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第三章

「あの、お姉さんは、ノアちゃんの知り合いですか?」


路地裏の小さなお菓子屋さんをのぞいてたら、2人の少女に声をかけられた。そうだよ、遠い親戚だけどと答えた。細かい質問されても、分からない言い訳ができる。


少女たちは、ぱっと明るい表情になった。


「あの、私たちノアちゃんからこの本借りてて。ノアちゃんが急に引っ越したので、返せなくて困ってたんです。」


少女向きの物語が書かれた本を、預かってしまった。彼女たちの話しでは、黒髪の少女ノアちゃんは、港から船に乗って行ったらしい。


調べて見ると、国内だけでなく、外国行きの船が多数出ている。ダメ元で、それらしい子が乗ってないか聞いて見たら、やはり分からないと言われた。


しかし、子連れの客なら、観光地であるヌコルル島行きによく乗っていると聞かされた。


「うーん、ちょっと遠いな。次の休みにするか………。」






その、ヌコルル島。


明るい海と太陽が魅力の観光地、結構人の出入りがあり、他所者でも仕事が探しやすかった。


トバという男が役場にやって来て、漁師の仕事ができないかと言うので、網元を紹介してやると、すぐ採用された。無口だが力が強く、よく働く。


トバにはひとり娘がいるが、身体が弱く、学校には行けないと言う。父の仕事中はひとりで留守番、大人しく本を読んで過ごしている。


娘の名は、ノア。


「ノア、今、帰ったぞ。」


「父さん、おかえり!」


トバのこの時の顔を、仕事仲間が見たらびっくりするだろう。無口でろくに笑わないやつなのに、娘の前では別人、ニコニコと愛しくてたまらないという顔だ。


しかし2人は、血のつながった親子ではない。いやそもそも、トバは人間でなかった。ヒューマンタイプと呼ばれる、人型になれる魔物だった。


元の異形の姿では誰をも恐れさせ、鋭い牙や爪で、人も獣も魔物でさえも易易と切り裂くことができる。しかも魔力もあり、強力な結界を張ることができる。


しかしトバは、魔物の中では異端と言える存在だった。彼はなんと、優し過ぎたのだ。


優しさ故、何も殺せない。


トバと同種の魔物に、ガガドというやつがいて、力をつけて仲間を集め、我こそは魔王であると言いたがっている。そのためトバを配下に置きたいが、トバは逃げるばかりだった。


そんなある日、森で、小さいが凶暴な魔物に襲われていたノアを見つけた。


助けて、保護した。ノアはこの世界のことばも喋れず、泣いてばかりいたが、優しいトバに助けられやがて心を開いていく。どんどん成長し、ことばも覚え、愛してくれるトバを父と慕った。


父娘の絆を深めながら、ガガドからは逃げ続ける日々。


相手が魔物でも人間でも、探られれば逃げるしかない。しかしカフルには、しばらく滞在できたので、トバもノアも親しい人間関係がいくらか築けた。特にノアは、本を貸し借りするような友だちができ、楽しそうだったので残念だ。


残念と言えば………、カフル脱出時、慌てていたので、ノアが大事にしまっていたランドセルを忘れて来てしまった。宝物も入っていたので、しばらく落ち込んでいた。


常に逃亡生活、しかも、ノアの容貌が他とは違うので、学校に行ったことはない。勉強は、もっぱら本を読んでしてきた。この世界に引き込まれる人間は、大なり小なり魔力がある。ノアにももちろんあって、魔法を学ぶのも本からだ。


彼らが今、ヌコルル島なんて所にいるのは、逃亡生活の長い彼らの知恵だった。仕事があるのはもちろんだが、この島には潮の匂い魚の匂いがある上、人の出入りが多いので、追手を撹乱しやすい。また、派手な観光地は、逃亡者がいるイメージではないだろうということ。


果たして、まだ若いトモがそのイメージに騙されていた。故に、ロウたちの捜索は困難な状況だが、気づくのはまだ先の話し。


ノアは、いつまでも落ち込んでおらず、勉強に精を出していた。明るい太陽の下を歩きたい、そのために、変身魔法を覚えたい。父の働く船にも、乗ってみたかった。


トバの持ち帰った魚を夕飯にした。2人だけだが幸せだ。この幸せを、失いたくなかった。






「休暇ですか?」


「はい、できましたら、3日欲しいんですが。」


資料整理は大方終わった。気のせいか、させる仕事を探されている感じだ。今なら休暇が取りやすそうだ。案の定、快く許可が出た。


ヌコルル島への最短ルートを探す。空間移動魔法は、昔より上達したので、休みながらなら、かなり長距離も行ける。


「よし、行こう。」


女ひとりでなんだけど、バカンスを兼ねてということで行こう。魔法の腕もあるので、危険は感じない。魚料理が美味しいと聞くので楽しみだ。


カフルまで到着し、船に乗った。周りには家族やカップル、でも仕事なのか単身者も結構いる。更に、チサに声をかけてくる者もいて、中々上手くあしらえない。


ヌコルル島に着いた時は、結構疲れた。宿を探し、活動は明日にしようと決めた。


翌朝。


「あー、よく寝た。さてと、始めますか。」


チサは、小さいバードタイプの使い魔、プーを呼び出した。好物の蜂蜜をあげて、頭をなでる。


「良い子ね。ちょっと私のために、働いてくれる?」


カフルで少女たちから預かった本を開く。ちょっとやそっとではない、読み込まれた本。あの少女たちも読んだだろうが、この本の主の匂いは消えないだろう。プーに匂いを覚えさせた。


「この島だけでいいからね。無理しないでいいからね。行っておいで!」


そもそも、ここにいる確証はない。全て、ダメ元でやっている。


今日は観光もする気でいる。いくつか観光情報もあるし、せっかく休暇取って来てるんだから、まあ楽しもう。


日焼けし過ぎたら、コダに呆れられそう。大きなつば付きの帽子を被り、出発。魚が見れる公園、南国フルーツの果樹園と、魚料理の美味しいレストランに行った。


途中、友人のアミアに宛てて、ハガキを出した。


『アミア、元気?ベイビーたちは育ってる?私は女ひとりで南国だー!!』


昼からはゆっくり、商店街を巡ってお土産探し。これというものを見つけては購入し、空間ボックスにポンポン入れて行く。


3時にカフェでお茶してると、プーの気配、呼んでやると飛んできた。興奮して、鼻息が荒い。


「えっ、見つけた?!マジ………!?」


ダメ元、大当たり。ロウが聞けば頭を抱えただろう。でもチサは、そんなこと知らない。


慌てて飲み干し、会計して飛び出した。プーは早く早くと言わんばかり、チサの周りをクルクル飛ぶ。


「OK、行こう。案内よろしく!」

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