第17話 王都評議会、断罪の幕開け
王都の議事堂――。
荘厳な大理石の柱に囲まれた広間は、すでに群衆のざわめきで満ちていた。
王族、貴族、そして市井から招かれた代表まで。誰もが息を潜め、この瞬間を待っている。
壇上に立つのは、黒曜石の指輪をはめたセイル男爵。
彼の口元には勝者の笑みが刻まれていた。
「これより、侯爵令嬢ユイ・グランディアの罪を問う!」
その言葉と同時に、会場の視線が一斉にユイへ突き刺さる。
「やはり悪女か」「断罪を」「国の恥だ」――群衆の声が波となって押し寄せた。
*
俺は一歩、ユイの隣へ出た。
「落ち着け。これは筋書き通りの舞台だ。俺たちが壊す」
ユイは唇を震わせながらも、頷いた。
「……ええ。もう逃げない」
その瞳には、前夜に見せた涙ではなく、確かな光が宿っていた。
*
セイルが帳簿を掲げた。
「見よ! これこそ侯爵家の不正の証だ!」
観衆がざわめき、評議員が頷く。
「違います!」
リリアが前へ進み出て、聖女の光を掌に宿す。
「その帳簿には魔力の痕跡がある! 偽造の証です!」
だがセイルは笑った。
「ほう、聖女までもが侯爵家の娘に操られたか!」
彼の声が魔術と混じり、観衆の心を惑わせていく。
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その瞬間、俺は懐から“破片”を掲げた。
舞踏会で拾った黒曜石の指輪の欠片。
「これが証拠だ! 暴走を仕組んだのはセイル男爵だ!」
だが――。
床に魔法陣が浮かび上がった。
「断罪劇を終わらせるつもりか? ならばここで完成させよう!」
セイルの叫びと共に、議事堂全体が揺れた。
魔法陣から次々と黒い影が立ち上がる。
群衆の悲鳴。逃げ惑う人々。
評議会の場は、一瞬にして戦場と化した。
*
「ユイ!」
「大丈夫。私も戦う!」
ユイの手が光に包まれ、氷槍が次々と生み出される。
リリアが祈りを捧げ、俺の剣に聖光が宿る。
三人の力が重なった瞬間、広間の空気が変わった。
観衆は息を呑み、断罪を待つはずだった令嬢の姿に目を奪われる。
――悪役令嬢ではなく、王国を救う戦士の姿に。
*
セイル男爵が指輪を高く掲げる。
「抗え! 筋書きからは逃れられん!」
「なら、その筋書きごと――俺たちで叩き壊す!」
俺は叫び、光に輝く剣を振り上げた。
断罪劇の最終幕が、ついに始まろうとしていた。