学校行事
キャロルの言葉通り、学校行事が発表された。
『魔法学校初夏大祭』という恒例行事だそうだ。
6月から7月1日までに開催され、その後研究発表を経て、8月初旬から長期休暇に入るそうだ。
しかし、実際には休暇に入る学生は少数派で、大半が研究を継続するらしい。
どんな大会なのかしら?
開催場所は、中央広場と書いてある。
私達も見学できるのかな?
シリルに聞いてみた。
「見れるなんてもんじゃないよ。クリスティーナも参加しないといけないよ?」
まさかの答えに驚いて「はぁ?」と変な声が出てしまう。
「魔法薬研究学科は、魔法騎士学科とチームになって、模擬戦闘戦を行うんだよ。僕達は、模擬戦会場で魔法薬を作るんだ。だから雑用係も参加しないといけないんだよ」
「そう…なんだ」
「各研究室に所属している学生は100人。その中から10人から30人の学生を選んで模擬戦をするんだ」
そんな沢山の学生、見た事ないわ。
「もしかして、『授業』の時に来る学生さんってベルツ研究室に所属している人なの?」
「よく気がついたね。そうだよ」
「各研究室に100人ずついるなら、魔法薬学科には6研究室あるから、全部で600人いるって事?」
「その通り。基礎課程と専門課程を学んでいる学生が授業を受けるんだ。僕達は全部の授業の単位を取っているから、研究の課程に入っているんだよ」
全く意味がわからなかったけど、頷く。
「基本的には、研究課程の学生が初夏大会に出るんだよ」
「そうなんだ。だから10人から30人なのね」
なんとなく納得したけれど、その後よく考えると魔法薬学科に600人所属しているということは、全部で5学科あるから3000人所属しているんだ。
凄い人数だわ。
私が住んでいたニドルセント領ハナメイの、全人口くらいなのかもしれない。
ここにいる学生たちが夏季大会に出るんだ。
皆、昨日までは持っていなかった重そうな装備品を背負っているのはそのためなのね。
「夏季大会に備えて装備を揃えなきゃいけないよ?もちろん、クリスティーナも」
「私もなのかぁ」
ご飯を食べる時も、トイレに行く時も、重そうな装備品は必ず体につけたままいる学生たちを見る。
「選考会の日付はわからないから、装備品を身につけて日々過ごさないといけないのが大変だよね」
ある学生が、大鍋を背負って薬草のグラムを計りながらぼやいていた。
選考会は毎年課題が違うらしく、日付も当日に発表らしい。
しかも、装備品は選考会当日に各自身につけているものだけのようで、何を身につけたらいいのかもわからない。
だからみんな装備を身につけたまま行動している。
ちなみに、魔法鞄は禁止されているそうだ。
許可すると、沢山の装備品があるチームが勝ってしまうものね。
「去年は深い穴を掘って、宝箱を開けた後に書いてある謎を元に薬を作のが課題だったんだ。優勝チームは、魔法薬を魔法騎士学科の学生に渡して、ゴールしていたよ。最後が過酷な道で、魔法薬学科の学生は進めなかったんだ」
シリルが、不思議な形の魔道具を背負いながら言った。
「穴は魔法で掘るの?」
「無理だよ。それはおとぎ話。魔法で穴掘りはできないでしょ?」
「確かにそうね。でも、絵本に出てくる偉い魔法使いは、穴を掘って、動物を寒さから凌いであげたりしているから、高等魔法を使えるシリルたちならできるんじゃないの?」
「空想だよ。高等魔法は、精度の高い薬を作る時に発揮するんだよ。」
「それ以外では使えないの?」
「僕は無理だね。去年の課題は、直径1メートル、深さ3メートルくらいの穴を掘って、ヒントの入った箱を探すという課題だったんだ。魔法騎士にやらせると、魔法で爆破して、とりあえず大きな穴を開けようとするんだよ?ヒントの箱まで吹っ飛ぶよ」
