プロローグ
その綺麗な女性の写真は、祖母の部屋に飾ってあったので、乃愛はよく眺めていた。20才の祝いで振り袖姿、微笑みを浮かべているがどこか寂しげだ。
「その子は雪乃って言うんや。あんたのお父ちゃんの姉さんやから、あんたの伯母さんやで。」
そう言う祖母も寂しそうだ。理由は、雪乃が今いないからだ。写真を撮った後、何処かへ消えたという。キラリと輝くペンダントがひとつ残されていたが、何故消えたのかは一切不明。
「異世界とか何とか、意味わからんことばっかりや。」
父にも話しを聞いた。世話好きで優しい姉だったが、ある時急に消えて、一度は帰って来たらしい。その時の説明が意味不明で、異世界で冒険して来たとか、時間差で消えていた従妹を置いて来たとか、皆を混乱させた。特に祖父が怒り、世間体を気にして遠くに嫁入りさせようとし、また消えられたという。
「でもな、時々、お父ちゃんの夢に出て来てくれるんや。こないだも、そや、乃愛とケンカした日や。夢で、阿呆ぅ言うて叱られたわ。」
乃愛には母がいない。父と離婚し、まだ小さかった乃愛を置いて出て行ったのだ。だから自分の肩を持ってくれるというその人が、母のようで親しみが湧いた。聞けば、顔や雰囲気も乃愛は雪乃によく似ているらしい。
振り袖姿のその写真を、父に頼んでプリントしてもらった。同時に父娘の写真も頼み、2枚ともパスケースに入れた。雪乃が残していったというペンダントも、祖母からもらった。パスケースと一緒に、入学に備えて買ってもらったランドセルの、ファスナーがついたポケットをしまう。
大切な、宝物として。