夏の空と悔恨 【月夜譚No.310】
ラムネの瓶を通して見た夏空は、綺麗な色をしていた。透明感のある澄んだ青に 白い入道雲、時折野鳥が行き過ぎる。
少年は掲げていた腕を下ろし、カランとビー玉が鳴る瓶を自身の手ごと草の上に寝かせた。仰向けの彼に降り注ぐ陽射しは暑く、しかし傍らを流れる川から吹く風は涼やかで心地が良い。
毎年、夏休みは田舎にある祖母の家で過ごすのが恒例になっていた。共働きで忙しい両親は中々休みが取れず、学校が長期休暇ともなると一人にするのは心配だと言って、祖母の許で夏を越すことが当たり前になった。
田舎は嫌いじゃない。のんびりした空気は日常を忘れさせ、近所には毎年一緒に遊ぶ同い年の友人もいる。憂いなどはほとんどなく、毎日が楽しい――はずなのだが。
今年は一つ、大きな失敗を犯した。それが気懸りで、心から夏を堪能し切れていない。
少年はまだ幼さの残る瞳に青空を映して、後悔と虚しさの色を過らせた。
(……宿題、置いてきちゃった)
自宅に帰るのは、夏休み終了五日前。数日で一ヶ月分の宿題を片づけなければならない絶望に打ちひしがれる彼が、両親に宿題を郵送で送って貰えば良いことに気づくのは、もう少し後の話である。