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第4話 大神官と神官見習い

 さすがの王女も子供たちを守りながらの戦闘には疲れてきたようだ。


 王女の呼吸は乱れてきた。


 そのとき、王女の近くに火炎が降り注いだ。そして、それは爆発し、離散した。


 王女は近くにいる警備が展開したと思われる魔法防御で守られている。


「殿下、退避を」


 警備の男が王女に進言した。


「まだ、犬が残っています。すべての犬を殺して、子どもたちや他の人たちを非難させてから、退避します」

「しかし、犬だけではなく、魔法使いもいるので、ここは撤退した方がいいかと」

「魔法はあなたたちで対応してください。私はとにかく犬を殺します」


 王女は再び、剣を振り始めた


 また、火炎が降り注ぐ。


 警備は即座に防御魔法を展開して周囲を守る。


 すると、今まで躍動していた王女の身体の動きが急に止まった。そのまま、王女はその場に崩れ落ちた。


「若様、あれは?」


 スミーガンデが俺に聞いた。さすがに、スミーではなにが起こったのかわからないか。


「王女に直接攻撃魔法が使われた痕跡はない。あれは、弓だ。三人の弓使いがいる。わかるか?」

「なんとなく。たしかに、異質な人間がいますね。我々と違ってかなり邪悪な存在ですね」

「一番左の一人はお前が倒してくれ。情報が欲しいから殺すな。両足の腱を切ってその場に放置しろ。あとで俺が回収する。他の二人は俺が対処する。お前が攻撃するところを他の人間に見られるなよ」

「魔法使いはどうしますか?」

「あの程度の魔法なら大したことはない。放置でいい」

「御意」



 俺はすぐにその場から離れて弓使い二人を探し出し、二人を無力化した。二人は金属製のクロスボウを持っていた。


 スミーガンデが倒したもう一人を回収し、男三人を引きずって姫様のところまで近付いた。


 年老いた神官が懸命に王女の治療を行っている。


「なんだ、お前は。そのローブ、神官見習いか?それ以上、殿下に近付くな」


 警護の巨漢の男性がこっちに剣を向けてきた。



「こいつらが犯人だ。そしてこれが武器だ。まだ生きてるから、拷問してでも雇い主を聞きだすんだな」


 俺は三人の犯人を突き出した。


「金属製のクロスボウ。持ち物検査をしていた衛兵たちは何をやってるんだ!」


 警護の男は周囲を見渡して衛兵を批判する。


 三人の犯人はその場で拘束された。


「そんなことより、王女様を救出するのが先決だ。その矢には特殊な毒が塗られている。早く解毒した方がいい」


 俺は王女を指さした。


「特殊な毒だと? なんでそんなことがわかる?やっぱりお前、怪しいぞ。さては、お前が仕組んでやったんだな?」

「エイラ殿、この毒は複雑過ぎて、ワシには解析するのは無理じゃ。時間が足りん」


 王女を治療していた老神官が音を上げた。


「そのようですね。私は神聖魔法は少ししかわかりませんが、事の重大さはわかります」


 王女と神官の傍らにいる女性貴族はエイラという名前のようだ。


「神官、無理なら俺が代わる。俺なら王女様を治せる」


 老神官は俺が何を言っても無視を続ける。王女を救出してるのだから、それは当たり前なのだが、俺が若いから、なにもできないと思っているのだろう。


「お前は黙ってろ。今、殿下を治療しているのは王宮でもトップクラスの神官なんだぞ。若造のお前に何ができる? そして、それ以上近付くんじゃない」


 警護の大男は頑なに俺を拒否し続ける。


 そのとき、王女を看護していた女性、エイラが巨漢の男を諫めた。


「ストール警護長、その人の言ってることは正しいです。貫通した矢には、なんらかの毒が塗られています。でも複雑な調合で正確な毒の解析をしている時間がありません。今は止血をしてますが、このままだと毒のせいで殿下の命が危険です」

