があるもの。
未知の病気じゃない限り大丈夫だけど、これは課題だから。




