まさかの事態
運営側が用意している器材は、古典的な物で、装備品になければ、時間がかかり課題がこなせない。
課題に出される薬は、粉や液体、キャンディ型などその時によって違うから、これだけでも沢山の装備品を持ち歩かなければならないらしい。
しかも、他チームからの妨害などで回復薬などを使用しなければならない場面もあるらしく、それを予想してここで作成する。
夏季大会で使用する魔法薬を持ち込むのはルール違反で、失格になるらしいので、ここで作らないといけない。
いつ何時に始まるかわからないから、何を手に持っているのかはその時の運も関係するらしいが、私が大量に薬草が入った箱を持っていたので運が良かったらしい。
「はじめに薬を作ってから移動するのが一番効率がいい」
そう言われたので、急いで釜の準備やすり鉢の準備をする。
雑用係である私は魔法薬調合の役割分担の外にいるのでいつも通りだけど、学生たちは焦っているみたいだ。
「陣地を作るから、シールドを張るよ」
魔法騎士学科の学生が陣地を囲む。
ここで、他陣営を攻撃して、課題阻止をするチームもあるらしいので、皆ピリピリしている。
早速、数人の学生が私が持ってきた乾燥薬草とマンドレイクの葉で、薬を調合していく。
私はちょっと部外者気分で楽しくその様子を見ていた。
すると、黄色のビブスをつけた学生が攻撃を仕掛けてきた。
他のチームからの攻撃って本当にあるんだ!
シールドで防ぎながら、反撃している様子を間近で見て、すごく興奮する。
しかも野生動物も多い地域なのか、凶暴な魔物の足跡を見つけて、どうやって回避しながら移動するか騎士学科の学生たちは議論を始めた。
その横で、ベルツ研究室の学生達は複数の薬を手分けして作り、粉薬は計りながら薬包紙に包んでいく。
液体の薬、丸薬などを複数作って、素早く片付けると移動を始めた。
他チームからの攻撃を防御しながら前に進んでいく。
あくまで傍観者気分だから、失格にさえならなければいいと思っているのでなんだか楽しい。
「うわっ!緑チームと青チームがチーム戦で直接対決している。」
「二組が手を組んで、こちらを攻撃してきたら全滅してしまうから、見つからないように迂回しよう」
こんな会話を聞いてその様子を眺めながら、足音を立てないように歩くだけでもワクワクする。
途中、狼や狐などの動物や魔物に遭遇した。
危険生物は駆除するとポイントになるので魔法騎士学科の学生達は積極的に攻撃を仕掛けて、駆除したものを専用の魔法箱に入れて、魔法騎士が背負い移動を続ける。
魔法騎士学科には補助員がいて、駆除した生き物の処理を担当して、魔法箱に入れて背負っていくらしい。
魔法箱は見た目は背負うための肩紐がついた木箱で、中は状態保存される優れものだ。
いいなぁ、アレ作ってみたいなぁ。
なんて考えながら移動を続ける。
開けた場所に出た時だった。
「何かおかしい」
先頭を歩く魔法騎士学科のブライアン・アークライトの足が止まる。
「教授たちが、道に迷うようにこの山全体に魔法をかけたのか?それとも、他チームの妨害なのか…」
そう言うと、足元の土を触り、そこに剣を刺した。
「私達の影が見えにくい。6月のこの時期はまだ陽は落ちないのに、日が当たる場所なのにこんなに影が薄いなんて、この場所全体に魔法がかけられている!原因を探らないと危険だ」
「この剣は?」
誰かが聞いた。
「もしも位置阻害の魔法が発動して、どこにいるかわからなくなった時、今いる場所がわかるようにだよ」
魔法騎士学科の学生達が辺りを警戒する。
ガサガサガサ
生い茂った低木の枝葉が揺れて、大きな馬が見えた。
「クサントスだ」
誰かが小声で言う。
木に隠れて見えなかっただけらしい。
クサントスは凶暴な馬で、人を襲い食べると言われている。
「何故あんなに凶暴な魔物がいるんだ。教授達が調査した場所でしか初夏大会はやらないはずだ」
「シールドで姿を見えないようにしよう」
魔法学科の背の高い黒髪の学生が魔力を込めてシールドを触る。
「ミラー効果をつけたから、鏡に森の景色が映って、こちらに気が付かれにくいはずだ」
「気付かれたらどうする?俺たちのシールドじゃ、多分すぐに破られるよ」
一気に緊迫した空気になる。
「クサントスはどうするとこちらを襲わなくなるんだ。人を襲って食べるヤツだぞ」
「ビブスは野生動物の攻撃も防ぐはずだ」
「あんな強い魔物の攻撃は想定してないんじゃないのか?」
皆が、どうやってここを切り抜けるか小さな声で話し合っている。
「他の動物を与えるしかない」
「たとえばウサギとかでもいいのかな」
「でも、シールドから出ると危険だよ。どうやって他の動物を?」
魔法薬学科の学生は攻撃魔法が使えないから、安易な意見が出せずに魔法騎士学科の学生の案を聞く。
皆が意見を出し合うが有効な対処法は見つからない。
クサントスは幸いにもまだこちらには気がついていないようだけど、時間の問題かもしれない。




