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第5話弐 みんな秘密がある


六花たちが乗り込んでタイテニアを動かし始めると、自然と全員の注目が集まり、教師も、一年生たちも感嘆の声を上げている。

モラハン先生の指示に合わせてタイテニアを動かしつつ、後部座席から風花を見降ろす体勢のまま、六花が言った。


「注目されながらってすごくやりにくいわ。自分の一挙手一投足を見張られてるようなものだの」

「初めのうちはできるやつも少ないから珍しいだけだろ。そのうち、誰も気にもかけなくなる」


風花は周囲の視線など完全に受け流し、冷静だ。


「見事だ。二人で分担しているとはいえ、細かい動作まで完璧に動かせている」


絶賛するモラハン先生の、上機嫌な様子が操縦席から見えた。


タイテニアが実際にどう動くかを見せるための搭乗であったため、格納庫を少し歩いた後、もう降りることになった。

完全初心者の一年生たちは、タイテニアを立ち上がらせ、足を前へ動かすだけでもかなり手こずっている。最初から難なく歩かせていた風花、勇仁は、やはり突出してセンスが良い――ということを、六花は改めて感じていた。


二人乗りの操縦席は前後に席が並んでいるので、前の座席に乗っている風花が先に外に出る。

それから六花も席を出て、外から自分に向かって手を差し出す風花の手を取ろうと……。


「何をしている!すぐにレバーから手を離してタイテニアを止めろ!」


教頭の怒鳴り声が聞こえ、風花に向かって自分も手を伸ばそうとした体勢のまま止まり、六花は顔を上げた。


自分たちのすぐそばに、別のタイテニアが立っている。大河たちのものではない。他の一年生が乗っていた、特別製のもの。

そのタイテニアは大きく手を振り上げており、そのまま振り下ろせば、操縦席の外に出てきている自分たちに直撃だ。


モラハン先生は大河たちに話しかけていたので、六花、風花組の異変に気付いたのは教頭の怒鳴り声がしてからだった。


「逃げろ、ミクモ!」


パンチと呼ぶには非常に稚拙でぎこちない動きだったが、特別製のタイテニアは人間をすっぽり覆えるほど大きな手を振り下ろし、格納庫は大騒ぎとなった。


傍観者となった一年生たちの反応は様々で、悲鳴を上げた者もいれば絶句し、一言も発することができない者も。

ガラテア王女もこれには青ざめて口元を手で覆い、養護教諭のイシュカ先生もポカンとしている。


モラハン先生は手を振り下ろした反動を支えきれずに倒れこむタイテニアと、そのタイテニアに不意打ちを食らって倒れこむタイテニアに急いで駆け寄ったが、轟音と衝撃に、少し離れたところで立ち止まるしかできなかった。

教頭も駆け寄り、その顔からは血の気が引いている。


「なんということを……!」


操縦などという高度な技術ではなく、重力に合わせて落としただけのようなものだったが、それでも、あの重量の物が直撃しては人間などひとたまりもない。

タイテニア操縦席内にいれば耐えることもできただろうが、六花、風花は二人とも外に出てきていた。

……それを分かっていて、あの男子生徒はタイテニアで攻撃した。


「ミソノジ、ジョーガサキ、このタイテニアを動かせ!モラハン先生も近くのタイテニアに搭乗を!イシュカ先生は手当ての用意を急いで!私は校長に報告し、場合によっては総督府にも要請を――」


教頭の素早く的確な指示は、生徒たちのざわつきでかき消された。

何を騒いでいるのかと教頭は眉を潜めて生徒たちを振り返ったが、彼らが全員、さらに驚愕していることに気付いて、教頭はもう一度倒れこんだタイテニアに振り返った。


特別製のタイテニアには男子生徒が一人乗っていたはずだが、バランスを崩してしまったタイテニアを動かすことができず、倒れこんだせいで操縦席が床によって塞がれてしまい、脱出できずにもがいている。

六花、風花が乗っていたほうのタイテニアは操縦席から二人とも離れており、ちらりと見えるのを確認しても、中に誰も乗っていないようだった。

だが、重なるように倒れたタイテニアが、動いた……ように見えた。


気のせいではない。

特別製のタイテニアの手もとが動き、動く音も聞こえてくる。音は、やがて炎が大きく爆ぜる音へと変わった。


一瞬のうちに二体のタイテニアが真っ黒な炎に包まれ、上に重なったほうのタイテニアが動き出す。

――動き出したのではなく、下敷きになったはずの風花が、片手で六花をかばいながら、もう片方の手で巨大なタイテニアを持ち上げていた。


顔をゆがめ、渾身の力で持ち上げているのは分かったが……その見た目に反することなく、タイテニアはとても人間一人で持ち上がるようなものではないはずだ。それを……。

教頭のフロックハート先生も、信じられない光景に立ち尽くしていた。


「てめぇ……」


低く唸る風花の声には、聞いているだけでも震えあがりそうなほどの憎悪と怒りが込められている。

自分たちにのしかかるタイテニアの操縦席を睨む形相は恐ろしく、もとが美しい顔立ちなだけに、人間離れして悪魔のようにも見えた。

――傍観していた一年生たちは、後からそう言い合った。


呆気に取られていた周囲は、直後に何が起こったのか、誰も分からなかった。気付いた時には風花のすぐそばに、自分たちを攻撃したタイテニアを動かしていた男子生徒が引きずり出されていて、風花は絞め殺す勢いで生徒の胸倉をつかんでいた――男子生徒は真っ黒な鎖にがんじがらめにされており、悲鳴を上げて命乞いしている。


