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第3話弐 竜と誰かさんたちの正体


「リッカちゃんの知り合い」


六花の告白に他の誰もが口を閉ざす中、大河が呟く。


「うーん……だったら、俺と契約できるかも。この式神の正体が本当にリッカちゃんと縁のある人間で、リッカちゃんで説得できる相手なら」

「契約って?」

「さっきも説明したけど、いまの状況って、この式神が誰かと契約していたのを俺が強制的に断ち切って封印しちゃってる状態なんだよね。だからこの式神はいま誰も制御できないから迂闊に封印を解くのは危険なんだけど――」


机の上の紋章石を指で突つきながら、大河は話し続けた。


「俺と契約できるなら、封印を解いて、この式神が自我を持てる状態にできるよ。術者は大したことないから断ち切れたけど、式神自身が強すぎて俺と契約してもらえるかはまた別の話だったからさぁ」


さらっと説明してくれたが、専門用語が多くて六花もその説明だけですべてを理解することはできなかった。

ただ、それでも分かったことは――。


「アミルと話せるようになる?竜だった彼とは、全然意思疎通できなかったけど……」

「たぶん、できるんじゃないかな。前の術者はそのへんの縛りをガッチガチにやってたっぽいから」

「……なんか確定で話してるが、まだ何一つ確証はないってこと覚えてんのか?」


不穏な方向に話が進んでいることに耐えきれなくなり、風花が口を挟む。

風花の懸念も最もだ。根拠は六花の勘だけというとんでもない状況で、またあの竜を呼び起こそうとしているのだから。

でも、本当にアミルに会えるのなら――六花も、暴走気味の自覚はあってももう譲れない。


大河は六花の渇望も風花の懸念も察して、双方が納得できる落としどころを考えてくれたようだった。


「再封印しやすいように、式神は依り代を利用して召喚しよう。リッカちゃん。部屋の人形、一つもらってもいい?」


ぬいぐるみ作りが趣味の六花の部屋には、自作のぬいぐるみがずらりと並んでいる。大河に言われ、六花は自分の部屋を見回した。


「どれでもいい?」

「うん。一番良いのは俺の叔父さんに式神札を作ってもらうことなんだろうけど、リッカちゃんと縁のある人だって言うなら、リッカちゃんが手作りしたものも同じぐらいの効果があるはず。どこかをぱっくり切り開いて、この石が入るようにしてくれる?」

「……切るの」


急に六花のテンションが下がったので、男子たちは不思議そうにしている。

六花は部屋の中をもう一度見回し、ぬいぐるみを一つ取って、テーブルの上の紋章石の隣に並べた。


まるっとしたあひるのぬいぐるみ――裁縫箱も持ってきて、背中にある縫い目を丁寧に切る。縫い糸を切っただけでは石を入れられなかったので、布も少し裁断することになった。

