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第19話 静かな夜、二人きりの誓い

 断罪劇の舞台となった評議会が終わり、王都の広間は沈黙を取り戻していた。

 民衆のざわめきも次第に消え、夜の帳が街を包む。


 俺とユイは王都の宿舎の一室にいた。

 窓の外には灯火が瞬き、遠くに祭の残り香のような音楽が流れている。

 けれど、この部屋だけはしんと静まり返っていた。



「……本当に、終わったのね」

 ユイはベッドの端に腰掛け、手のひらを見つめていた。

 氷と光を纏ったときの力はもう残っていない。そこにあるのは、ただ震える指先だけ。


「怖かった。群衆の視線も、筋書きに絡め取られる感覚も。あのまま本当に“悪役”にされるのかと」

 声は小さく、今にも消えそうだった。


 俺は彼女の前に膝をつき、その手を包み込んだ。

「でも抗った。君は確かに“役”を超えたんだ。誰ももう、君を悪役なんて呼べない」


 ユイの瞳に、ゆっくりと涙が滲んでいく。

「……真司。前世からずっと、あなたに守られてばかりね」

「守りたいんだ。ずっと」

 それは自然に出た言葉だった。



 ユイは小さく笑い、目を伏せた。

「じゃあ、今度は私の番。――あなたを支えるわ。悪役令嬢なんて肩書きじゃなく、ユイとして」

 その言葉は震えていたが、確かな強さがあった。


 俺は答えを言葉にする代わりに、彼女の手を強く握り返した。

 その温もりが、何よりの誓いになると分かっていたから。



 廊下の影から、リリアがそっと二人を見守っていた。

 彼女は静かに目を伏せ、微笑む。

「……やっと“筋書き”を超えたんですね。

 でも、物語はまだ終わっていない。セイル男爵の後ろにいる存在――必ず突き止めなければ」


 彼女の決意は夜空の星よりも固く、強く輝いていた。



 窓の外に、大きな月が浮かんでいた。

 その光の下で、俺とユイは互いの手を離さず、ただ静かに未来を見つめていた。


 ――物語は終幕ではなく、新たな章へと進んでいく。

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