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第2返済 解散?

 それからの日々は、トラガスの頭を悩ます問題がどんどん増える日々だった。


 戦闘では、相も変わらずダイスが真っ先に突っ込むし、アンテナは平気で矢を浪費する。


 モンスターの素材やドロップアイテムが手に入ってそれを換金しても、すぐにイヤーロブが使ってしまう。


 ギルドから返済するように言われても、そもそもそのお金をイヤーロブが使ってしまっており、返済すらできない。


 事あるごとに祝いと称して豪勢な料理を頼んだりもしている。


 トラガスの我慢はいい加減に限界だった。


「いい加減にしろ!」


 食堂に鳴り響いた声は意外にも大きく、周囲の客もトラガスたちに注目した。


 しかし話しているのが、トラガスたちトラブルパーティ―だと知って気にしなくなった。


 ただ、次はどんなトラブルを抱えているのかと、気になる野次馬は数人いるようだ。


 そんな周囲の目を気にせずにトラガスが話し続ける。


「何度言ったら分かるんだ!」


 言いながらトラガスは何度もテーブルを叩く。


 その度に、上に乗っている飲み物が揺れ、食べ物は少し床に零れた。


「お。落ち着けよ」


 アンテナがなだめる。


 さすがに好奇の目に晒されるのは耐えられないらしい。


「確かに少し自由にやりすぎたわ。そこは謝るからもう怒らないでちょうだい」


 イヤーロブも同様だった。


 違うのはダイスのみ。


「まぁまぁ。そんなに怒るとご飯が美味しくなくなっちゃうよ? だいたいトラガスくん。キミはちょっと怒りすぎなんだよ」


 ヘラヘラと笑うダイスに、トラガスの怒りのボルテージは更に高まった。


「おいおいそれを言ってやるなよ」


 これに悪ノリするのがアンテナだ。


 いつものパターンだ。


 トラガスがどんなに真剣に話しても聞いてもらえない。


「そうよ? いくら私たちがか弱い乙女だからって女の武器を使うのはよくないわ」


「そうだった! ボクとしたことが申し訳ない。トラガスくんは怒るのが仕事だからボクたちはそれにびくびくしたらいけないんだね?」


 イヤーロブの言葉に、ダイスが手をポンと鳴らした。


 どうやらこの3人は、トラガスがすぐに怒るのが悪いと思っているようだ。


 いつもならトラガスもここで諦めるのだが、ここ最近の不機嫌さと心理的な余裕の無さが重なって、今日は諦めきれなかった。


 いわゆる、堪忍袋の緒が切れるというやつだ。


「ま。か弱い乙女のオレらが我慢して怒られてやろうじゃないの」


 アンテナがポン。と隣に座るトラガスの肩に手を置くと、トラガスが立ち上がった。


 これにはさすがにまずいと3人も直感した。


 3人が想像していたのは、トラガスがもっと怒りだすだろうということだった。


 しかしトラガスが取った行動は、3人にとって予想外のことだった。


 トラガスは無言で立ち去ってしまったのだった。


 好奇心から見ていた周囲の客は、やれやれと首を振って自分たちの食事に戻った。


 ダイス・イヤーロブ・アンテナの3人は、呆然とその場に座り続けていた。


 ●


 食堂に取り残された3人が我に返ったのは数分後のことだ。


 事態を理解するのにやや時間がかかったのは、これほど怒るとは思わなかったから。そして、こんな結果になるとは思わなかったから。だ。


 なんだかんだで、トラガスは優しく許してくれていた。


 しかし、今まで借金を返済するどころか負債がどんどん増え、トラガスの貯金すらも3人は食いつぶしていた。


 その上、借金の返済計画もしっかりと立てられず、自分たちは贅沢をしトラガスは節約する日々を過ごしていた。


 怒るなと言う方が無理だろう。


 むしろトラガスはここまで頑張った方だ。


 そこは、彼女たち3人もしっかりと分かっている。


 しかし、分かっているからこそ問題だった。


「まずいぞ!」


 テーブルに残っている食事を口にかっ込みながらアンテナが口を開く。


「金づるが居なくなっちゃうね」


 ダイスが本音を言う。


「私たちの借金が減らなければ、この生活ともおさらばよね」


 イヤーロブが、この生活。と言いながら、食堂での豪勢なご飯を見る。


「それは困るよ」


 ダイスが焦る。


「仕方ないわね。素直に謝ってしっかりと私たちも働くしかないわ」


「トラガスが1人でオレたちを養ってくれればいいのになー?」


 ちぇーっと。アンテナがわざとらしい舌打ちをする。


「とにかくダンジョンでは、トラガスの指示に従いましょ」


 仕方がないが、今のこの生活を守るために3人は再びトラガスとダンジョンへ向かうことを決めた。


 しかし3人は、世の中そんなに甘くないことを思い知ることになるのだった。


 ●


 宿に戻ってからもトラガスの腹の虫は収まらない。


『だいたいなんで俺があいつら3人の借金を肩代わりしなきゃなんないんだよ! しかも俺の貯金も全て使いこみやがって! なんで俺がこんなに我慢しなきゃなんないんだよ!』


