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第3話 神の作りし究極の美

 俺は貴族の娘に出会うことを願っていたが、そんな非日常的な出会いは訪れるはずもなく、一年が過ぎた。


 俺は長年、人間の女の子にモテるためにはどうすればいいのかをずっと研究してきた。でも、いまだに人間の女の子の考えていることや望んでいることを読むのは難しくて、俺は全然、完璧ではない。


 でも、長い年月のおかげで、魔王城を出てきた頃の俺よりは成長した。


 それにしても、貴族の女の子にモテるためにはどうすればいいのか、全然わからなかった。そんな方法が書いてある本はないし、誰かに聞くこともできない。



 今日は神官見習いの仕事も薬屋の仕事もなく休みだ。俺は昼近くまで寝ていた。


「サイガ様、サイガ様、起きてください」


 気持ちよくウトウトしていると、突然、スミーガンデが俺を叩き起こしに来た。


「どうしたの? 珍しいね。スミーがそんなに冷静じゃないなんて」


「今、酒屋に酒を買いに行ったら、酒屋の親父が王女が来週、城下町に降りて来るって言ってたのです」


「王女?王女ってことは……。王女ってことは貴族の娘よりすごいじゃないか!」


「ですよね。若様ならそう言うと思っていました」


 王国王女はとても大事に育てられているはず。そんな王女がわざわざ自ら城下町に何をしに来るんだろう?


「王女って超重要人物だから、城下町に来るなんてよっぽどの理由があるんだろうな。でもなあ、問題がある。王女だからって若くて美しいとは限らないぞ。内面も大事だが、やっぱり可愛くないとな。外見は重要だ。あと、おっぱいが大きい方がいい」


「おっぱい? なぜ、おっぱいが大きいといいのです? あんなのガキを育てる器官じゃないですか」


「おっふ、スミーは本当に人間の女の良さがわかってないな。丸みを帯びた乳房の造形は神の作りし究極の美」


「神って、馬鹿じゃないですか。まあ、人間の女のでかい乳を両手で力一杯揉むのは好きですけど。すごく痛そうな表情を浮かべますよ」


「いや、君がそんな力を出したら、女の子死んじゃうでしょ。究極の美をなんだと思ってるんだ。もう、可哀そうだなあ」


「サイガ様もどうですか? 面白いですよ。力一杯、揉みましょう」


「いや、俺はいいよ。俺はそういうの嫌いなの。で、来週のいつ王女はこっちに来るんだ?」


「来週の日曜日です。新しく孤児院ができたのですが、その開所式に王女が参列するようです。来るのは第四王女なのですが、彼女はその孤児院の建設に貢献したそうです」


「なるほど。慈善活動か。いいね。でも慈善活動をするような人なら、結構、年してる人かもなあ。まあ、期待せず、偵察に行ってみよう。もしかしたら、王女に随行している貴族の娘で美人がいるかもしれん。たくさん、侍女を連れてくるといいな」



 そして、待ちに待った、王女一行が城下町に降りて来る日になった。


 新しくできた孤児院の庭にはたくさんの花が植えてあり、ピンクや黄色の綺麗な花が咲いていた。


 孤児院はかなり大きな建物で、建設にはかなりの費用を要しただろう。


 日曜日の午前、孤児院の門の前にはかなりの人が集まっていた。きっと王女を一目でも見ようと俺と同じ考えの人が多いのだろう。門の前にはたくさんの衛兵がいて、一般人は門の中に入ることはできない。


 俺はできるだけ、近くに陣取り、王女の到着を待つことにした。


 とにかく衛兵が多い。俺とスミーガンデは衛兵の一人に呼び止められ、持ち物を調べられた。特に刃物などは持っていなかったので、問題はなかった。さすがに王女が来ることになっているから、警備は厳戒態勢のようだ。


 予定の時間から三十分ほど遅れて、王女が乗っていると思われる豪華な馬車と随行の馬車がやってきた。


 その馬車はクリーム色と金色の塗装がされ、全体に花や葉などの植物的なデザインが施されている。馬も普通の馬と違って一回り大きく、毛並みも良い。 


「さすが、王女様が乗る馬車だけあって、すごく立派だね」


 俺は馬車から降りて来る人物に注目した。


 一人の若い娘が降りた。可愛い。年齢は俺と同じくらいか。


 と、思ったら、もう一人、薄いオレンジ色の煌びやかなドレスに身を包んだもっと若い娘が馬車を降りた。


 着ている豪華なドレスとティアラからすると、どうやら、あの娘が王女のようだ。


 最初に見た女の子は王女の侍女だったらしい。


 俺はティアラを身に付けているその女の子に見入ってしまった。


 彼女の年はまだ十代に見える。若い。ちょっと幼い感じもあるが、気品に満ちている顔をしている。そして、間違いなく今まで会ってきた女性の中ではダントツの美人である。セミロングのプラチナブロンドの髪、瞳は青か緑色だ。その瞳には自信と優しさが感じ取れる。身長は170cmくらい。そして、胸が大きい。巨乳だ。


