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第一章

魔法と不思議が息づく世界の、リードニス王国は、王と、王を支える重臣が民思いの賢い政治をし、能力の高い魔法使いたちがそれを助けることで、人々の幸せが守られる国。


現国王が即位以前、まだ王子の時代に設立した魔法学校は、その国の在り方を支える教育機関である。


国防、治安、医療、経済………、各分野に秀でた優秀な魔法使いを輩出し、国の繁栄の原動力となりうる。


「どうも、お邪魔しますよ。」


王直属の魔法使いロウは、長らく諜報を担ってきたがそろそろ50才という年齢、今のうちに後継者を育てるつもりで最近よく学校に来ている。素質のある人材を、確保しなくてはならないからだ。


「それはわかるけど、ロウ、もう少し人相良くできない?子どもたちが、怖がってるんだけど。」


学長はコダという、破格の実力で王に仕えてきたが、今は教育に専念している、ロウにとっては師匠である女性。


「すみませんね、悪人面で。でもね、俺の面構え位でビビらないやつがほしいんですよ。」


そうして、現に今2人を訓練中だ。20才のカイルは行動派で、17才のトモは分析が得意、2人とも親より年上のロウを特にビビらず、かと言って馴れ馴れしくもない、やりやすいやつらだ。


そんなロウの元には、全国各地にいる協力者から、日々様々な情報が送られて来る。その情報をキャッチし、分類し、これはと言うものを届けてくれるチサといく女性もいる。18才のチサは、もちろん実際の調査もできる優秀な子だ。


「後1~2人いい人材がいたら、推薦してください。お願いしますよ。」


「そうですね、心しときます。その代わり、出来たらチサをこっちにくれないかしら。」


「勘弁してください。彼女はうちに必要なんで。」


ある日、そのチサから上がって来た情報は、ロウが注目せざるを得ないものだった。






国防のために、大切なケースは二つ。


一つ目は対人間というか国。大国間の力関係は均衡を保ってるが、恒久的ではない。有益な情報はあるに越したことはない。


二つ目は対魔物。友好的なものや無害なのもいるが、危険で、人間に害を与えるものがいる。その中で最も厄介なのは、ヒューマンタイプ(HT)と呼ばれるもの。HTは一見人間に見える、もしくは人間に化ける。そして人間の中に入り込み、害をなすのである。被害を食い止めるには、やはり情報が必要である。


「非常にレアケースだと思いますが、多くの目撃証言もあります。そのHTが人間の少女を連れているというのは、確実かと。」


「ふーん、それは由々しき問題だな。迷子か誘拐か…………。親兄弟は、たまったもんじゃないだろう。」


「ええ、しかも、その少女の容貌についての情報もありまして。こちらですが。」


「うん?………………!?」


年齢は10~12才で小柄、そして、黒い髪と黒い瞳。


リードニス王国において、大半の人々は白い肌に金髪か栗色の髪、瞳は青や緑だ。黒い髪や瞳など、ロウには2人しか浮かばない。異世界からやって来たマドカとユキノ、しかしユキノはすでに亡くなっており、マドカは結婚して子どもは3人、年齢は40を超えている。


その少女は、全く別の、異世界から来た存在なのか。


ロウはカイルとトモに、この件について調査させることにした。


「情報元は、港町カフルで雑貨屋を営む女性だ。まずは彼女の元に行け。その後は任せる。」


2人にとっては初めて任されたケースになるので、知らず、張り切った。そして約2週間後、彼らは問題の核心に迫っていた。


「ロウさん、すみません。一緒に来て欲しいんですが。」


3人で向かったのは、カフルの中でも貧しい人々が暮らす場所、そのうちの一軒の家だった。住人がいたらしいが、慌てて立ち退かれたようだ。鍋や食器、衣服に靴など、少量だが残留物が転々としている。


「俺たちが嗅ぎまわってるのが、察知されたようで…………、すみません。」


カイルが頭を下げる。トモも同じく、そして持ってきたものが。


「ただひとつ、かなり重要な手がかりを残してまして………、これなんですが。」


戸棚の上にあったという、赤い、変わった形の………。


「バッグか、これは?」


「例の少女のものではないかと。」


中には数冊の本とノート、折りたたんだ紙、ハンカチなど。本には、見たことのない文字が並んでいる。バッグ自身にも名前みたいなものが書かれているが、全て解読できない。


異世界の文字。


これを判別できるのは。


「アイナさんの許可を取らんと駄目だな。」


マドカに、頼むしかない。


カイルやトモにとっては、生まれる前のことだが、今でも伝説として語り継がれてる最強魔王討伐の話し、そのヒロインである女性のことは、絵画でくらいしか見たことがないだろう。


夫であるシンシアティ公は、妻が悪利用されるのを懸念し、公に活動させていない。しかし今回だけは、ご足労願うしかない。


しかもバッグの中には、更に重要なものが隠されていた。


七輝石の、美しいペンダント。ロウには見覚えがあった。師匠であるコダが長年身に着け、元の世界に帰るユキノに渡したもの。2年後そのペンダントを目印に、こちらの世界から道がつけられ、向かったキリルがユキノを連れ帰ったのだが、その時、取り落として来たという。


要するに、本来、向こうの世界にある筈のものだった。


(こいつが、少女を、こちらに引き込んだのか?)


そして出会ったのが、人間ではなく魔物だった…………。


辻褄が合いそうだ。


更にトモは、ペンダントと一緒にしまわれていたという、2枚の写真を示した。


1枚目には、若い父親らしき人物と幼い少女。屈託なく笑う顔、髪が黒いのが確認できる。この少女が成長し、今こちらにいるのか。


そして2枚目は。


ロウは今日一番の驚きで見た。


ユキノだった。あの日、キリルに連れ帰られた時の、艶やかな民族衣装姿。コダに呼ばれ、ロウは自分の目で見ていたので間違いない。


「カイル、トモ。この件は、完全に極秘で扱え。シンシアティ公には俺が連絡する、お前たちは誰にも、特に、チサに漏らしてはいけない。チサは、あの子とつながっているからな…………。」

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