 イライラしながらもトラガスは眠りにつく。


 翌朝になると怒りは少し収まっていたが、堂々とトラガスがいる部屋に戻ってきた3人の寝ている姿を見たら、再び怒りがこみ上げてきた。


 昨日は甘やかして食事代も宿代も払ってあげていた。


 3人はお礼も言わず、当然のように食事を済ませ宿でおそらく昼過ぎまで寝ているのだろう。


 トラガスは自分の荷物を全て持ち、宿をあとにした。


 町はまだ早朝だというのに騒がしい。


 トラガスは町をぶらりと散策する。


 これからは、もっと節約せねばならないため、寝泊まりするのは宿屋ではなくキャンプ場ということになる。


 あえてキャンプ場で寝泊まりしている冒険者もいるが、その理由は他の冒険者との交流のためだったり、冒険者の広場とキャンプ場が隣同士だからだったりする。


 トラガスはキャンプ場の場所を確認して、冒険者の広場へと足を踏み入れた。


「おう! 問題少年。これ安いぞ」


 1区画で店? を開いている冒険者のおじさんが声をかける。


 これ。と言って短剣を手に持っている。


 どうやらトラガスもすっかり有名人になってしまったようだ。


 トラガスの手持ちは残り少ない。


「いや。今はやめておくよ。それよりもおじさん一緒にダンジョンに遠征に行かないか?」


「何言ってやがる。問題少年には問題少女のパーティ―がいるだろ? 他のパーティ―とダンジョンに入るのはご法度だぞ?」


「だよねー」


 はっはっは。と笑って誤魔化しながらも、トラガスは内心悔しがる。


 トラガスの目当ては一緒にダンジョンに入ってくれる、どこのパーティ―にも所属していないフリーの冒険者だ。


 1人でダンジョンへ向かってもいいが、1人よりも他の人がいた方が安定感がある。


 だがこの日はフリーの冒険者は見つからなかった。


 しかたなくトラガスは1人でダンジョンへ向かった。


『あわよくば換金アイテムを入手できればという感じだな。とりあえず自分の腕を磨くか……』


 ダンジョン最下層から上には絶対に行かないと決めた。


 前回マッピングした手書きの地図を広げる。


 入口から数メートルは直進しかない1本道だ。


 その後左右へ別れる。


 前回も前々回もこの分かれ道までしか行っていない。


 ダンジョン1階には、稀に苦い草という野草が生えている。これはアイテム屋で売ることが可能なアイテムだ。


 トラガスの狙いはこの草とスライムだ。


 スライムを倒すと、稀にドロップアイテムでドロドロの液体が手に入る。


 幸先よく、分かれ道に着く前にスライムに3回遭遇し、ドロドロの液体を1つ入試できた。


 トラガスにとってはまだ数回程度の戦闘だが、それでも実践による経験値が着実に積まれていった。


 ●


 トラガスが宿を引き払ってから数日が経過した。


 ダイスたちは、この大きな町でトラガスを見つけられずにいた。


 困った彼女たちは、とりあえずアルバイトをして日銭を稼ぐことにした。


 更には、少しずつでも借金を返済するようにしていた。


 トラガスが戻ってこないことで、トラガスが本気であることを知り、少しでも戻ってきやすくするためだ。


 それでもトラガスが戻って来ない日々が続き、彼女たちの中には、パーティ―解散の危機が着実に生まれていた。


 そんなことはつゆしらず、トラガスは相も変わらず1人でダンジョンへ入っていた。


 ダンジョン最下層は、初心者冒険者が訓練をする場所である。


 強いモンスターが出ることもなく、サクサクと探索できてしまう。


 注意しなければならないモンスターと言えば這い芋虫くらいだ。ややでかい白い芋虫だがギザギザの歯があり噛まれると痛いでは済まない。


 ドロドロの液体に加えてトラガスは、苦い草を1束入手していた。


 このまま数メートル先の分かれ道までは何事もなかった。


『この先は未踏の地。引き返すか悩むな……』


 通常ならば迷わず進むべきである。


 しかしトラガスはまだ新米で、1人でかなり慎重になっていた。


 少ないが換金アイテムが入手できたので、これだけでも換金してしまおうと、逃げ腰の気持ちが芽生えてしまったのだ。


 一説によれば、ダンジョンのモンスターは冒険者の心理に反応する――


 トラガスの目の前に複数のスライムと複数の這い芋虫が現れた。


 最下層でこの数のモンスターは通常あり得ない。


 いくらダンジョンのモンスターが冒険者の心理に反応する。という噂があったとしても――


「ありえない……」


 トラガスの背後から見知らぬ声がする。


 見たことない女の子だが、装備を見るに初心者冒険者のようだ。


 どうやらトラガスとこの女の子がモンスターに囲まれてしまったようだ。


 違うパーティ―でも、冒険者同士は協力し合うもの。


 言葉を発しなくても、トラガスと女の子は共闘を開始する。


 女の子の武器はボウガンなので後衛なのが分かる。


 しかし、囲まれている状態では前衛も後衛もあまり関係なかった。


 たった2人の初心者冒険者……


 絶体絶命である。


 トラガスは後悔した。


 こんなことならダイスたちを置いて1人でダンジョンに入らなければよかった――

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