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パラレルワールドの赤い糸  作者: しのたと
3/7

赤い幽霊

今日に仕事はほとんど上の空だった。ずっと昨夜の幽霊のことを考えていた。


 『今日もいるだろうか。きちんと話せるだろうか。』


 そんなことをばかり考えていたので、家に帰ったのもわからない。


 「おかえり。」


 そのまま部屋に入る。


 「ねぇ、パパ。もう全くまた変になってるぅ。」


 すぐに装置のセットをする。あたりにカメラを向けると昨日の赤い幽霊は私のそばにいた。そっと頭を撫でる。


 『また来てくれてありがとう。』


 『大丈夫かい?まだお腹空いているの?』


 『おなかペコペコ。朝から何も食べていない。料理したいけどやり方がわからない。』


 『何か食べ物は近くにないのかい?』


 『卵とお米があるけど。』


 『ならお米を炊いて目玉焼きを作ろう。』


 『でもやり方からない。』


 そう言う幽霊に普通に炊飯器の使い方と目玉焼きの作り方を教えた。


 『ありがとう、やってみる。』


 『それでお腹がいっぱいになればよいね。』


 『うん、食べる。ありがとう。』


 そう言った後、幽霊は消えていった。


 『やった、幽霊が成仏した。このように霊能者さんは成仏させているのかぁ。』


 いっぱしの霊能者気取りになった気分である。


『この調子でほかの幽霊も成仏させてみよう。』


そう思い、また装置を持って外に出るため部屋を出る。


「パパ、ご飯は?ねぇ、パパ。」


すずの声も聞こえず家を出る。


「また始まった。あれだからママ出ていったのに。このままだと私も出て行くよ。」



また廃校に足を運んでみる。そこにはやはり数人の幽霊がいた。意気揚々と一人の幽霊に向かって歩き出す。そしてその頭に触れる。


『声を聞かせてくださいね。』


幽霊に話しかける。しかし反応はない。不思議に思い他の幽霊でも試してみた。しかしすべて反応はない。


『どうしてだ?さっきはうまくいったのに。やはり赤くなっていなきゃいけないのか?』


周りにカメラを向けて他に赤い幽霊を探してみるが見当たらない。


『あの幽霊は特別なのか?なんであの幽霊だけ赤いのだ?』


いろいろ考えながら帰路についていた。


「おかえり、多分聞こえてないけどね。」


「あっ、ごめん。またやってしまっていたか。」


「もう、いつもいつも。そういうとこよ、パパの悪いとこ。気を付けないと再婚も出来ないよ。」


「再婚?そんなのしないよ。ママに悪いし。」


「そうやっていつまでもママのことを引きずってないで、先を見なよ。まだ50前なんだからワンチャンもう一回くらい結婚できるよ。私のことは気にしなくて良いから、いろんな人と関わった方が良いよ。」


「うん、少し考える。」


「じゃっ、ご飯勝手に温めて食べてね。」


捨て台詞のようにはいて部屋に入っていった。


『先を見るか。』


ずっと過去に縛られていた。それを研究のせいにしていた。その研究が終わりに近づいてきた今、その後にあるものを探さなくてはいけないのかもしれない。最愛の妻も失い、娘もこのままずっと家にいる訳でもない。


