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第16話 決戦の前夜

 王都に到着した俺たちは、侯爵家の古い別邸に身を寄せていた。

 街のあちこちで耳にするのは「侯爵家の令嬢は悪女だ」という噂ばかり。

 まるで王都そのものが舞台装置となり、ユイを断罪へと追い詰めようとしていた。


「……人々の視線が冷たい」

 馬車の窓から外を眺めながら、リリアが小さく呟く。

「これが“筋書きの力”なのかしら」

 ユイは静かに頷き、唇をかすかに噛んだ。

「ええ。でも、もう怯えない。――明日の評議会で、私たちがすべてを覆す」



 夜更け。

 俺とユイは別邸の中庭に出ていた。

 星の光が淡く降り注ぎ、噴水の水音だけが響いている。


「真司」

 ユイがドレスの裾を揺らしながら振り向く。その横顔は月明かりに照らされ、儚いほどに綺麗だった。

「……私、正直に言うわ。明日の評議会が怖い」

「ユイ……」

「だって、もし失敗したら、私は“悪役令嬢”として終わってしまう。そう思うと、足がすくむの」


 俺はそっと彼女の手を取った。

「でも、俺は信じてる。君が悪役なんかじゃないことを。俺の幼馴染――結衣だった頃からずっと」

 ユイの瞳が震え、やがて涙を溢れさせた。


「真司……ありがとう。あなたがいてくれるなら、私はどんな筋書きにも抗える」



 別邸の屋根の上では、リリアが月を見上げていた。

 その胸に強い決意を秘めながら。

「明日……必ずユイさんを守る。聖女としてじゃなく、一人の友達として」



 一方その頃、王宮の地下。

 セイル男爵は信徒たちを集め、黒い魔法陣の完成を見下ろしていた。

「明日、評議会の場で“断罪劇”を完成させる。悪役令嬢の死、聖女の称賛、そして王国の喝采……」

 その瞳には狂気と確信が宿っていた。


「――舞台は整った。あとは役者が踊るだけだ」



 王都に夜が更けていく。

 静寂の下で、断罪劇の最終幕がゆっくりと近づいていた。

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