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第18話 悪役令嬢の決断

 黒い魔力が渦を巻き、議事堂の天井を震わせる。

 セイル男爵の指輪から噴き出す闇が、群衆を縛り、評議会の場そのものを舞台に変えていった。


「さあ見よ! 侯爵家の娘が断罪され、悪役令嬢として処刑される光景を!」

 狂気に満ちた男の声が響くたび、群衆の視線はユイへ集まる。

 ――筋書きが現実を侵食していく。



「ユイ!」

 俺は隣で剣を構え、叫んだ。

「ここで立たなければ、運命は奴の思い通りになる!」


 ユイの瞳が揺れる。

「でも……どんなに足掻いても、私は“悪役”にされてしまう……!」

 その言葉と共に、黒い鎖が彼女の足元から伸び、ゆっくりと絡みついた。


 リリアが必死に祈りの光を放つ。

「ユイさん! あなたは悪役なんかじゃない! だって……あなたは私を守ってくれた!」


 群衆のざわめきが変わる。

 「守った……?」「断罪されるはずじゃ……」



 ユイは鎖に縛られたまま、拳を握った。

 震える唇が、ついに言葉を紡ぐ。

「――違う! 私は悪役令嬢なんかじゃない!」

 その声が議事堂に響き渡る。

「私はユイ・グランディア。前世では“結衣”という名で生き、そして今は……仲間と共に戦うただの一人の人間!」


 その瞬間、鎖が砕け散った。

 氷と光が重なり合い、彼女の身体から白銀の魔力が溢れ出す。



「馬鹿な……!」

 セイル男爵が後退した。

「筋書きに逆らって力を得るなど、ありえん!」

「ありえるさ!」

 俺は剣を振りかざし、ユイと並び立った。

「台本に書かれた未来なんて関係ない。俺たちが選ぶんだ!」


 ユイが氷槍を掲げ、リリアが祈りを重ねる。

 三人の魔力が重なり、巨大な光氷の翼が広間を覆った。



 観衆が息を呑む。

 ――悪役令嬢ではなく、希望を背負った令嬢の姿に。


「これが私の答え! 断罪される役なんて拒絶する! 私は私の物語を生きる!」


 その叫びと同時に、氷と光の嵐がセイルの魔法陣を粉砕した。


 議事堂を満たしていた黒い魔力は一気に霧散し、重苦しい空気が解けていく。



 膝をついたセイルは、血を吐きながらなおも笑った。

「……だが忘れるな。筋書きは消えぬ。役者が抗えば抗うほど、次の舞台が現れる……」

 そう言い残し、彼は闇に呑まれて消えた。



 広間に静寂が訪れる。

 人々は呆然とし、やがて拍手が起こり始めた。

「悪役令嬢ではない!」「彼女は国を救った!」


 その声の波の中で、ユイは俺を振り返った。

「真司……私、やっと言えたわ。私は“悪役”じゃないって」

 涙と笑みが入り混じった表情で。


 俺は彼女の肩を抱き、力強く頷いた。

「そうだ。お前は、俺の幼馴染で――未来を選ぶ令嬢だ」


 断罪の舞台は終わり、新しい物語の幕が上がろうとしていた。

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