SPELL 3
二階の自室から見える街並みは、夜の力も相俟って神秘的な雰囲気を醸し出していた。
女神祭は刻一刻と迫っている。
街中は色とりどりの花やランプで飾られ賑わいを増していた。
飾りのランプや街灯が花を照らし、ぼんやりと儚げに光る光景はとても美しい。
微かに匂う花の香りが体を包み込む。
窓辺に腰掛け私はそれをじっと見ていた。
――――もう…、だめなのかも知れない。
ジェクサーを突き放したあの日から時折、彼の瞳が獰猛な獣のように鋭くなるときがある。
それは日を追うごとに増していき、私はそれに見つめられると動けなくなる。
百獣の王のライオンに睨まれた哀れな子ネズミ。
まさにそんな感じだ…。
そんな瞳で彼は私の心の中を見透かそうとする。
体を丸め必死に守る秘密を、彼はいとも簡単に引き出そうとするのだ。
それが怖くて怖くて、仕方がない…。
私の胸に眠る大きな秘密。
これは私が生きるためには守り続けるしかないのだ。
胸に手を合わせ、服を握りしめた。
ふと見つめた先にあった鏡には平凡な顔の女が映っている。
日中ピリピリした空気を放つ、中性的な店番ではない。
どこか頼りなさ気で、悲しそうに瞳を揺らす一人の女。
寝間着に包まれた身体は昼夜と違い、女性らしい丸みを帯びたラインを現していた。
どこからどう見ても、女である。
シン改め本名、心。
私は歴とした女で、そして異世界者でもあった。
そしてジェクサーが探す、異世界の女神の正体でもある。
胸に浮かぶ奇妙な痣。
向こうの世界に居たときには無かったもの。
これを見られてはいけない。
本当の私を知られてはいけない。
だから僕になるのだ。
――――――私を守るため、私は僕になる。
その為なら街を捨てよう。
この想いだって、この店に置いてどこかへ行こう。
そう…、逃げてやる。
微かな冷気に身体を震わせ、静かにベッドへ潜り込む。
願わくば、彼が私を見つけませんよう…。
短いですね。ごめんなさい。