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第6話 嵐の後の静けさは、次の嵐の予兆


学生寮に戻り、帰りを待っていたラズたちに何があったかを説明する。風花、大河、勇仁も改めて詳細を聞かされ、三者三様に眉間に皺を寄せていた。


説明が終わる頃には生徒会長のオルフェ、副会長のローズも学生寮にやって来たので、本格的に今日の襲撃者についての話し合いとなったのだが。


「ルチル様がご無事でよかったです!そんなことになってたのに……俺は何も知らず、のんきに掃除なんかして……!」


号泣するアミルに、それは仕方ないよ、と大河が慰める。


「町中でタイテニアに襲われる危険なんて、普通はあり得ないことだもん」

「……スヴェンたちの仲間がまだ復活してる最中……とか?」


勇仁が考えながら言った。きりがなさすぎる、とスヴェンはうんざりしたように言った。


「エンデニル傭兵団のメンバー全員が復活するってか?どこまでカウントされるんだよ。下手すりゃ一万行くぞ」

「目的の一致で一時的に参戦した者もいれば、定住先が見つかるまで一時的に傭兵団で世話をしていた子どもなどもいますからね。カルネですら、全員を把握はしていないのでは」


ラズが言った。

カルネ、ロベラは総督府から戻る道中でもずっと考え込んだままだ。上の空で返事もしない二人に、聞いてますか、とラズが声をかけた。


「ん……ああ、すまない……。オルフェたちのほうは何か分かったのか?」

「総督府でも調査中だが、あっちは正体不明のタイテニアとの接触すらろくにできていない。調べるにも手がかりがあまりにも少なすぎて……」

「進展もなさそうな調査よりは、警備体制の見直しのほうに力を入れる様子らしい。俺たちのタイテニアの修復も急ぐと母上が言っていた」


カルネに問われ、会長と副会長が答える。

総督府の人たちも、襲撃してきたタイテニアの正体を探ってはいるが、手がかりになりそうな情報は得られない。

……やっぱり、直接やり合った六花たちだけが、心当たりがある状態だ。


「正体不明のタイテニアは全部で三体。それぞれ火、水、土の紋章使いで……土の紋章使いについては、一万年前に死んだの俺たちのほうが心当たりがある」


ロベラが言った。


「カルネやルチルも見たから、俺と同じ人物を思い浮かべてるはずだ。あの能力はアレーナのものだった」

「あん?あのヘビ女がなんでいるんだよ?」


見た目は可愛らしいクマのぬいぐるみなのに、喋るとずいぶんガラが悪い。カワウソのぬいぐるみは、あり得ない話ではないでしょう、とさほど驚く様子もなかった。


「考えてみれば、現代に存在する一万年前の人間が私たちだけとは限りません。私たち自身、なぜ自分たちが雁首揃えてこの時代に目覚めたのかも分からない状態なのですから」

「その名前、俺も何度か聞いたな。誰なんだ?」


会長が言った。

俺の父親の部下だ、と風花が嫌そうに答える。


「前世の俺の話だがな。でかい国の王だったんだから、当然、俺以外にも紋章を使う部下が複数いた。風の紋章使いのブラッド、水の紋章使いのダリア、土の紋章使いのアレーナ」

「風、水、土をちゃんと揃えてるのに、火はいないの?」


大河が素直に疑問を口にすれば、火だったら俺がいるだろ、と風花が言った。


「じゃあ、今日、ミクモを襲った火の紋章使いは一万年前にはいなかった人?」

「エルドラド王国の火の紋章使いと言えば、王子のアッシュだけでなく国王ゴットフリートもそうよ。でもあれはゴットフリートじゃなかった」


六花が言った。

ゴットフリートとその二人の息子は揃って火の紋章使い、それも、ずば抜けて優れた実力者だった。おかげさまで、他の火の紋章使いのイメージがほとんどない。ゼロではなかったはずだが……。


「――俺はあれが誰なのか、心当たりがある」


風花が口を挟む。全員が風花に注目し、風花も自分を見るぬいぐるみたちを見下ろした。


「おまえたちはあいつと直接やり合ったことないだろ。だから気付かなかったんじゃないか?あのタイテニアの動きは、教皇直属の聖騎士団親衛隊長と同じだった」

「ダニオか」


ピンと閃いて、カルネが言った。


「そうか、見覚えはあると思ったんだ。ディオ……いまの時代だとエミリオだったな、一万年前にあいつに仕えていた教皇庁の騎士だ。俺たちエンデニル傭兵団にとっては味方の陣営だから、アッシュの言う通り直接戦ったことはない」


ロベラが言い、不思議そうにしているオルフェたちに向かって説明する。


ダニオのことは六花はもちろん知っている。一万年前の人物で、ロベラが説明したように、自分たちにとっては味方の人間だった。一応。

……六花を含めぬいぐるみたちが微妙な反応をするのを、オルフェたちも気付いたことだろう。あまり芳しい仲ではないことは察してくれたようだ。


「聖騎士団の連中からすれば、どこの馬の骨とも分からぬ卑しい一派が教皇から信頼されていることを好ましく思うわけがない。さすがに向こうも礼儀をわきまえた振る舞いはしていましたが、嫌われているのははっきり感じ取っていましたよ」