「俺なら治せる。俺に任せてくれ」

「あなたは何者なのです?」


 エイラが聞いた。


「俺は神官だ」


 俺はまだ正式には神官見習いだが、見習いは省略した。さすがに見習いでは信用されないだろう。


「たしかにあなたが着ているそのローブは神官のものですが。しかし、その年齢では大した魔法は使えないのでは?」

「俺は復活魔法も使える。大神官だ。当然、毒の解毒もできる」

「復活魔法。そんなまさか。その年齢であり得ない」

「迷っている時間はない。早く決断しろ。今決断しないと後悔するぞ。お前たちが言うことを聞かないなら、お前たちを倒してでも、その王女は救う」


 エイラはほんの一瞬だけ考えてから口を開いた。


「ストール警護長、はっきり言って、私たちでは無理です。このままでは殿下は死んでしまいます。毒で亡くなってしまったら、復活もできません。この方にお願いしましょう」

「本当にこいつなら治せるのか? ……。仕方ない。頼む、殿下を救ってくれ」



 俺は目をつぶって痛みに耐えている王女の顔を見た。こんなに可愛い女の子にあんなに毒矢を打ち込むなんてとんでもないやつらだ。恐らく、相当な痛みなはず。それなのに、この人は痛みを我慢しているんだ。


「沈痛魔法」


 俺はまず沈痛魔法を王女に唱えた。


「王女様、痛みはどうですか?」


 王女はゆっくりと目を開いた。


「?、いえ、痛みは今は、まったくないです。不思議です。あなたは? 今のは魔法なのですか?」


 王女は何が起こったのか理解できないのか、ただただ驚いている。


「そうですよ。神聖魔法の沈痛魔法です」


「沈痛魔法? そうなのですか。死にたくなるほどの耐えられない激痛だったのですが、今はまったく痛みを感じません。すごい魔法ですね」


 王女はそのとき、俺の目をじっと見た。きっと俺の紫色の瞳を見て驚いているのだろう。感のいい人間なら、この異様な瞳から魔族の匂いを嗅ぎつけるかもしれない。王女の瞳は青ではなく綺麗な緑色をしていた。


「今から毒の解析と解毒、そして治療魔法をかけます。必ず助けてみせます。安心してください」

「そ、そうですか。お願いします」


 なんとなく、王女の頬が赤くなったような気がした。



「沈痛魔法? そんな魔法は聞いたことがない。本当に殿下は痛みを感じてないのか?」


 老いた神官が疑問を呈した。



 俺は毒の解析を急いだ。


「わかりました。この矢には三種類の毒が使用されています。イフティグという毒草、オルム蛇の毒、そして砒素です」

「三種類? そんな、一つの毒でも解毒は容易ではないのに、三種類なんて。神官殿、本当に解毒できるのですか?」


 エイラが質問した。


「大丈夫ですよ。すぐに終わります」


 俺は解毒の魔法を唱え、止血、治癒魔法も唱えた。


「もう大丈夫です。服に開いた穴は直せませんけど、体の傷は完全に癒えたはずです。犯人はそこにいる三人で、合計六発の矢が放たれました。その内、五発が王女の身体を貫通していました」


 王女がその場に立ち上がると、周囲から歓声が響き渡った。


「神官殿、この度は非常に助かりました。貴殿は私の命の恩人です。是非、お名前を聞かせてもらえないでしょうか?」


 王女が俺に聞いた。


「私はサイガ・ファルクスといいます」

「ファルクス神官殿、恩に着ます。このお礼は必ずいたします」

「あ、王女様、ひとつ言っておかなければならないことがあります」

「? なんですか?」

「あなた様のお付きの女性貴族と護衛の方に、私は大神官だと嘘をついてしまったのです。私は実は単なる神官見習いなのです」

「……。神官見習いですか。でも、私を救ってくれたのは事実。本物の神官でなくても、あなたの能力は素晴らしいものです。嘘をついたのは私を助けるためですよね?気にしないでください」


 俺は王女の付き人に改めて名前と住所を聞かれた。


 老いた神官は犬に噛まれた子供たちの治療をしていた。俺も少し手伝った。


 老いた神官の俺を見る目には恐怖が感じ取れた。それは無理もない。こんな若造の俺が高度な神聖魔法をいくつも彼の目の前で使ったのだ。今まで培ってきた彼の自信は見事に崩れ去ったことであろう。でも、彼に否はない。これは人間と人間でない者との差なのだ。


 孤児院の開所式典は中途半端に終わってしまった。


 王女様御一行は馬車に乗り、城へと戻って行った。

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