第20話 真の黒幕
王都の夜。
セイル男爵が消えた後も、街は不気味な沈黙に包まれていた。
まるで次の幕が開くのを待つ観客のように。
*
その頃、王宮の地下。
闇の回廊を進む影が一つ。
長衣をまとい、黄金の仮面で顔を覆った人物が、静かに玉座の前に歩み寄る。
「セイルは失敗しました」
跪く者の報告に、仮面の人物は小さく笑った。
「構わぬ。あれは“前座”にすぎない」
声は低く、だが背筋を凍らせる威厳を帯びていた。
「本当の断罪劇は、これから始まる。舞台は王都全体ではない――王国そのものだ」
*
翌朝。
俺たちは王都の市場を歩いていた。
人々は昨日の騒ぎを忘れたかのように賑わっている。
だがその会話の端々に、不穏な噂が混じっていた。
「王族の中に裏切り者がいるらしい」
「次に狙われるのは“王国評議会”だって……」
ユイは眉をひそめた。
「……セイル男爵の背後には、もっと大きな存在がいる」
リリアも頷く。
「そうですね。昨夜、あの闇の残滓に“別の魔力”を感じました。セイルのものではない、もっと深い……古代のような」
俺は拳を握りしめた。
「じゃあ、あいつらの狙いは――」
そのとき。
市場の広場に、突如として巨大な魔法陣が浮かび上がった。
人々の悲鳴。逃げ惑う群衆。
空間を割るように現れたのは、黄金の仮面をかぶった者の幻影だった。
「民よ、聞け」
低く響く声が王都全体を震わせる。
「偽りの侯爵令嬢は断罪された。次は王族だ。腐敗を正すため、王都を“裁きの炎”で浄化する」
広場は一瞬で恐怖に支配された。
ユイが俺を振り返る。
「真司……これが、“真の黒幕”……!」
仮面の人物は手を掲げ、炎の竜を呼び出した。
それは王都の空を覆うほど巨大で、見る者すべてを絶望させる存在。
「さあ――断罪の第二幕を始めよう」
その声が響いた瞬間、王都の空が赤黒く染まった。