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第10話 仮面舞踏会の罠

 王都の貴族学院で年に一度開かれる仮面舞踏会。

 学院生だけでなく、王族や有力貴族も招かれる一大行事――その華やかな夜がやってきた。


 煌びやかなシャンデリアが天井から光を注ぎ、仮面をつけた紳士淑女たちが広間を埋め尽くす。

 笑い声、杯の触れ合う音、絃楽器の優美な旋律。

 だが、俺の胸の奥は張り詰めたままだった。


「仮面舞踏会は“断罪の前奏曲”……」

 ユイが低く囁く。

 彼女の仮面は紅い羽根飾り付き。豪奢なドレスを纏いながらも、その眼差しは獲物を狙う鷹のように鋭い。

「前世のゲームでも、ここで一気にフラグが積み重なったわ」

「つまり、黒幕が動く舞台ってことだな」

「ええ」


 リリアも白銀の仮面をつけ、緊張した面持ちで俺たちの隣に立っていた。

「……何があっても、私、二人と一緒に抗います」

 その言葉に、俺は力強く頷いた。



 舞踏会が始まって間もなく、アレクシス王子が登場した。

 金の髪に黒の仮面、堂々とした立ち居振る舞い。

 隣にはリリアが呼ばれ、観衆の喝采を浴びる。

「聖女様と殿下、なんて絵になるのかしら」

「では悪役令嬢は……」

 噂はすぐにユイへ向けられる。


 次の瞬間、楽団が演奏を止め、司会役が声を張った。

「皆様に重大なお知らせがございます!」


 広間の中央に掲げられたのは、一通の帳簿――。

「これはグランディア侯爵家が行った寄付金の不正を示す証拠です!」

 会場がざわめきに包まれる。

「やはり……」「悪役令嬢は家柄ごと腐っている!」


 ユイの顔色は変わらない。

 だが俺は知っていた。これは黒幕の仕込みだ。

「……来たな」



 観衆の視線がユイを断罪する色に染まる中、リリアが一歩前へ進んだ。

「待ってください!」

 聖女の声が広間に響き渡る。

「私が見たのです。その帳簿は“写し”。しかも魔力の痕跡が細工されている。証拠にはなりません!」


 会場がざわめきを増す。

「聖女様が……?」「では、偽造なのか?」


 黒曜石の指輪の男が群衆の中で笑った。

「聖女まで筋書きから外れるか。だが、駒はまだ用意してある」


 その言葉と同時に、広間のシャンデリアが爆音とともに落下した。

 悲鳴。混乱。

 崩れる光の雨の下、ユイの真上に――!


「ユイ!」

 俺は飛び込み、彼女を抱きかかえて床に転がった。頭上で火花が散り、破片が降り注ぐ。



 煙と混乱の中、ユイは小さく呟いた。

「やっぱり……これは断罪の舞台。次は、処刑フラグが立つ」


 俺は彼女の肩を抱きしめ、強く言った。

「フラグなんて、俺が全部へし折る。絶対に」


 その瞬間、リリアが駆け寄ってきた。

「……黒幕の姿、見えました! 舞踏会の奥に消えていった!」

 俺たちは視線を交わす。

 逃がすわけにはいかない――。


 華やかな舞踏会は、一転して血の匂いのする狩り場と化していた。

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