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SPELL 6

鈴の音が響く静かな街並みに、ジェクサーの声だけが異質だった。

息を切らし肩を微かに上下させている。

私のために、と期待してしまう自分が嫌だった。

リン、リン、リン。鈴が鳴る。


「なぜ泣いている」


リン、リン、リン。少女は踊る。

一歩進み出るジェクサーに比例し、私の足は一歩下がる。

それが気にくわないのだろう。ジェクサーは眉根を寄せた。

私の顔から腕に抱えるバッグを見ると、一瞬にして眉根だけではなく、鼻先にまで皺を寄せる。

怖くて腕に力を込めた。


「どこへ行く」


首を振る。


「どこへ行くと、聞いている!」


―――怒らないで!

口を開けないまま頭を振った。答えるわけ、ないでしょ。

怒声が響いても、民衆は舞台から視線を外さない。

時が止まったようだ。この世界には、私と彼と、そして彼女しか存在しない。

星が輝いている。月が…、私たちを見つめている。

見守る様に、しかし傍観者のような月の視線。

ああ、この世界には、私と彼と彼女、そして月が居る。


邪魔者は消え失せよう。

それは太陽が沈むように決まったこと。

そしてまるで月が消えるように自然と。

耳に届く鈴の音が彼女の存在を私に伝える。

優しく聞き心地の良い鈴の音は、まるでここに彼女が居るように思わせた。


何も答えようとしない私に痺れを切らしたのか、ずんずんとジェクサーは歩み寄る。

彼の鋭い視線は、私を捕らえて逃がさない。

息さえも出来なくなるほど、それは力強かった。


『…っ、来ないで』


誰かに足を掴まれたかのように、ジェクサーの足はぴたりと止まる。

逃れようと上半身を捻ってみるも、足の束縛は強固だった。


「くっ、何だこれは」


突然重石のように動かなくなった自分の足を睨みつける。

視線が外れ、私はやっと生きた心地がした。

ジェクサーの視線を感じる。熱い、身を焦がしてしまいそうなほど熱い視線を。

頑なに顔を背けたまま、私は口を開く。


「黙って立ち去る気はなかったんだ。でも、なかなか言い出せなくて」


陳腐な言い訳がつらつらと口から滑りだす。

分かってる、ああ分かっているさ。貴方はこんな言葉じゃ騙されない。


「落ち着いたら手紙を送るよ」


この場から逃れるための御託がこぼれ落ちる。

手紙なんて出したくない。未練が残るだけじゃないか。

返事が来ては一喜一憂し、内容が怖いと見ずに捨てるに違いない。


「シン」

「さよなら」


言葉をさえぎる。胸一杯に息を吸い、深く息を吐いた。

彼の顔を見て、笑ってさよならを。

舞が終わったのか喧騒が徐々に戻る。

私はそれを背に歩きだした。

背後で声がする。しかし興奮した民衆の声にかき消されていった。


――――良いんだ、これで。


もう涙なんて流さない。今この瞬間、新しい私になった。

見上げた月が優しく笑っている気がした。





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