魔法騎士学科の学生
ベルツ教授の研究室は他の魔法薬研究室と比較すると、学生の人数が少ない。
多いところだと、学生が25人に、雑用係が3人もいる。
周りの研究室を見ると、私の事を平民だからと言い、順番抜かしをした金縁のメガネの雑用係とエイドル伯爵令嬢も並んでいた。
ここは雑用係が2人いるのね。
もう1人は、背の低い細身の男性だ。
もちろん、別の研究室の列にはキャロルも並んでいる。
「では、魔法薬研究学科の皆さん、いよいよ毎年恒例、魔法学校初夏大会の季節になってきました。皆さん、準備はいいですか?学内大会の組み合わせを決めます」
広場に声が響き渡る。
「魔法騎士学科の皆様も整列してください」
大きなアナウンスの後、沢山の人が空から降りてきた。
上空にいたんだ!
降りる場所がわかっているかのように、一直線に地面に着地しただけで、整列が完了している。
魔法騎士学科の学生達は、深緑色のスーツに膝下まである皮のブーツを合わせ、薄手のローブというよりマントに近いものを羽織っていた。
魔法騎士学科の学生が整列するのを待っている間に、中央広場は形を変えていく。
観客席が出現して円形闘技場になった。
先ほどまで単なる広場だったのに、凄い仕掛けだわ。
驚いた事に、観客席は出現と同時にすでにほとんどの席に観客が座っていた。
この客席についてはキャロルから事前に聞いていたから知っているけど、人の多さに驚く。
この前ランチを食べいる時キャロルが教えてくれた。
「観客席はね、他の学科の学生達や、高等部の生徒達用なの。私は高等部の事しか知らなけど、高等部時代にね『魔法学校初夏大会を始めます』って学校内に大音量でアナウンスが流れると、みんな一斉に外に出るの」
沢山の生徒が外に出るところを想像していると、キャロルは続けた。
「外に大きな観客席が出現するのよ。アナウンスを聞いて10分以内に観客席に座るとね、移動魔法が発動して観客席が中央広場に移動するの」
「観客席に座れなかった時はどうするの?」
「中央広場まで歩いていかないといけないの。でも、高等部って、そもそも隣の敷地の大きな建物でしょう?あそこから中央広場まで歩くと凄い時間がかかってしまうのよ。その間に、大学部の学生に席を取られて、ついた頃には満席なの。立ち見ができたらラッキーね」
と聞いていたけど、ほぼ満席の客席に圧倒される。
人はいっぱい座っていて、こちらを見て話している学生が沢山いるのに、声は全く聞こえない。
無言で見ているわけではなく、透明な壁があるみたいだ。
大きなアナウンスが聞こえる。
「それでは抽選会を行います。代表者は前に出て、抽選草を引いてください。引いた色によって組み合わせが決まります」
抽選草というのは、マンドレイクだった。
引き抜くと大声で叫ぶ草で、その声を聞くと死に至ると言われているが、今は品種改良されて声を聞いても死に至る草ではなくなっている。
プランターが学科毎に置かれており、各チームの代表がどれを抜くか選んだ。
カウントダウンで一斉に引き抜く。
「ミドリー、ミドーリ」
「アオー!!」
マンドレイクの叫び声がうるさすぎる。
全く聞き取れないし、大音量で頭が痛くなるので皆、イヤーマフを付けて、氷水に葉っぱまで漬け込んだ。
「ぎぃろぉー」
ブクブクしながら声が小さくなっていく。
イヤーマフを取って、ちゃんと声が聞き取れたチームから、チームカラーの旗を掲げていく。
ベルツ研究室は赤チームだ。
同じく赤を掲げた魔法騎士学科『シルヴィ研究室』との合同チームになった。
チームが決まると、これからどうするのか話し合いが始まる。
全員が『赤チーム』と書かれたテーブルに移動する。
そこには地図、たいまつ、赤い旗と全員分の対魔法ビブスが置かれていた。
全員、ビブスを着る。
これは進行妨害の攻撃や、野生動物から意図せずに攻撃を受けた時に守ってくれる物だ。
ちなみに、一定以上の攻撃を受けると失格になり、広場に戻るらしい。
「マイルズ・ワーグマン!君とのチームなら心強いよ」
ピアース研究室の先頭に学生が、ワーグマン侯爵令息と握手をかわす。
「ブライアン・アークライト。君達の騎士としての能力をサポートできるように最善を尽くすよ」
2人は知り合いのようだ。
ブライアン・アークライトと呼ばれた学生は背が高く、コバルト色の宝石のように輝く瞳と、濃い黄金色の髪をオールバックにした男性だった。
まるで映画の中から出てきたみたいな整った容姿だ。
魔法薬研究学科の女子学生2人が小声で、「侯爵家同士で社交界で交流があるんだわ」「2人とも素敵だから絵になるわ」などと、楽しそうに話しているのが聞こえた。
「全員、テーブルの周りに集まってくれ」
ブライアン・アークライト侯爵令息に言われて、今まで楽しそうに内緒話をしていた2人が「はい」と返事をして、真顔を取り繕いおしゃべりをやめる。
2チーム全員で、魔法で再現された半透明の立体地図を見ながら小声で相談する様子を見ていると、氷水に漬け込まれたマンドレイクを渡された。
雑用係なので、マンドレイクの葉を切り、おとなしくなったマンドレイクを鉢植えに植え直す。
収穫した葉を今から使うようだ。
各チームの組み合わせが、大きな声でアナウンスされていく。
「赤チームの魔法薬学科は『ベルツ研究室』、魔法騎士学科は『ピアース研究室』です!」
「お互いの妨害行為は認められていますが、顔や頭を狙った攻撃をした場合は失格となります。わかりましたか?では、スタート」
大きなアナウンスの後、目の前の空間が大きく割れた。
移転魔法のようだ。
薬草の沢山入った箱を持って、移転魔法通路を歩かなきゃいけないけど、その億劫さよりもワクワクが勝つ。
「クリスティーナ、半分持つから急ごう。時間との勝負だから」
シリルが声をかけてくれた。
人前では、貴族と平民だからよそ行きの笑顔を作る。
「申し訳ございません、シリル様。みなさんの足手纏いにならないようにします」
シリルが箱を持ってくれて、暗い通路を進む。
徐々に通路が明るくなってきて、見えたのは森だった。
緩やかな傾斜の続く、手入れが行き届いた森林だ。
近くに川があるのか水の音もする。
「木が茂っているけど、等間隔に植えられているし、下草はないから見通しもいい。これなら楽勝だ」
魔法騎士学科の生徒が言う。
「油断は禁物だよ。早速、課題を」
課題の内容は、指定された薬草の採取と、指定薬の調薬と、それを保持しての5人以上のゴール到達。
ゴール直前の出入り口は、2組しか通過できないらしいので、時間との勝負でもある。




