第19話 静かな夜、二人きりの誓い
断罪劇の舞台となった評議会が終わり、王都の広間は沈黙を取り戻していた。
民衆のざわめきも次第に消え、夜の帳が街を包む。
俺とユイは王都の宿舎の一室にいた。
窓の外には灯火が瞬き、遠くに祭の残り香のような音楽が流れている。
けれど、この部屋だけはしんと静まり返っていた。
*
「……本当に、終わったのね」
ユイはベッドの端に腰掛け、手のひらを見つめていた。
氷と光を纏ったときの力はもう残っていない。そこにあるのは、ただ震える指先だけ。
「怖かった。群衆の視線も、筋書きに絡め取られる感覚も。あのまま本当に“悪役”にされるのかと」
声は小さく、今にも消えそうだった。
俺は彼女の前に膝をつき、その手を包み込んだ。
「でも抗った。君は確かに“役”を超えたんだ。誰ももう、君を悪役なんて呼べない」
ユイの瞳に、ゆっくりと涙が滲んでいく。
「……真司。前世からずっと、あなたに守られてばかりね」
「守りたいんだ。ずっと」
それは自然に出た言葉だった。
*
ユイは小さく笑い、目を伏せた。
「じゃあ、今度は私の番。――あなたを支えるわ。悪役令嬢なんて肩書きじゃなく、ユイとして」
その言葉は震えていたが、確かな強さがあった。
俺は答えを言葉にする代わりに、彼女の手を強く握り返した。
その温もりが、何よりの誓いになると分かっていたから。
*
廊下の影から、リリアがそっと二人を見守っていた。
彼女は静かに目を伏せ、微笑む。
「……やっと“筋書き”を超えたんですね。
でも、物語はまだ終わっていない。セイル男爵の後ろにいる存在――必ず突き止めなければ」
彼女の決意は夜空の星よりも固く、強く輝いていた。
*
窓の外に、大きな月が浮かんでいた。
その光の下で、俺とユイは互いの手を離さず、ただ静かに未来を見つめていた。
――物語は終幕ではなく、新たな章へと進んでいく。