開いたところから綿の中へと紋章石をむぎゅっと押し込むと、あとで手直ししやすいように太めの目立つ糸で裁断した箇所を手早く縫い付けた。


「よーし、いくよ。式神がどんな反応するか分からないから、リッカちゃんと俺以外はちょっと離れてて」


勇仁と会長、副会長は部屋の端まで下がったが、風花は眉間に皺を寄せた後、気持ち距離を取るだけだった。

何かあった時、助けられない距離を取るのは嫌だったらしい。


机の上のあひるのぬいぐるみに向かって両手をかざし、大河が目を瞑る。

ぬいぐるみを取り囲むように机の上に五芒星が浮かび上がって光を放ち……もぞ、とぬいぐるみが動いたような気がした。


「アミル……?」


六花が恐るおそる呼びかけると、ぬいぐるみがもぞ、と動いた。今度は気のせいではなく、はっきりと。だが返事はない。

ぬいぐるみはもぞ、もぞ、と何度か動き、表情の変わらない顔を部屋のあちこちに向けて――。


「……なんだここ。これが死後の世界ってやつか?」


ぬいぐるみから聞こえてきた声に、六花はハッと息を呑む。アミル、ともう一度呼びかければ、ぬいぐるみは六花のほうに振り返り、ピョンと飛び上がった。

……とてもコミカルな動きだった。


「ルチル様?ルチル様!」


六花を見つけたあひるは、机の上を猛スピードで駆け寄ってきた。


「ルチル様!申し訳ありません――俺……俺たち、カルネ様を助けられませんでした!」


土下座にも似た動きで机の上に突っ伏し、あひるが悲痛な声で叫ぶ。大河たちはキョトンとしているが六花には分かった。

彼は間違いなくアミルだし……彼の記憶は、一万年前の亡くなる直前のもので止まっている。


「あのクソ大神官のせいですよ!恩知らずの無能王め!俺たちに散々助けられたくせに、大神官の口車に乗ってカルネ様を処刑し、エンデニル傭兵団を潰そうとしてきやがった……!助けに行ったけど……スヴェンも死なせてしまって……!」

「アミル」

「ラズは、カルネ様は無事だって言ってたけど……あれ。俺も致命傷を負って死にかけてて……あ?ここが死後の世界なら、ルチル様まで死んじゃったんですか!?」

「アミル、よく見て」


興奮するアミルをなだめるように、六花は落ち着いた声で言った。

机に突っ伏していたあひるは顔を上げ、六花をじっと見つめる。ぬいぐるみなので表情は変わらないが、冷静さを取り戻して、目の前の女がルチルではないことに気付いたようだった。


「……声も雰囲気もルチル様なのに、なんか違う」

「人種すら違うわよ。すぐに私のことを見抜いてくれたのはありがたいけど」


六花から視線を移し、アミルは部屋をまたぐるっと見回している。すぐそばの大河に、離れたところにいる勇仁、会長、副会長……まったく見覚えのない異国の異文化の部屋。

分からないことだらけで言葉を失ってしまったアミルに、六花は説明した。


「私はルチルの生まれ変わりで、私たちが生きていた時代は、いまから一万年も前のものみたいなの。あなたは……これってどういう状態なのかしら。生まれ変わりとは違う……わよね?」


六花は大河を見た。

六花は一万年前に命を落としたルチルの生まれ変わりだが、アミルは生まれ変わりではない……のだろうか。式神に生まれ変わった、ということなのだろうか。

六花に代わって、大河が答える。


「いまのあひる君の話を加えて推測すると、彼は一万年前に命を落とした魂だけの存在。いまは人形を仮初めの肉体として与えられてるけど、俺たち陰陽師的な用語だと成仏できずにいる浮遊霊みたいなもんだね」