『私には何があるのだ?研究がうまくいったらたぶん世界が変わる。でもその先には何 

があるのだ?』


 深く考えないで研究を続けていた。その先にある世界を。ただの探求心だけですべてを失う。考えていくうちに怖くなってきた。


 『しばらくは仕事に打ち込むか。』


 夕ご飯を食べゆっくり風呂に入る。


『今日は早く寝よう。』


布団に入り眠りにつくことにした。



次の日から装置に触れず仕事や家のことに専念することにした。


そして休日。


「いらっしゃいませ。あら、新堂さん。」


「こんにちは、相変わらず笑顔が素敵ですねさっちゃん。」


「えっ、どうしたんですか?急にそんなこと言って。何かありました?」


「いえ、少し変わろうかなぁって。」


「いいですね、新堂さんに褒められるの嬉しいです。ありがとうございます。」


「なかなか照れますね、こういうの。」


「いいじゃないですか、もっと積極的にいった方が良いですよ。まだまだ若いのですから。」


「ありがとう、すずにも同じようなこと言われて。」


いつものようにコーヒーを飲みながら外の景色を見て物思いにふける。

ここからの景色はすべてを忘れさせてくれる。頭の中が空っぽになる、そのような大事な空間。やはり私には大事な場所なのであろうここは。

ふと赤い幽霊のことを思い出す。


『あの幽霊は本当に成仏したのだろうか。』


気になりだすと落ち着かなくなってきた。私の悪いところである。


『少し落ち着こう。』


「コーヒーお替り良いですか。」


「はい、今日もゆっくりですね。だいぶ落ち着いた感じが出てきましたね、よかった。」


「やっぱりわかってしまうものなのですね。」


「新堂さんはわかりやすいから。」


お替りのコーヒーを飲みながらまた外の景色を眺める。

喫茶店を後にして赤い幽霊のことをまた思い出す。もう一度見てみようと思って来た。もしかしたらまだいるかもしれないと感じてきていた。

 家に着きさっそく装置の電源を入れる。カメラでゆっくり辺りを確認する。するとまだあの赤い幽霊はそこにいた。そっとその幽霊の頭に手を触れた。


 『やったぁ、また来てくれた。』


 びっくりしてまた手を放してしまった。まだ成仏はしていなかったのだ。それより私を待ってる。完全に取り憑かれたのかもしれない。そう思いまた幽霊に触れる。


 『この前はありがとう。自分でご飯作ったら褒められたよ。もう料理して良いって。また教えて、料理。』


 『うん、いいよ。良かったね。君は今どのようなところにいるんだい?』


 『暗く汚い場所、そこにただ一人でいるよ。だからまた会えてうれしい。』


 『そうか、汚いのはだめだなぁ。少し掃除しようか、料理はその後だなぁ。』


 『はーい。掃除する。あなたの言うことすれば褒められるから。褒められるって嬉しいね。』


 まるで昔の娘を見ているみたいな感じがしてきた。そのため以前妻が娘にしてきたことをその幽霊にもしていた。


 『まるでもう一度育児をしているみたいだ。』


 不思議な感覚を覚えながらその幽霊の話に耳を傾ける。


 『いつもね、学校で無視されているの。だからすごく寂しいの。友達も出来なくてね、でも勉強が好きなんだ。いろんなこと覚えるの大好きなの。後ね、学校の帰りに猫がいてね、・・・・』


 他愛もない話を立て続けにしてくる幽霊。よほど話を聞いて欲しかったのだろう。その話に相槌や感嘆の言葉をかけ聞いていく。本当に娘みたいである。ひとしきり話をして。


 『大丈夫ですよ、みなとさん。私はまた来ます。きちんと話を聞きますよ。だから大丈夫。ゆっくり寝てください。大丈夫。』


 『うん、ありがとう。私も大丈夫。きちんと今も寝てるから。』


 今にもその笑顔が見えそうな会話。


 『じゃぁ、またね。また来ますからね。』


 『絶対だよ。絶対また来てね。私待ってるから。きちんとよい子で待ってるから。』


 幽霊から手を放す。かなりの疲労感である。幽霊と話すのは精神力がいるみたいだ。


 『仕方がない、この幽霊を研究材料にしよう。そのほかの幽霊は観察対象として、また同じような幽霊を探すようにしよう。』


 家のことや仕事をきちんとしないとまたすずに怒られる。やることやりつつ研究を進める。私も少しずつ変わろう。もう研究は終盤だ。幽霊についてただ知るだけ。幽霊を見て会話をすることを夢見てきたのだから、後はゆっくりその夢を堪能しよう。