「やはりそういう関係か」


ラズが説明を付け加え、副会長が皮肉げな笑みを浮かべる。


「ディオと気安く親しくするから睨まれてただけで、戦場では信頼できる味方だったわよ。性格も騎士にふさわしく高潔で正義感の強い人だったし……ゴットフリートに下るとはとても思えないわ」


一万年前のことを思い出しながら、六花がフォローする。

たしかに自分たちは好かれてはいなかったが、命を狙われる心当たりはない。ましてや、ゴットフリートの部下だったアレーナと手を組んでいるなんて。


「でも今日リッカちゃんを襲った正体不明のタイテニアに乗ってた人間の一人は、ゴットフリートって人の部下でほぼ間違いないんだよね?」


大河の指摘に、たぶん、と六花に風花、カルネ、ロベラが頷く。うーん、と勇仁は眉を寄せて考え込んでいる。


「でも……三人目は全然知らない人なんだよね?ミクモたちの話を聞いた限り……誰も心当たりが出てこないから」

「そう……。そうなのよね。水の紋章使いだったけど、ダリアじゃなかったわ」


襲われた時のことを思い出して六花が言い、それにも風花とカルネ、ロベラも頷く。四人揃って頷くなら、と他の皆も納得していた。


「改めて考えてみると謎の人選だな。一人がゴットフリートの部下。一人がディオの親衛隊長。そしてもう一人は完全に正体不明――何があったらそんな三人が揃ってルチルを襲ったりするんだ」


カルネも考え込んでいる。

カルネの疑問に誰も答えられるわけもないのだが……六花があくびをしたことで、すっかり緊張が解けてしまった。


「ごめんなさい。真面目に考えなくちゃいけない時に……」


思わず漏れてしまったあくびに恥じ入りながら六花が謝罪すると、仕方がないさ、とロベラが擁護した。


「あんなものに襲われて、ルチルも疲れ果てて当然だ。詳しい話し合いは後日にすべきだったな」

「俺も、朝から彼女を連れ回した。もう休んだほうがいい」


オルフェ会長も六花を気遣ってくれたのだが、かえってそれが申し訳なくて六花は赤面する。

部屋に戻れ、と風花にまで呆れたように言われてしまった。


「……そうする。オルフェ会長たちは――」

「俺とローズも今日はここに泊まるよ。俺たちも詳しいことを知りたいから、カルネたちともう少し話す。リッカはゆっくり休んでくれ」


ありがとうございます、と礼を言い、風花と共に六花は談話室を出ていく。オオカミのぬいぐるみは、六花に抱きかかえられて一緒に出て行った。

見送った会長は、自分をじっと見つめる大河、勇仁の視線に気付いて目を瞬かせる。


「ミクモ、会長さんのこと名前で呼んでた」

「会長さんもリッカちゃんのこと名前で呼んでる」

「ああ、そのことか……」


何気なく口にしたことだったが、大河、勇仁は耳ざとく聞き取ったらしい。じーっと見てくる二人に、オルフェ会長はちょっと押されてしまう。


「今日一緒に出掛けて、これからはそう呼び合おうかって話になって……」

「いいなー。俺のことも名前で呼んでほしい。俺はみんなのこと名前で呼んでるのにさぁ、俺が空気読めないヤツみたいじゃん!」




扉の前で立ち止まった六花は、当たり前のように六花の部屋まで自分を送ってくれた風花に振り返る。

オオカミのぬいぐるみを抱きかかえて自分を見つめる六花に、どうした、と風花もいつもより優しい口調で問いかけてくれた。


「お兄様たちがいまの時代に現れた時に、この可能性も考えるべきだったなって、いまさら気付いたの」


ぬいぐるみを抱きしめる手に、無意識に力が入る――腕の中にいるロベラには、六花の動揺が伝わっている。


「アレーナにダニオ。みんな一万年前の、私たちに因縁にある人たちばかり。ゴットフリートだって、いまこの時代に存在してても不思議じゃなくなった」


しかも彼らは、このワダツミ帝国に――六花たちの周りに次々と集まり始めた。次に誰が自分たちの前に現れるか、予想できなくなってきた。

……予想したくない、という本音もちょっとある。嫌な予感を抱いてしまったら、それがかえって現実へと引き寄せてしまいそうで。


「いちいち気にすんな、そんなこと」


うつむく六花の頬に手を伸ばして触れながら、風花が言った。


「何が起きようと、誰が敵だろうと、俺が戦っておまえを守る。戦うことだけは自信がある。例えあいつがまた出てこようとも負けない」


風花を見上げる六花を、オオカミのぬいぐるみは何も言わず見上げていた。


「だからおまえは、のんきに学校生活を楽しんでろ。文化祭、もうすぐだぞ。トーシローたちも来週にはこっちに来る」

「……うん」


頷いた六花は部屋の扉に手をかけ、もう一度、風花を見た。


「ありがとう、フーカ」


何がとは六花も言わなかったし風花も聞かなかった。これで十分伝わったので六花は部屋に入り、ロベラをベッドのサイドテーブルに置いて着替えをする。

ロベラは着替える六花ではなく、いま入ってきたばかりの部屋の出入り口を見ていた。


「……双子だからって、ここまで似なくていいんだがな」


ロベラが呟く。


着替えをしていた六花は、彼が何と言ったのか聞き取ることはできなかった。

首を傾げて自分に振り返る六花に、なんでもない、とロベラも答えるだけだった。


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