10月3日
ラブコメの練習がしたくて書き始めました。
初めに言っておくと、この小説は変です。
「好きです。付き合ってください」
10月3日15時42分。
日本列島から秋雨前線が消え去り、移動性高気圧が迫るつつある秋の暮れ時。
清き学び舎の裏では、まだ夕焼け色になれない青色のモミジたちを樹から旅立たせんと荒ぶる風に煽られて、今日もまた足場のない舞踏会がひらかれる。
そんな中で、一人の少女が想いを寄せる男にその身に抱えていた恋心を告白した。
「……」
男は口を閉じたまま、静かに呼吸する。
無視をしているわけではなければ、典型的な難聴系主人公というわけでもない。
驚愕がなければ羞恥もなく、嫌悪も悲嘆も歓喜もない。赤くなった顔を隠すためにほぼ直角に腰を折り曲げ今にもクラウチングスタートで走りだしてしまいそうな少女とは対照的に、ただただ無感動な瞳でその姿を見つめる。
恋は盲目とはよく言ったもので、端的に言うと男はかなりの屑である。部活では後輩を言いなりにし、クラスメイトのノートを何度も無断で借り入れ、さらには目の前にいる告白少女の友人をセフレにしている。男が告白に驚いていないのはセフレからの情報によるものだ。
男は考える。『どうすれば楽しくなるか』と。
男にとって重要なのは如何に今を楽しむかだ。そこに善悪の価値観は必要ない。
そうして10秒ほどたっぷり思考した末に男が導き出した答えは──
──聞いていなかった。
いや、聞こえていなかったという方が正しい。
そんなどうでもいい答えなど、聞く必要はないのだ。
校舎の影に隠れ、少女渾身の告白を盗み聞きしていた男──ロクにとっては。本当に、心の底から、どうでもいいことだった。
そんなこもよりずっと、ロクは衝撃を受けていた。少女の告白を聞いた瞬間、背筋に電流が走り、視界が真っ白になり、脳がパチパチと音をあげているような感覚に陥った。
そうして自らも思うようになった。
──俺も告白されたい。
これは一人の男が告白されるために奮闘する物語である。
……なに?じゃあ今までのくだりやあの少女らはどうなるのかって?彼女らの出番は今後一切ないものと思ってもらって構わない。
ここからは告白されたいロクとその周囲にまつわる話だ。