想像して笑ってしまう。
「結果、農耕用の魔道具で穴を掘ったチームが勝ったんだ」
「それじゃあ何が必要なのかわからないわね」
「だから沢山の魔道具を背負って作業するんだ」
重たい装備を身につけたまま、書類仕事をしたり、薬草の効能を調べたりしているのは理由があったのね。
「クリスティーナは何が必要だと思う?」
「想像がつかないから、言われたものを装備するわ」
私は、軍手とスカーフと、自作の杖、それからもしもの時の弓矢さえあれば大丈夫。
スカーフはハナメイにいる時に自作したもので、下から火にかけて煮炊きができる。
広げると3メートルの正方形だけど、4つ折りにすれば普通のスカーフだ。
これも、ニドルセント領にいた時に聞いていたラジオで紹介されていた、どこでも煮炊きできる旅行用スカーフで、高等魔法使いなら旅行の必需品だと紹介されていた。
弓矢は、なんの変哲もないものだけど、小型の弓矢が私の愛用品だ。
ハナメイにいる時から使っていたもので、背中に背負ってその上からローブを羽織っている。
発表から3日が経過した。
いつ始まるのかしら?
キャロルに「古い教科書が見てみたい」と言われたので、自作の魔法鞄に教科書を入れて、内ポケットに入れて来た。
仕事が終わったら、キャロルと晩御飯を食べる約束があるから、その時に見せるために持っているのだ。
今日はジメジメしているし、天気もイマイチだから開催されないわよね?
雨が多い季節、たくさんの装備を抱えて過ごす学生を見て、大変だなぁっとため息を吐く。
「準備を手伝って」
「かしこまりました」
ローランド伯爵令嬢に言われて、作業の補助のために薬草を刻む。
日々作業していく中で、学生達の作業の進め方や好みがわかるようになってきた。
得意な調合方法はそれぞれ違っていて、使う機材も違う。
古い教科書で学んだ作り方とも皆違うので、魔法薬を作るって奥深い。
魔法薬の調合を見ていると、育てやすくて安定して供給できる薬草や魔法草を使って調合していて、野草などの自然素材はほぼ使わないので、乾燥させた薬草の管理が大変だ。
雨の多いこの時期は、湿気は薬草保管の天敵だ。
湿度を下げるために専用の魔道具のスイッチを入れた後、新たな薬草を刻むため、届いたばかりの乾燥魔法草の箱を開封するために持ち上げた時だった。
「抽選会場に移動してください」と大きなアナウンスが鳴る。
それと同時に、研究室にライトグリーンのローブを纏った複数の人が入ってきた。
噂に聞いていた審判だ。
今身につけている装備品以外を持ち出さないかの監視員である。
この時点で手に持っている物も持ち出せる。
「今からなの?」
「今日に限って、予備釜を準備してないよ!」
「調合セットを手に持ったところだわ」
喜んだり、落胆したりみんな様々な反応だ。
「クリスティーナが届いたばかりの薬草箱を持っているわ」
ローランド伯爵令嬢が大きな声で嬉しそうに叫ぶ。
私がたくさんの箱を抱えているからだ。
「でも、自分で運ばなきゃいけないのよ。そういうルールなの」
言い方が意地悪い。
まだ無視しない分だけ、ローランド伯爵令嬢はマシなのかもしれないけど。
なんで、このタイミングなのかしら?
大量の箱には沢山の薬草が入っていて、凄く重たいし、前が見えない。
仕方がないので、苦労しながら中央広場に行くと、研究室毎の名前が書かれたプラカードが浮いていた。
『ベルツ研究室』のプラカードの先頭に立っているのは、マイルズ・ワーグマン侯爵令息。
もしかしたらシリルはワーグマン侯爵令息が好きなんじゃないかと疑っているので、2人の様子を観察しだけど、特に何もない。
なんとか最後尾に並び、重たい箱を置いた。