 夕飯の準備をしているとすずが友達のところから帰って来た。


 「おかえり。」


 「ただいまぁ。って珍しい、どうしたのパパ。なんかいつもと違う。」


 「んっ、何も変わってないよ。今日は楽しかったかい。」


 「うん、いつも楽しいけど。やっぱりなんか違ぁう。違和感しかない、まぁ良い方に変わって来たみたいだけど。研究上手くいっているみたいね。」


 「うん、もうすぐ終わるからね。これからはきちんと家のこと手伝うよ。」


 「ありがとう、この姿ママにも見せてあげたいなぁ。あの変人おじさんがきちんとパパになった姿。」


 「変人おじさんって言いすぎですよ。まったく父親つかまえていつもおじさんって。」


 「だっていつもパパ、自分のことおじさんって言うから。それに時々敬語だし。」


 「それは仕方ないですよ、性格だから。ママにも時々敬語だったからね、だから逆に寂しくさせていたのかなぁ。」


 「そこがパパの良いところでもあり、悪いところね。」


 「すずはママと今までどんな会話をいたの?」


 「えっ、普通よ。でもママは厳しかったなぁ。でもその中に優しさがあった、いつも温かかったよ。」


 「そっか、おじさんにはわからなかったな。全然ママのこと見ていなかった。すずのことも。」


 「まぁいいんじゃない、気づいたんなら。これからよ。」

 

 一緒に料理をしながら会話をする。このようなことを妻とも出来ていたら、きっと今は違っていたのだろうか。でももう戻らない、振り返っても仕方がないこと。今を大事に、これからを生きよう。

 何か研究が終わり、スッキリしたせいか自分でも変わってきているのがわかる。何がと言われればよくわからないが、気持ちが楽になってきている。たぶん余裕が出てきたのだろう。少しずつではあるが現実を見ていこう。そう思い始めていた。


 それからも赤い幽霊との交流は続いていた。料理や掃除の仕方、他愛もない日常のあったことなどの会話。赤い幽霊はだんだん元気になっていった。しかし成仏をすることはなくただ居続けた。


 『今日も来てくれてありがとう。嬉しい。』


 この「嬉しい」という言葉が何よりも私を勇気づけた。人に頼りにされる、人から認められている、そんな感じがした。私はずっと自分のことで精いっぱいで他人のことなど見ている暇がなかった。だからこの赤い幽霊の素直な言葉に惹かれていく。何とかしてあげて助けたいと思うようになる。しかしこのような関係で本当にこの赤い幽霊は成仏するのかがわからない。


 『少し成仏についても調べてみるか。』


宗教なんてあまり知らない私ではあるが、この赤い幽霊を救いたい一心で図書館に通うことも始めた。半分幽霊のことが知りたいとの思いもある。このことで幽霊に関する研究の足しになるかもしれない。

幽霊を研究するにあたり、幽霊はカメラによく映りやすいことをもとに今の装置の発現に至った。そしてこの赤い幽霊との会話により幽霊はこの世界と平行に進むパラレルワールドが存在するのではないかという推測がたつ。しかしその先、幽霊の成仏のことを考えるとそこは神の世界、天国や地獄といった架空の世界が存在することを意味する。その世界との入り口についてはたぶん幽霊が存在するパラレルワールドが接しているのだろう。今いるこの現実がその神の世界とは繋がってはいなく、幽霊がいるパラレルワールドを介し繋がっていると仮定がたつ。その幽霊がいる世界とのつながりがこの装置。しかしこの装置はあくまでも生体磁気の可視化装置。実際磁素が発見されていないだけでこの装置に映り出されているのが幽霊である証拠はない。しかし私は赤い幽霊と会話をしている。すべては仮定をもとに起こっている現象。証明するすべはない。カメラには確かにうっすら人のような影があちらこちらに映るし、人に対してもはっきりと生体磁気による影が映る。その事実が何かを証明しなくてはまだスッキリすることはない。


『どのような証明の仕方が正しいのかぁ。』


すべては仮定のもとに成り立っている物のため証明が難しい。ただこのカメラに映るものだけが頼り。何かしら赤い幽霊からヒントを得られれば何か閃くかもしれない。赤い幽霊にはこの時すでに情がわいていた。「何とかしてあげたい。」と。おこがましいのはわかっている。こんな私が人を、いや幽霊かもしれないが何かをしてあげるなど。私の方がこの赤い幽霊により助けられているのだから、私の失った過去を取り戻すために。


