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1:裏切りの婚約者

――ただいま!! アルベル、あの邪龍はもういないし、そろそろ結婚よね?


――ジュリアじゃないか。裏切り者が何をしに来たんだ?


 真っ暗な洞窟に滴る水の音に、私は目を覚ました。

 ひどく喉が渇くし、腹も減った。いつから飲まず食わずなのかも覚えていない。

 聖剣エッケザックスの加護により不老不死になった私は、もう二度と死ぬことすら出来ないのだろう。


――随分蓄えていたもんだ。エッケザックス家は。お前も死んでくれればよかったのに。


 幻聴が嫌にはっきりと聞こえる。

 帰ったら結婚するはずだった幼馴染の婚約者アルベルが、帰った私を見て吐き捨てた言葉の数々だ。


――ああそうだ。邪龍が飛び去っていくのを見たんだよ。お前、取り逃がしたんだろ? 婚約破棄するのに丁度いい理由が見つかって良かった。


 邪龍を殺すことが出来なかったのは事実だ。

 言葉も通じる心優しく穏やかな龍、しかしただ生きているだけで魔獣を生み出す瘴気を撒き散らすという存在を、私はどうしても斬ることが出来なかったからだ。

 だから邪龍とこれ以上争わずに済むよう、王国から遠いところへ移住してもらうと言う約束を取り付けたのだが……。

 ……帰ってきた私に待っていたのは、言葉も通じない醜い人間だった。


――残念だったな。国王陛下に話はついてるぞ。お前の家の財産は、俺の物だ。


――ね、ねぇ……アルベル、さっきから……何を言っているの?


――おい、お前ら。やれ。


 聖剣の勇者である私が民に慕われていることを快く思わなかった国王は、財産を奪おうとした婚約者からのおぞましい提案に乗った。

 私が戦友だと呼んでいた者たちが私を捕らえ、国王は反論をする暇も与えず投獄したのだ。

 『邪龍を逃した裏切り者』。それが、私の最後の肩書きだった。


「ぅ……ぁ……アル……ベル……」


 泣こうとしても、涙は枯れ果てた。

 叫ぼうとしても、擦り切れた喉は血を吐くばかり。

 封印魔法が作る牢獄は私を餓死させようと縛り付け、聖剣の加護は私を生かそうと死ぬ寸前で意識を戻す。

 その繰り返しに私を永遠に閉じ込めるためだけに作られた洞窟で、私は死ぬことも出来ずに夢を見続ける。


「やっと見つけ……運び……」


「ごめん……ごめんね……ジュリア……薬……飲ませ……」


「さっさと……! 見つか……殺され……!」


 夢現に紛れ懐かしくも憎らしい声がした気はするが、復讐心も何もかも燃え尽きた私に、起きる気力はなかった。






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