「熱っ――熱い、助けて――」

「俺たちを殺す気だったくせにふざけたこと抜かしてんじゃねえ。そのままくたばれ、クソが!」


風花の怒りに反応するかのように、黒い炎がさらに勢いを増していく。炎はタイテニアを包みながらも中心に立っている風花たち三人は無事で、格納庫全体に熱気が充満していった。


「フーカ」


六花が呼びかける。声は大きくはなかったが、燃え盛る炎の音にかき消されなかった。

風花が少し振り返って六花と見つめ合い――短い時間だったが、やがて、風花が舌打ちをした。

それと同時に炎が小さくなっていて、男子生徒を縛っていた黒い鎖と共に、完全に消え去っていった……。


「リッカちゃん、フーカちゃん!」


タイテニアが近づき、屈んで、操縦席から大河と勇仁が急いで飛び出してくる。


「二人とも怪我は?大丈夫!?」

「ごめん、助けが間に合わなかった」


六花と風花は攻撃されて倒れてしまったタイテニアの上に立っていたから、二人も駆け寄ろうとよじ登っている。

怒りを収めて普段と変わらぬ様子に戻った風花は胸倉をつかんでいた男子生徒を乱暴に床に放り捨て、六花を支えてタイテニアから降りた。


「お前らが責任感じる必要ないだろ。あのクソ野郎が勝手にやったことだ」


他の一年生たちも先生たちも、呆気に取られたまま。

すぐに駆け寄って来て自分たちの心配をできる大河と勇仁が、肝が据わり過ぎている。二人も、本当はものすごく驚いただろうに――六花はそう思った。




今年度の一年生にとって初めてのタイテニア実技授業は大騒動が起き、授業に参加した生徒はその後すぐに家に帰され、寮に帰された。

騒動の中心となった男子生徒は教師のモラハン、フロックハートによって何かを話す間もなくどこかへ連れて行かれ、六花、風花の二人はイシュカ先生と共に保健室に移動することになった。


「目立つ外傷はなし、骨に異常も見受けられないし……頭部にも、異変はなし」


ルミナス学院の保健室は広く、奥の部屋はベッドだけでなく、寮の談話室のような寛ぎの場があった。

イシュカ先生はそちらの部屋にあるゆったりとしたソファーに座らせて診察し終えると、二人を見て優しく微笑んだ。


「気分が悪かったり、違和感があったりしない?どんな些細なことでも言ってね。いまは興奮状態にあるから、後で何かがあるかもしれないわ。だから、時間が経ってもう関係ないことかもしれないと思ったことでも遠慮なく言うのよ。私でもいいし、他の先生でもいいから」


養護教諭らしい心地よい声と口調で、イシュカ先生が言った。


「じゃあ、二人とも今日はもう寮に戻って。大事を取るために、明日も一日お休みしてもらいます。先生の誰かが事情を聞きに来るでしょうけど、答えるのが辛かったら無理はしなくていいからね。養護教諭として、無理はさせないよう私からも言っておくから」


ありがとうございました、と六花は礼儀正しく頭を下げて保健室を出ていく。風花も、小さく頭を下げた。


ニコニコと笑顔で二人を見送った後、イシュカ先生は保健室奥にある資料棚の一つを横にスライドさせて動かして。

棚の後ろは少し空洞になっていて、洗面台が置かれていた。蛇口のような装飾部分にイシュカ先生が手をかざすと、そこから水が流れ始める。

水で満たされた水槽をじっと見つめていると、透き通った水に不自然な影が浮かび上がった。


『……どうした。ジョゼフに何かあったのか』


影から、男性の声が聞こえてくる。イシュカ先生は六花たちにも見せた笑顔のまま、話し始めた。


「いいえ。王女様には何もなかったけれど、とんでもないことが起きたので、本国にこの話が届く前に、あなたに報告しておこうと思って」

『とんでもないこと?』

「噂のワダツミ人は全員紋章の適性があって、その中に、黒い炎を操る男の子がいた」


先生の簡潔な報告に、影は返事をしない。黙り込み、考え込んでいるようだ。先生が話し続ける。


「居合わせた生徒たちが、彼は賢人ロベラの加護を受けた者に違いないと噂しているわ。五賢人の加護を受けた人間が現れたとなれば、本国にまでこの話は必ず伝わるでしょうね」

『ロベラのわけがない』


影がきっぱりと否定する。


『黒い炎を操る男……。君たちのほうが心当たりがあるだろうに、白々しい報告だな。でも、そうか……僕以外にも、僕と同じようになった人間がいたのか……。その可能性は考えていなかった』


また影は黙り込んだが、今度は短い時間であった。


『彼が同じ時代に生まれ変わっていてくれたとは好都合。ルチルの居場所を吐かせる――今世こそ、彼女を見つけ出さなくては』


最後の言葉には、切実なる想いが込められていた。イシュカ先生はそれに反応することなく、影もイシュカ先生の反応などどうでもいいようで、すぐに冷淡な声に戻って言った。


『君は引き続きジョゼフを見守りつつ、彼についての報告を』


一方的に言い終えると、水に浮かぶ影は消え、声が聞こえることはなくなった。


イシュカ先生が蛇口のような装飾部分にもう一度手をかざせば、水槽の水は音もなくスーッと消え去っていった。


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