「若様、彼女が王女のようですが、どうです?」


「いい。あれこそ、神の作りし究極の美だと思う」


「はい?」


「とにかく、見た目は完璧だ」


「そうですか。なら、彼女と話せる距離まで近付きましょう」


「でも、近付いて、交際を申し込む、なんて無理だよな」


「えっ、じゃあ、どうしますか?」


「どうしたらいいかな?」


 俺はまさか王女があんなに若く、そして美しいとはまったく予想していなかった。 


「えっ、何を言ってるんです?まさか、無策でここに来たのですか?」


「いや、正直、そんなに期待してなかったんだよ。というか、侍女だったら口説けるかもと思ってたけど、さすがに王女を口説くのは無理なんじゃないかと思ってな」


「なんでそんなヘタレなんですか。サイガ様は魔王様のご子息なんですよ。身分的には人間の王女なんかより遥かに上に位置するお方です」


「そうは言っても、ああ、こんなことなら、手紙を書いておけば良かった。手紙を渡すくらいなら出来たと思うんだ」


 俺はラブレターを書くのは意外に得意なのだ。普通の女の子は手紙はかなり喜んでくれる。俺の推測だが、その場で消失する言葉と違って、手紙は後に残るからだと思う。記念にもなるし、一生懸命手紙を書いたという行為を女の子は嬉しく思ってくれるのだと思う。


「手紙?文字じゃなくて、素直に言葉で伝えればいいじゃないですか?」


「いや、手紙の方が色々と伝えられると思う。こんなに聴衆がいるこの場で彼女と長時間、会話するなんて無理だぞ」


「じゃあ、こうしましょう。私があの馬車と王女の警備兵を襲撃しますから、そのどさくさに紛れて王女を救出するのです。そうすれば王女と会話ができるはずです」


「ええ~、自作自演するの? 俺、そういうの好きじゃないんだよなあ」


「魔族と違って、人間なら、誰でも考える常套手段です」


「そうは言ってもなあ。ヤラセはほんと苦手……。あれ、スミー、何か聞こえないか?」


「ん? これは、……、犬ですね。十匹ほど、こっちに来ます」



 王女は司祭や国の有力者らしき人物たちと談笑している。その周りを孤児院の子供たちが取り囲んでいた。王女の近くには魔法使いと思われる男性警備が二人いる。あれはあらゆる攻撃を想定した防御魔法要員のようだ。


 そのとき、孤児院の裏の方から突然、爆発音がした。何人かの衛兵たちがそちらへと走っていった。


 平和そのものだった孤児院の周囲は急激に不穏な雰囲気に変わっていった。


 さらに、孤児院の門から、たくさんの犬が衛兵のガードを掻い潜って中に入り込み、子供たちに嚙みついた。逃げ回る子供たち、そして犬に噛まれた少女の泣く声が周囲に響き渡った。


「フィオナ殿下、危険です。すぐ、馬車にお戻りください!」


 王女の側近の若い女性が叫んだ。


「私のことはいいです。子供たちを守るのです。私の剣を持ってきてください」


「しかし、姫様」


「早くしてください」


 側近の女性が王女に剣を手渡すと、王女は受け取ったばかりの剣で自分の長いドレスのスカートを切り裂いた。王女は左手で掴んでいたスカートの切れ端を素早く捨てる。膝上まで、彼女の両脚が露出する。そして、王女は履いているかかとの高い靴も脱ぎ捨てて裸足になった。


 王女は素早く剣を振りかざして、近くにいる犬に裸足のまま突撃して行った。王女は少女に噛みついている犬の背中に剣を突き刺す。犬が痛みに反応して甲高く吠える。


「あなたたちも早く犬を殺してください」


 王女は犬の討伐に苦戦している衛兵や警護兵に命令した。


「マジかよ。あのお姫様、俺より戦闘の才能あるんじゃない?」


 俺は内心、ワクワクしていた。お城の中でダンスやお稽古事ばかりしていると思っていた王女が勇ましく剣を振るっているのである。


「サイガ様、あの女はダメですね。はっきり言って馬鹿です。この状況ではガキなどは見捨てて、逃げるべきです」


「スミー、自分の安全より、子供たちを守るあの精神が素晴らしいんじゃないか。気に入った。俺はもうあの王女のこと、かなり好きだよ」


「では、私たちも犬を殺しに行きますか?」


「いや、さっきの爆発もそうだけど、あの犬たちはたぶん囮だ。主犯は隠れている。犬だけなら、残った衛兵で対処できる」


「その主犯の狙いはなんなのです?」


「たぶん、王女だろう。あの王女は敵が多いのかもな」


 五匹目の犬が倒された。王女は子供たちを匿いながらまだ犬と戦っている。

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