絶海の孤島殺人事件 ヘアピン3
僕と霧雨警部が駆けつけた頃には既に全員3号館の木村さんの遺体の前に集まっていた。現場検証を始める。木村さんは何かに殴られたのだろう。頭から血を流して死んでいる。既に凶器は海に処分されている可能性を考えた方が良いだろう。部屋で気になるものはDVDレコーダーだ。電源が入った痕跡がある。遺体のすぐ側の手元には3×1というダイイングメッセージがある。何を意味しているんだ?考え込む僕のところに霧雨警部が来て耳打ちをした。
『扉木くん。俺は同一犯による反抗だと思うのだが、どうだ?』
『その線だと思います。一人目の佐藤さんが毒殺、二人目の木村さんの殴打による出血多量により死亡。殺人事件の確信に変わりました。』
『犯人は誰だと思う?』
『まだ犯人の証拠不十分なので答えません。』
怪しいのは田中さんだけど、どうやってこの殺害を実行したのかわからない上に、3×1の暗号も解けていないし、DVDレコーダーは不審な点が多い。この謎を解かないとあの人を犯人だと証明することはできない。
全員の意識が朦朧として頭を抱える中、鈴木翔さんが騒ぐ。
『あいつが犯人じゃなかったのか!?じゃあ、お前か?田中!2号館で一緒に居たのに何も知らないのか?』
『私は何も知らない!朝起きたら、いつの間にか木村さんが居なくて気づいたらこの有り様だ!』
『お、お兄ちゃんやめよう!』
『ちっ』
梨乃さんが翔さんを静止して事なきを得た。しかし、あの人は本当に元気だ。第一発見者の佐々木さんや石川さんはもう喋る気力も無いようだ。霧雨警部が全員固まって居るように念を押して、解散した。それにしても、なぜ2号館で寝泊まりした木村さんが3号館で亡くなっているのかは疑問だ。木村さんは誰かに呼び出された?血の量から見ても殺害現場は3号館と見て間違いない。全員のアリバイも特に目立っておかしい所は無かった。隈無くDVDレコーダーを調べると中身が出てきた。タイトルは『松戸の彩りと香り』再生してみると花や風景が映された。女性のナレーションも入っている。この謎、少しだけわかったかもしれない。すると霧雨警部が話しかけてきた。
『3×1の暗号が解けたぞ!』
『わかったんですか?』
『ああ!3×1=3だ!つまり!午前3時に殺されたってことだな。』
『…違うと思います。』
僕は呆れた顔で返した。
『ありゃ…違うか。』
普通に掛け算するのでは無いのかもしれない。×の意味を考えた。×と×は似ている。もしかしたらこれは犯人の位置を指すのでは無いか?1号館と3号館にある所が×。その間に居た人が犯人ということになる。犯人はあの人か。もう僕と霧雨警部以外誰もいないけど、次の事件が起きる未然に防がなくては行けない。
『次の事件を止めないと!』
『犯人がわかったのか!?』
『説明は後です!』
その足でみんなを探す。佐々木さんと石川さんが2号館にいた。
『田中さん達はどこですか?』
『さっき3人とも外に行ったわ。』
外へ出て霧雨警部と手分けして探す。田中さんは海岸の崖に居た。
『おや?どうしたんですか?警部さん。あやかちゃん。』
『あなたに用があります。鈴木兄妹はどこですか?』
『さぁ?』
『さぁってとぼけているのか!』
『おじさん落ち着いて。』
そう言って、海を見ると人影が見える。女の人、鈴木梨乃さんが溺死していた。
『な…』
『お前が梨乃さんを殺したのか!?』
『ちょっと面倒だったので。梨乃さんと翔さんには沈んで貰いました。』
『絶海の孤島に包まれた全ての殺人事件…全てあなたが仕組んだことですよね?犯人の田中一郎さん』
『おやおや、どうしてそう思うのですか?全ての殺人事件な私だと決めつけるには早いのでは?』
『謎は全て解けました。もっと真相に早く気づきたかったです。』
『…そうですか。ではお聞かせ願いましょう』
『まず、佐藤さんの毒殺についてです。他の人には予め毒処理を行ったふぐを用意して、佐藤さんにだけはふぐの毒処理をしていないものを与えて、20分程経って毒が回って倒れました。2人目の木村さんは夜中に3号館に呼び出して、殺害したようですね。DVDレコーダーで再生した音で呼び出した人物が居ると思わせて、背後から彼を遅い撲殺したというところでしょうか。手の位置にあったダイイングメッセージの3×1。あれは木村さんが最後の力を振り絞って自分の血で書いたものでしょう。暗号は×を意味していて、3号館と1号館の間のホテル、2号館にいる人物が犯人だと言うことです。何食わぬ顔して2号館に戻った。その後は、3号館の人に第一発見者になってもらい、あなたは恰も関係ないように装ったんです。』
『ははは。お嬢ちゃん見事だ。言い逃れできないな。』
『き、貴様!』
『認めましたか。梨乃さんと翔さんは邪魔だから消したんですか?』
『そうだ。昨日も今朝も翔は私を疑っていた。だから梨乃を突き落としたのさ。梨乃が居なくなれば、捜査ごっこなんてできなくなるからな。運良く、翔がその場を見てくれて、私を睨みながら梨乃を助けると言って飛び込んだよ』
『酷い。梨乃さんはここの景色を気に入っていた。それを利用して殺害するなんて!動機は一体何だったんですか?』
『そんなものないよ。この孤島で人が苦しむ顔が見たかった。』
『こいつ!扉木くん後ろに下がるんだ。』
『はい!』
『ま、君たちもすぐにあの世行きさ!殺してやるぜ!!』
『おじさん!』
『おお、任せておけ!』
霧雨警部は得意の剣道の構えで田中を返り討ちにした。呆気なく取り押さえた。
『くそがっ!このメスガキィ!!』
『田中さん。あなたの誤算は僕を侮ったことと霧雨警部がいたことです。』
『ぐっ!!!こんな小さなメスガキ探偵と警察がいるなんて聞いてねぇ!!!』
その後、霧雨警部が帰ってこないことを心配した警視庁本部が応援に来てくれて無事に船で助けられた。結局、鈴木梨乃さんを助けることはできなかった。鈴木翔さんの遺体は行方不明のままだ。死亡者三人。行方不明者一人。何とも後味の悪い事件になってしまった。探偵としてもっと実力があれば、ここまで被害者が出ることもなかったかもしれない。
『扉木くん自分を責めるな。今回、君がいなかったら間違いなく解決できない事件だった。』
『霧雨警部…ありがとうございます。』
『今日もロリ探偵大活躍だったな。』
『幼女扱いしないで下さい!』
霧雨警部なりの労りなのだろうか。気分はちょっぴりだけど晴れたよ。こうして絶海の孤島殺人事件は幕を閉じた。後に天使の金字塔と呼ばれる扉木あやかにとって、特に苦い事件の一つだ。
-------------絶海の孤島殺人事件--------------完