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第14話 戦いの後、仮面を外して

 魔獣がすべて消え、結界の光が静かに収まっていく。

 広間には熱を帯びたざわめきと、崩れ落ちた椅子や破片の匂いが残っていた。


「……ふぅ」

 ユイは肩で息をしていた。豪奢なドレスは焦げ跡で黒ずみ、髪も乱れている。だがその姿を見つめる観衆の瞳には、もはや「悪役令嬢」の色はなかった。

「侯爵令嬢が……学院を救った」

「真実は違ったのか……!」


 人々の声が波のように広がる。その中心で、ユイはただ真っすぐに立っていた。



「ユイ!」

 俺は駆け寄り、彼女の手を取った。

 その手は冷たく震えていたが、握り返す力は強い。

「本当に……やり遂げたんだな」

「ええ。でも……正直怖かったわ。もし結界が崩れていたら、私が“悪役”として処刑されていたかもしれない」

 声がかすかに震える。


 だから俺は、真正面から言った。

「大丈夫だ。お前はもう悪役じゃない。俺が何度でも、そう証明する」


 ユイは驚いたように俺を見上げ、それから小さく笑った。

「……真司、あなたって、前世のときから変わらないのね」

 その瞳は涙で潤んでいるのに、不思議なほど綺麗だった。



 リリアも駆け寄ってきた。

「ユイさん……すごかったです! 私、本当に胸が熱くなって……!」

 聖女の瞳に浮かんだ涙は、偽りのないものだった。

 ユイは一瞬だけ戸惑い、それからリリアの手を握った。

「ありがとう。あなたが勇気を持って声を上げてくれたから、私は立てたのよ」

 二人の手が重なり、その光景に広間はさらにざわめいた。

 ――“悪役令嬢”と“聖女”が並んでいる。

 本来なら敵同士のはずの二人が。



 しかし、喝采の中で俺の胸に重く残るものがあった。

 黒幕・セイル男爵は逃げた。しかも「次は王都全体を舞台にする」と言い残して。

 ――学院の事件は序章にすぎない。


「真司」

 ユイが静かに囁く。

「私、もう怯えない。どんな舞台でも……あなたと一緒なら抗える」

 その声はかすれていたけれど、確かに力強かった。


 俺は頷いた。

「なら、最後まで一緒に壊そう。運命も筋書きも」


 窓から差し込む月明かりが、仮面を外した三人を照らしていた。

 ――新しい幕が、静かに開き始めていた。

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