幸せの旅館殺人事件 ヘアピン3
『これは他殺です』
僕が口を開く。張り詰めた空気だ。
そして現場検証をして、事象を整理する。
途中で面白いことに気づいた。
小野さんと宮本さんが殺された部屋には小さい白い紙が数枚落ちていたが、それはトイレットペーパーだった。
他にも細かい残骸が見つかった。
壊れた懐中電灯は完全に電灯部が割れている。
当たりには雪が積もっている。
工保ちゃんが言った言葉
『この雪シャリシャリする!』
シャリシャリ…?それって
津田さんが前夜言った音だ。
『ありがとう工保ちゃん!』
『どうしたの?扉木ちゃん?』
僕は飛び出し、4階へ向かった。
『わかった!わかったよ!』
霧雨警部に頼み、全員を集めた。
『集まったということは…』
『刑事さん、犯人わかったの?』
『座敷わらしとか?』
『扉木くん!頼んだ!』
『謎は全て解けました。』
工保ちゃんと雪雲ちゃんも口を揃えて言う。
『扉木ちゃん凄い!』
僕は淡々と説明を始める。
『この事件のトリックは巧妙なものでした。犯人は人間です。座敷わらしなわけがありません。まず、小野さんと宮本さんが殺された仕掛けですが、1階から4階まで繋がっている非常階段がありました。これで外からの犯行でも直ぐに移動できます。顔や身体に雪がついていたのは外で殺されたからです。外で撲殺したあと、トイレットペーパーで首を絞めたのでしょう。撲殺であれば血が出ます。あの部屋に血まみれで2人がいたのはこれで説明できます。非常階段では懐中電灯でも使い、照らして歩けるようにした。あとは非常階段で時間を短縮しつつ、遺体を運ぶだけです。』
『そ、そうだったのか。』
『非常階段ね。ここまではわかったけど、次の日の志田さんは?』
『あれは犯人が驚くものを見せた。例えばトイレットペーパーぐるぐる巻きの座敷わらしとか。』
『え?座敷わらし結局いるの?』
『本物はいないよ。工保ちゃんや雪雲ちゃんは大きな座敷わらしの着ぐるみが目の前に現れたらどうする?』
『逃げる』
『叫ぶ』
『そうだね!けれど人間は本当に怖い時は声が出ない。その心理を利用して、志田さんは逃げるだけになったんだ。そこで飛び出して逃げたところを先回りトイレットペーパーで首を絞めて殺害。あとは木に括り付けるだけ。昨夜に使った懐中電灯も証拠隠滅できて一石二鳥。』
『えー?でも人間にそんなことできる!?』
『お嬢ちゃん良く分からないよ…』
『1人だけそれができる人間がいます。』
『まさか…』
『支配人の山埼さんです。』
『なっ!なぜ俺が』
『誰よりも土地勘のあること。支配人なので、他の人から怪しまれず犯行を強行できる。手先も器用みたいだし。』
『ど、動機は?』
『揉めたんですね。小野さん、宮本さん、志田さんと。』
『くっ…そこまでわかっていたのか。』
『あら?認めるんですね。』
『そこまでわかってちゃお手上げだ。かつて揉めたのさ。あいつら三人と俺はこの旅館の共同経営者だった。だが、方向性の違いから全員決裂した。そこで争い、勝った俺がこの旅館、幸せの旅館を引き取った。人の憎しみは何年経っても早々に晴れるものが無い。最初は幸せを目指したはずだったんだ。だが、俺は殺すしか無かったんだ。』
『座敷わらしが可哀想。』
『…その通りだな。』
『山埼善さん。あなたを殺害容疑で逮捕する。』
霧雨警部は手錠をかける。他の警察の人が山埼さんをパトカーで連れて行った。
その後、霧雨警部の車で帰ることになった。
僕、工保ちゃん、雪雲ちゃんの3人を乗せてくれた。
『とんでもない旅行になっちゃったね。』
『ねー!でもあやかちゃんの推理凄かった!』
『ありがとう!…うん?あやかちゃん?』
『これからはあやかちゃんって呼ばせてもらうね。』
『えー!』
『何照れてるの!あやかちゃん!』
『工保ちゃん、雪雲ちゃん…』
扉木あやかの顔は茹でダコのように真っ赤だ。照れた顔を両手で隠す。でも、指の隙間から目をそっと開く。3人の女子小学生は笑いあった。外には小さな女の子が見ているかのような気がした。幸せってこういうことなんだ。




