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9:私の旦那様

 ヴィクトールに立たせてもらい、肩を抱かれて裏路地を出た。

 夕日がまもなく沈む城下町の広場では、ヤヌスが部下たちに指示を出し片付けをしているのが目に入る。

 昼と夜が入れ替わり、市場から歓楽街へと替わっていく町を見ながら、私たちは城までの道を歩いていた。


「ヤヌス……で合ってるよね。彼は昔からウチに出入りしている商人なんだ。ヴィンセントって名乗ってたけど、偽名だったんだなぁ」


 穏やかな沈黙の中、ヴィクトールが口を開く。

 ヤヌスが偽名を使っていたのは、”聖剣の勇者アルベルの副官ヤヌス”という存在に、嫌気が差したからだろうか。

 もし私への罪悪感がそうさせたのだったら……やはり、斬らなくて良かった。


「しっかし、僕なんか彼が本気出したらひき肉になってたと思うけどねぇ。啖呵は切ってみるもんだ」


「……」


「……余計な事をしたのは分かってる」


「……いえ」


 冗談っぽく笑うヴィクトールが、申し訳無さそうに眉をひそめる。

 私は、余計なことなんかじゃない。と言いたかったのだが、まだうまく動かない口は下手くそな返答をして、彼は気まずそうに頭を掻いた。


「言い訳はさせてくれ。ジュリアに昔の仲間を殺させたくなかった」


 聖剣を抜く腕を止めてくれたことに、私は本当に感謝しているのだ。

 言い訳なんて言いつつ、優しい彼は私の頭をぽんぽんと撫でる。

 それがとても暖かくて、自然と寄り添っていた。


「……はい」


 しかし、この時の私は完全に忘れていたのだ。

 私が一介のメイドであって……ヴィクトールの専属として雇われた普通の女だったことを。


――


「ねぇジュリア。旦那様となにかあった?」


「……何もないけど」


「裏路地から抱き合って出てきたってほんと?」


 城に戻り、食堂で簡単な食事を取っていると、レイラが隣りに座った。

 にやにやと笑いながら肩をぶつけられて、気づけば周りのメイドたちがこちらを見ている。

 思えば裏路地で長々と深刻な話をしてきたのだが、確かに……帰る時にはヴィクトールに体を預けていた気がする。

 ただ、断じて抱き合っていたわけではないと、真剣に否定した。


「抱き合ってない。レイラ、それ誰から聞いたの?」


「いや~あはは……で、どこまで行ったのよ」


「だから、何もしてない」


「ふ~ん」


 レイラが囃しているのは、男女の話だろう。

 一瞬だけヴィクトールとそういう事をする想像が頭をよぎり、自然と顔が熱くなって……とっさに首を横に振る。

 すると彼女はますますにやにやと頬を緩め、私の頬をつついてきた。


「やるじゃん。旦那様が私以外の女の子と二人きりで話してるの、超珍しいのよ」


「……そうなんだ」


「みんな物凄くびっくりしててね~。もちろん、私もだけど」


「……そう」


 噂がすぐに広まった、というのは理解できる。

 ヴィクトールが珍しく女を誘い、二人で城下町まで行って、二人寄り添って歩いていたのを誰かが見ていたのだろう。

 それが噂されているのがあまりに恥ずかしくて、適当な相槌を打つので精一杯だった。


「ありがと、ジュリア。私の旦那様をよろしくね」


 するとレイラはまるでヴィクトールの姉のような優しい声で、これ以上の追求はせずに、私の頭をわしわしと撫でる。

 そして、今度はからかうような声で続けた。


「あ、旦那様と寝るときはシーツ破かないでよ?」


「……レイラ!!」


「あはは!! じゃあね~」


 流石に下世話な話を振られ声を上げると、彼女はきゃーきゃーと笑いながら逃げていく。

 残された私は周りから好奇の目線を浴びながら……ただただ芋を口に放り込んで恥ずかしさを紛らわせるしか無かった。







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