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天使の金字塔  作者: 中須ゆうtive
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絶海の孤島殺人事件 ヘアピン2

『ダメだ。生きていない。』


霧雨警部は首を横に振り、こちらを向いた。佐藤さんは既に息をしていない。周りの方々は全員絶句して声が出ない。顔を青くしている。このままじゃいけない。僕は吐き気を抑えて声を振り絞る。


『誰も動かないで。犯人が近くにいるかもしれません。』


『なんだって!?』

『佐藤さんが…殺された?うわあああああ!!』

『こ、殺される!!』

『あ、あ』

『やーーーーーーー!!』


大人たちはパニックだ。当然、冷静で居られるわけが無い。こんな殺人現場に遭遇して心を平静を保てるのは警察である霧雨警部だけだ。(かろ)うじて僕は吐き気だけで済んでいる。


『落ち着け!落ち着くんだ!下手に動く方が危険だ!』


霧雨警部が全員を静止している。それでも、鈴木梨乃さんはパニックだ。兄の翔さんが妹の梨乃さんをぎゅっと強く抱き締めている。誰もが皆狼狽(みなうろた)えている中、僕は少しづつ気持ちを落ち着かせる。佐藤さんの死体の方に目を向けると、それはうつ伏せになっていた。


『霧雨警部…!』

『扉木くんもう大丈夫なのか?』

『大丈夫じゃないけど、どうにか立ってます。』

『扉木くん、無理はしないでくれよ。』

『はい。』

『俺の見立てだと、これはふぐ毒による毒殺事故だと思うんだが、どう思う?』

『これだけでは、検証してみないとまだ何とも言えません。死因はふぐ毒の可能性が高いように思えます。しかし、不自然ですよ。部屋とかじゃなくて、こんなに人目のつく場所で、わざわざ食事中に殺害?事件だとしたら、どんな人物…?』


霧雨警部と僕の言葉に、それぞれが驚き口を開く。


『警部に頼られているなんて、この子一体何者なの?』

『ひょっとすると噂の女子小学生探偵じゃないですか?』

『時計塔殺人事件を解決した女の子!?』

『海ノ鳥島のリゾートツアーに警察と探偵がいるとかどんな状況と確率だよ。いや、でも、あの冷静さ。そうとしか思えないわ。』


『わああああ!!!』

急に木村さんが奇声をあげる。ビクッと振り返ると木村さんが外に向かって走っていた。


『木村さんそっちは危ないぞ!』

『あ、あいつが犯人か!?』

『追いかけよう!』

全員で木村さんを走って追いかける。木村さんは港に向かって走っているようだ。


『そ、そうだ!こんな物騒な島出でやる!フェリーは!?行きで乗ってきたフェリーは!?どこなんだ!?』


木村さんは港でフェリーを探している。一番足の速い鈴木翔さんが追いつき、声をかける。


『木村!お前、俺様たちを置いて1人で逃げようってのか!?』

『見…見ろ!』

『な…!?』


なんと、フェリーが全て海に流されていた。僕が近づいてみると、フェリーを繋いでいたと思われるロープは全て鋭利なもので切られた形跡がある。


『や、やられた!』

『フェリーが流されていく…』

『バカな』

『ここは圏外。携帯電話の電波も通じません。』


少なくとも、これは誰かが仕組んだ罠。きっとあれは事故じゃない。こんな巧妙な手口を使うということは事件だ。田中さんの言う通り、携帯の電波も通じない。完全にこの島に閉じ込められた。今は暗い外にいる方がよっぽど危険だ。木村さんを落ち着かせて、全員で2号館の入口へ戻る。鈴木翔さんはずっと苛立(いらだ)っている。


『木村!逃げようとするとは怪しいな?お前が犯人なんだろう?』

『違う!逃げようとしたのは悪いが、気が動転しただけだ!』

『はっ、どうだか。』

『お兄ちゃんその人を責めるのはやめにしよう。そばにいて。』

『おう。梨乃(りの)は俺様が守る。』


一悶着(ひともんちゃく)あったが、梨乃さんが機転を利かせてくれて助かった。確かに木村さんの行動は怪しいが、本当に犯人なのだろうか。フェリーが流されていることを知っていて欺くために全力疾走したとしたもあんなに緊迫(きんぱく)した表情で逃げ出すのは演技としては出来すぎている。


『霧雨警部、状況を整理しましょう。』

『ああ。食事をしていたら、佐藤さんが苦しみ出して毒殺された。パニックになって島を脱出しようと試みた木村さんだが、フェリーが全て流されていて逃げることができなかった。携帯の電波は通じない。これで全部だな。』

『はい。ところで田中さん、今日料理を作ったのは誰なんですか?』

『わ、私です。』


『お前が犯人だったのか?』

翔さんが詰め寄る。それを止めるように梨乃さんと佐々木さんが立ちはだかって(なだ)める。

『お兄ちゃん寄そうよ』

『短絡的思考は危険な目に遭うだけよ。梨乃ちゃんの事を見てなさい。』

『あんだって?』

『やめて!桜さんの言う通りよ。』


いざこざの間に僕は田中さんに問いかける。


『田中さんが料理を作ったんですか。ふぐ毒は抜きましたか?』

『毒なら抜きました。2年ぬか漬けにしたので間違いありません。それに、あなた方もふぐを食べたでしょう?何ともなかったはずです!』

『でも俺と扉木くんはまだ食べていない。この中でふぐを食べた人はいるか!?』


石川さんが手を挙げた。佐藤さんが倒れた直後から全くと言っていいほど喋っていない人だ。顔も誰よりも青ざめてガタガタ震えていた。木村さんを追いかけている時も情緒不安定になっている様子が伺えた。

『あ、あたしは少しだけ食べました。何ともなかったです。で、でも、怖いです。もし毒が入っていたら。』


『む…!しかし、少量でも食べて大丈夫ということはふぐ毒は抜けていたのか…?』

『う〜ん…』


僕は考え込んだ。これはどういうことだろう。ふぐ毒じゃないなら、なぜ佐藤さんは命を落としたのだろう。全員この場にいた。殺害時刻のアリバイは聞くまでもない。わからない。霧雨警部がゆっくり全員に声をかけた。


『こう考えていても(らち)が明かない。今は迎えのフェリーが来るまでこの島に居よう。何、作戦はある。今ここには8人いる。2人1組になって次の日まで過ごすんだ。そうすれば身の安全は守られるし、犯人も下手な行動はできないだろう。』

『警部さん!それで犯人と一緒になったらどうするんですか?』

『おいおい。犯人が木村か田中だった場合、殺されちまうぜ!?』

『そうよ。その方が危険じゃない!』

『大丈夫だ。組み合わせは考えてある。1号館に俺と扉木くん。2号館1階に鈴木兄妹。2号館2階階に田中さんと木村さん。3号館に佐々木さんと石川さんでどうだ?』

『それ、いいな。俺は梨乃を守る。』

『お兄ちゃんと一緒で良かった…』

『木村さん、よろしくお願いします。一緒にこの波を乗り切りましょう。』

『よろしく。だが本当に忘れられない思い出になっちまったよ。夜眠れないかもな。』

『美羽ちゃんよろしくね!』

『佐々木さん…よろしくお願いします、』

『硬いって!桜で良いわよ。』

『桜…ちゃん。』


無事にペア分けは決まった。僕は霧雨警部と一緒だ。その晩は各々(おのおの)決められた部屋で寝た。翌朝、とんでもないことが起こった。


『『きゃー!!!!!』』


3号館で木村さんが無惨にも殺害されていた。声の主、第一発見者は佐々木さんと石川さんだ。

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