私の若い頃は本当に闇である、ずっと闇の中を歩いていた。いつも孤独との闘い。どこにいても、人と話していてもずっと孤独を感じていた。そんな中ずっと考えていたのが幽霊のことである。幽霊の存在の証明。そのことばかり考えてモチベーションを保っていた。ずっとそのことばかり考えている中知り合ったのが前の妻である。彼女はこの私の闇を払ってくれた。楽しい日々の連続であり、今までの闇のことなどを忘れさせてくれた。そして子供が出来さらににぎやかになり、私からすっかり闇が拭われていた。しかし私の幽霊に対する想いはあることで思い出してしまった。この装置の製作にあたる原案である。ふと子供とお風呂に入っている時に閃いてきた。それからである、全てが狂い始めたのは。研究に没頭の毎日になり、家族のことは忘れていた。そこから何も見えなくなっていた。ただあるのは研究。時々は家族の相手はしていたが全て上の空であった。心がこもっていない、ただ空っぽの私。気づけばすべてを失っていた。残ったのは娘とこの装置。娘が残ってくれただけでも私の救いである。


「こんにちは。」


「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます。」


「いや、気づけば足を運んでいるのですよね、ここの喫茶店。なぜか落ち着く。私の居場所みたいになっているのかもしれませんね。いつもお邪魔してすいませんね。」


「いえ、お邪魔だなんて。常連さんは神様ですから、営業的にも店員にも。」


「あっ、新堂さんいらっしゃいませ。」


「やぁ、さっちゃん。相変わらず明るくて良いねぇ。さすが看板娘。」


「いつもそう言ってくれてありがとうございます。おかげで頑張れているのですよ、その言葉。」


「そうなんですか、私なんて何もしてませんよ。かえって私の方が楽しませてもらってるよ。」


「いつもので良いですか?」


「ええ、お願いします。」


いつものカウンターの席でくつろぐ。


「ところでさっちゃんの両親ってどんな方?」


「私の両親はいたって普通ですよ、共働きですけど。」


「普通か。」


「そう、普通です。」


「普通が一番良いのかもしれませんね、今の世の中は。それとも今までが異常だったのが気づかなかっただけかもしれないですね。」


「また新堂ワールドが発動してますね。よくわからないけど、逆に今は生きづらいのかもしれないですよ。いろいろ制限されていて、そのくせ情報があふれている。何が正解かわからないのかもしれないですね。」


「正解か。確かに何が良くて何が悪いなんて人それぞれだしね。ただそのことに子供は巻き込んでほしくないなぁって思うようになって。でも昔も同じだった、いろいろな親がいたはずなのに。今はやはり情報があふれているのかもしれないね。」


「おっ、私前はこのワールド全然わからなかったのに少しわかるようになってる。私大人になった?いぇーい。」


おどける彼女に笑顔を見せコーヒーを飲む。世の中がいろいろと変わり過ぎたのか。本当に変わるのが早すぎる。それについていかなきゃって思い、判断が鈍ってくるのかもしれない。


『もっとゆっくり時間が流れてくれれば。』


時間はこの現実世界では皆同じく進む。しかしその流れの中にある情報は昔に比べればかなり多くなっているのかもしれない。そのため時間が早く感じるのかもしれない。時間の概念についてもよく妻と話していたことがあった。妻はただ聞いているだけであったが、時たま鋭い意見が出てきて私をびっくりさせていた。この喫茶店ではそんな訳の分からない話を良くしていた。その話をしだすと誰もわからない。だから「新堂ワールド」。話を聞いていたのは妻だけであり、意見を言えるだけきちんと理解していた。今思えば私は彼女の話を聞いていたのだろうか。私だけの世界に入りびたり、私だけが話していた。


『妻はなぜ私に手を差し伸べたのだろう。彼女は楽しかったのだろうか。』


あらためて自分の不甲斐なさを実感していく。


その後も赤い幽霊とは定期的に話をするようになっていた。基本私はその幽霊の話を聞くだけ。そして時々アドバイスをする。まるで妻が私にしてくれたみたいに。私はその幽霊とかかわることで何かを取り戻している感じがしてきた。それが何かはわからない、しかしものすごく懐かしい感じ。


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