「意味はよく分からないがすっげぇ嫌な響き」


アミルがドン引きしながら言った。


「アミルにルチルに、カルネ、スヴェン……」


会長の呟く声が聞こえた。


「彼はエンデニル傭兵団と言った。ミクモ。君の前世というのは、ルチル教の聖母ルチルなのか」


その問いかけに、六花は無言で会長に振り返る。

ルチル教にあまり馴染みのない勇仁はガラテア人の二人との温度差がある態度だが、会長と副会長は神妙な面持ちだ。


短い沈黙の後、六花が静かに口を開く。


「……私、未婚でした。子どもなんていなかったのに……聖母ってどういうことですか。そんな称号、納得いかない!」

「気にするとこ、そこなんだ」


勇仁がつっ込んだ。あひるのぬいぐるみが六花と会長たちの顔を忙しなく見ている。


「いまの時代には、ルチル様の名前を冠した宗教があるんですか!?なんて素晴らしい!俺も入りたい!」

「うん、ちょっと静かにしてて。話がずれてる」


大河にしては珍しく、辛辣につっこんだ。ため息を吐く風花を、副会長が見た。


「ミクモが聖母ルチルの生まれ変わりであるのならば、フーカは賢人ロベラの生まれ変わりか。それなら伝え聞くロベラの力と同じ力が使えるのも納得だ」


違う、と風花は間髪入れずに即答し、あひるのぬいぐるみが振り返る。アミルは、この部屋にもう一人、少年がいることにようやく気付いた。

さっきまでは六花のことしか見えていなくて、割とすぐそばにいた風花を完全に見落としていた。


「ロベラ……?」


机の上を綿の詰まった足で歩き、風花に近付く。

――次の瞬間、綿でできたあひるは総毛立っていた。


「――じゃねえ!てめえ!クソ王子!てめえまでこの時代に生まれ変わってやがったのか!」


打って変わって悪態を吐き始めたあひるに、大河たちが引いている。ロベラじゃないのか、と会長が呆気に取られながら口を挟んだ。

あひるは会長たちのほうに振り返り、地団駄を踏みながら叫び続ける。


「こいつはエルドラドのアッシュだ!俺たちの宿敵仇敵くそったれえぇええ!」

「うるせえ」


わざとらしく耳を抑えて風花が言った。

状況が理解できなくて説明を求めるように自分を見てくる会長たちに苦笑しつつ、六花が説明した。


「私たちエンデニル傭兵団は、当時、大陸の覇者として君臨していた大国の支配に抗おうとする国に雇われていたんです。大陸のほとんどを支配していたその大国の名は、エルドラド王国。国王ゴットフリートと王子アッシュは、エンデニル傭兵団にとって最大にして最悪の敵だったんです。フーカは、狂戦士と恐れられたアッシュ王子の生まれ変わりなんです」


それで、と六花が続ける。


「アミルは私の力と相性が良かったこともあって、私と共に後方支援の部隊に配置されることが多かったんです。父王に命じられて私を狙うアッシュ王子と対峙することも多くて。本気で殺されかけたのも一度や二度ではないので、この反応なんです」

「クソ王子が、ルチル様から離れろ!」


両翼をバッサバッサさせてアミルが激怒する。怒り狂うその姿は、あひるそのものだ。

荒ぶる姿で迫ってくるあひるに、風花はベッドサイドに並べられたぬいぐるみを一つ取って思いっきりぶつけた。


「グエッ!?なんだこれ――俺……か?」


アミルにクリーンヒットしたぬいぐるみは見事に垂直に跳ね上がり、後ろに倒れ込んだアミルのそばにぼてっと着地する。

起き上がったアミルはぬいぐるみの姿を確認して、風花への怒りを忘れていた。


「一万年も前の人間だから、おまえらの絵姿ひとつ、この時代には残ってない。おまえたちのことを忘れたくなくて、六花はそんな綿をせっせと作ってたんだよ。せっかく再会できたってのに、俺に喧嘩売って無駄に寿命を縮めんな」

「ルチル様が、これを……」


アミルは両翼でぬいぐるみを抱えてじっと見つめ合い……首を傾げた。


「……これがあるなら、俺、こっちの姿になれば良かったのでは?仮の体として人形うんたらってあっちの子が話してましたが、いまの俺、鳥かなんかですよね」


う、と六花が気まずげな声を漏らす。そう言えばそうだよね、と大河が相槌を打ち、アミルと一緒になって自分を見てくるのを、六花は目を逸らした。


「ご、ごめんなさい……。アミルのぬいぐるみを選ぶべきなのは分かってたんだけど……アミルかどうか確証はない状態で、ぬいぐるみを切らないといけないって言われて思わず……。アミルのぬいぐるみを切りたくなかったの……」


いまとなっては六花も自分の選択を後悔しているのだが、あの時は、大切なぬいぐるみを失ってしまうかもしれないという不安のほうが勝ってしまって。

アミルも、そう言われては六花を責められない。人型ではない自分の手を見つめ、ぽつりと呟く。


「いまからでも、こっちの姿に変えることは……」

「あんまりやらないほうがいいかなぁ。君のこと、分かってないことのほうが多いんだよね。不用意に魂を動かしたりして、どんな副作用が起こるか」


大河の答えに、アミルはがっくり項垂れた。


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