第13話 断罪の舞台、悪役令嬢は抗う
轟音と共に魔法陣が広間を覆った。
床に描かれた黒い紋様から、無数の魔獣が這い出してくる。観衆が悲鳴をあげ、教師たちが必死に避難誘導するが、魔力の嵐はそれすら呑み込んでいった。
「これが……断罪の舞台だ!」
セイル男爵の叫びがこだまする。
「悪役令嬢はここで罪を暴かれ、命を落とす。聖女は殿下と共に民を救う。それが最も美しい結末!」
ユイは凍りついたように立ち尽くした。
――これが前世のゲームで見た“バッドエンド”の光景。
このままでは、本当に自分が「断罪される悪役令嬢」として終わる。
俺は叫んだ。
「ユイ! 立て! 君は悪役なんかじゃない!」
振り返った彼女の瞳は、涙に揺れていた。
*
「……でも私は、侯爵家の娘。誰も信じてくれない。証拠を突きつけても、筋書きは変わらない……」
「そんなの、壊せばいい!」
俺はユイの手を取り、強く握った。
「お前はずっと優しかった。俺の幼馴染の結衣だ! 何度だって証明する! “悪役令嬢”なんて役割に、君を縛らせてたまるか!」
その瞬間、ユイの瞳が大きく見開かれた。
――前世で呼ばれていた名前を思い出すように。
「……そうね。私は悪役じゃない。誰かの筋書きに踊らされるだけの駒でもない」
涙を拭い、彼女は扇を閉じた。
「私の名はユイ・グランディア! この場で、私自身の物語を選ぶ!」
魔法陣が爆ぜ、黒い魔力が彼女に迫る。
ユイは両手を広げ、声を放った。
「〈光氷結界〉!」
まばゆい光と氷が絡み合い、巨大な結界が広間全体を覆う。
魔獣たちが次々と凍りつき、砕け散った。
*
観衆が息を呑む中、リリアがその隣に立ち、祈りを捧げる。
「聖女の加護を重ねます!」
光の柱が結界に注ぎ込まれ、凍結の力がさらに増す。
俺は前へ飛び出し、剣を振りかざした。
「ここで終わらせる!」
氷と光に貫かれ、魔獣の群れは次々と塵へと還っていく。
セイル男爵が歯ぎしりをした。
「馬鹿な……筋書きが……!」
だがその声すら、観衆の歓声にかき消された。
「悪役令嬢じゃない!」
「侯爵令嬢ユイが皆を救った!」
ユイは息を切らしながら、振り返って俺を見た。
「……ありがとう、真司。私、ようやく分かったわ。
私は“断罪される令嬢”じゃない。“未来を選ぶ令嬢”なの」
その笑みは、華やかな舞踏会の光に照らされ、誰よりも眩しかった。
*
しかしセイルはなおも仮面の奥で嗤った。
「いいだろう。次は王都そのものを舞台にしてやる。学院など前座にすぎん!」
指輪が閃光を放ち、男の姿は闇に消える。
残された広間には、喝采と震えるような期待が渦巻いていた。
――断罪劇は終わらない。
だが俺たちの物語も、ここからさらに大きく広がっていく。