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第八章

チサのことは、ジーノに任すしかない。サーラたちは先を進んだ。ノアの泣き声だけが、しばらく続いた。






血だらけで倒れるチサに、無情な一撃が下される寸前、ジーノは間に合った。


「キサマらー!!!!!」


渾身の光魔法は、魔物らを消滅させる威力だった。


力尽き、事切れたプー。


しかし、チサは重症だが生きている。


ジーノはチサを抱きしめ、光魔法で治療した。たとえ魔力が尽きてもやる。破天荒でひねくれ屋のジーノが、ただひとり愛した人。魔力が尽きることはいのちを削る、でも構わない。


チサを亡くしては、生きてる意味がない。


「チサ、チサ………、死ぬな、死なないでくれ………。」


心臓の鼓動が弱い。


頼む、動いてくれ。






ついに、トバとロウが、ガガドのいる場所にたどり着いた。数が多いと当てにしていた手下たちは、全て消え去った。果たして、ガガドに如何なる力が残っているのか?


ガガドは、不敵な笑みを浮かべていた。


「よくここまで来たな、トバ。聞いてやるぞ、お前の話しを。」


「ガガド、もうやめてくれないか。お前の仲間は皆、傷つき倒れたぞ。お前は、魔王などではないのだ。」


「では、お前は何だ、トバ。力がありながら、人間に隠れてコソコソ生きている。それの、何が楽しい。」


「力は、愛するものを守って、生活できるために使えればいい。争いなど、なければないに越したことはない。」


トバとガガドは、話し合っても決して折り合えない。考え方が違いすぎた。


「残念だな、トバ。お前は守れてない。お前の愛する女は、俺の仲間が始末したぞ。」


中途半端な報告を受け、ガガドはもうすぐ、チサの亡き骸が届くと思っていた。それは、トバの逆鱗に触れるものだ。


「父さん!そいつを赦さないで!チサさんの仇をとってよ!!!」


ノアの叫びは、トバの心の枷を外した。脳裏に浮かぶのは、優しいチサの顔。絶対に殺されてはいけなかった人。


殺気を放出しながら、トバの姿が変わった。その体は巨大に膨れ、全身の毛が逆立ち、鋭い牙や爪が伸びた本来の魔物の姿に。


一方、ガガドも姿を変えた。姿だけでは、恐ろしい2体の魔物に差はなかった。しかし、その実力は雲泥の差だったようだ。トバが一吠えすると、圧倒的なエネルギーの塊がガガドを襲い、体を弾き飛ばした。


その戦いはほんの数秒のこと。


残ったのは、ガガドの抜け殻。放っておいても、生き延びれないやつだった。






「ジーノ、おいジーノ、返事してくれ!」


サーラの必死の呼びかけに、魔力が尽きる寸前にジーノが応答した。チサは生きていて治療が必要だと知らされ、一同は即座に動いた。


ロウがコダに連絡し、治療魔法が得意な魔法使いを送り込んでくれた。ジーノも介抱が必要なレベル、一緒に病院に運ばれた。


「生きてる………?」


「うん、ジーノさんが間に合ったって。父さん、良かったね。チサさんは死んでないよ。」


元の姿に戻ったトバ、しかし、元に戻らないものがあると悟っていた。


危険をおかして、ノアをここまで連れて来たのは意味がある。トバの本当の姿を見せて、その後ノアはどうするか、自分で判断するため。


恐ろしくはなかった。そんな間柄ではない。でも、確かな違いを感じた。人間と魔物、ずっと一緒に生きるには、双方に無理があった。


「そうか、良かった。後は、あの人たちに任せれるな。…………ならばノア、ここでお別れにしよう。」


ノアには、トバの心が理解できた。何もできない子どもだった自分を、愛して育ててくれた感謝は消えない。でも、潮時だった。


トバにしてみれば、ノアはもう12才であり、まだ12才だった。もう小さな子どもではない、トバがいなくても生きていける。しかし、まだ12才なので、人間社会のことや様々なことをこれから学べる。


「わた……った………父さん。今まで、本当にありがとう………。寂しい、けど……、ノアは大丈夫だよ………。」


「そうだ、ノアは大丈夫だ。父さんも、大丈夫だよ。サーラさん、ノアを守ってくれてありがとう。貴方は信頼できます、ノアをよろしくお願いします。」


サーラは、この男に相応しくない、傷だらけだった。その代わり、ノアに傷ひとつつけさせなかった。完全に守り通した。これからも守っていける。


そして、別れた。


涙は流れたが、後悔はしない。






あっという間に1ヶ月が過ぎ、チサは随分回復した。と言うのも、医者の治療はもちろんだが、治療魔法の得意な魔法使いが大勢駆けつけ、術をかけてくれた。


助けられたいのちだ。親兄弟も家も財産も何もない、コンプレックスを抱えていたが、そんなものより、生きてることが重要だと思えるようになった。


ジーノは、毎日のようにやって来る。そして危ない、動くな、もうやめろと相変わらずうるさい。 


でもチサは、わかっている。意識はぼんやりしてたが、抱きしめて、命がけで助けてくれたのはジーノだ。目を開けて、ありがとう、大丈夫だよとささやくと、熱い口づけをされた。涙が流れていた。


「何でそんなに、口うるさいんですか!チサさんが好きなくせに!!」


ノアに言われて、何も言い返せず、ジーノは口をパクパクさせていた。


その後チサは、身体のこともあり、諜報部に復帰は許されず魔法学校の事務職員になった。ノアが入学しており、寮で生活するようになったので、いろいろ関われて便利だった。ノアを養子にという申し出は多かったが、やはりノアにとって、親と呼べるのはトバだけなので、全て断ってしまった。だから、チサにはやたらくっついてくる。自然、ジーノとノアがやり合うことが増えていった。






ノアと、キリル・アミア夫妻の出会いは、チサの病院でのこと。


アミアには、無二の親友が一時危篤だったことと、姪に当たるノアの出現と、何が何だか分からない事態だったが、チサの容態が落ち着き、ノアと話しをする中で、お互いに大切にする間柄になった。


キリルには、ユキノ似のノアの存在は複雑かと思いきや、似ていても別人のこと、冷静に受け入れた。しかし、息子のサーラのノアへの思いに気づいて、にやりと笑った。ノアはしばらく学生なので、年上男子として、紳士的であるように勧めている。






黄色い花が咲くように、プーのお墓の周りに種を蒔いた。


「ありがとうね、ノア。」


サーラに連れられて、チサとジーノの元に駆けつけたが、ノアには何もすることができず、ただ、小さなプーの亡き骸を抱き上げて連れ帰った。


ノアにとっても、プーは大切な仲間だった。いろいろ助けられた。


「学校事務職員なら、当分、使い魔はいらないな。プー程の子には、出会えないだろうし………。」


「うん、プーは最高だった。いなくなって悲しい。でも、チサさんが生きてるから、本当に良かった。父さんもチサさんが生きてるなら、自分も生きていく力になるだろうし。」


傷と寂しさを抱えて、それでも懸命に生きていく。ノアとチサの関係は、これからも続いて行くだろう。だから。


「ジーノとも、仲良くしてね。」


「努力は、します。」

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