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2 侍従

お読みくださりありがとうございます!

俺が入学してから少し経った頃、殿下の侍従の一人が急遽辞めることになり、俺が指名され、学業の傍ら殿下に側仕えとして侍ることになってしまった。


さすがに授業があるので、一人でこなすわけではないが、他の侍従は殿下の扱いに手を焼き、業務に支障が出ているらしい。


反抗期なのか、大人の言うことには特に反発するようで、俺が言う方がまだマシだがらと、殿下係を押し付けられた。


勘弁してくれ…。


俺は侍従の立場になったことで、これまでのようにアルマディア嬢や殿下と一緒に机を並べることはなかったが、それでも同じ部屋にいることに変わりはない。


意識して一歩引いた態度を心掛け、冷静であろうとした。

俺はもう学友ではないのだから。

元々対等の立場ではなく、臣下としての一線を越えてはならないんだ。

そう自分を律し、俺は育ちかけた感情は見ないふりをした。



離れていたのは半年程。

婚約者となっても、二人は相変わらずの様子だった。


殿下は険悪な態度(最早意地になってるんだろう)で、アルマディア嬢は目には目をの精神でやり込めている。


しかし殿下はともかく、アルマディア嬢は立場が変わったことで心境の変化があったのか、多少態度を軟化させたようだった。

嫌味で返すのではなく、殿下の足りない部分を言い諭すような言葉がみられるようになった。


立場が変われば見えてくる視点も変わる。―――いずれ伴侶となる殿下へ、彼女が愛情を向ける日が来るんだろうか…。



ほんの数ヶ月会わなかっただけなのに、アルマディア嬢は益々美しくなっているように感じられた。

まだあどけない面差しだが、理知的な瞳は大人びていて、そのアンバランスさが危うい色香を放っていた。


殿下の暴言や冷たい態度にもめげず、凛と接する姿はとても年下とは思えない。


反面、フレデリク殿下はアルマディア嬢を邪険に扱っては、正論で反撃されて癇癪を度々起こす始末で、歳よりも幼稚な言動を俺がフォローする日々だった。


「くそっ!なんであんな女が僕の婚約者なんだ!少しくらい頭が良いだけなくせに!僕が次の国王なんだぞ!」


苛ただしげにクッションを壁に投げつけ、殿下は不満を爆発させていた。

なんでこんな奴の婚約者なのか、アルマディア嬢の方こそ言いたい言葉だと思いますよ。


口にはさすがに出して言えないので、心の中でつっこむ。


落ちたクッションを拾い、「殿下、アルマディア嬢は、その知識で国王となる殿下を助ける存在です。あまり無下になさいませんよう」と苦言を弄するも、まあ案の定素直に頷くわけもなく。


「うるさい!もっと素直で優しい女はごまんといるだろう!よりによってあんな奴!」


せっかく拾ったクッションを叩き落とされた。この野郎。


素直で優しい女の子じゃ、殿下を御しきれないだろ。

自分を甘やかしてくれる存在ばかり贔屓にし、国王が好き勝手したら国が傾く。

横で手綱を握っていてもらわないと。

こいつが最高権力を持っていて、ストッパー役が無能なんて目も当てられない。


「殿下は、叔父上様と政権争いをお望みですか」


アルマディア嬢の父君は、フレデリク殿下にとって叔父に当たる。

現国王陛下の弟君で、第二王位継承者だ。


正直なところ、フレデリク殿下より余程王位を継ぐに相応しい、文武に優れた方だと俺も思うし、貴族間の認識もそうだろう。

人望も厚く機知に富み、公正な人柄だと聞く。領地も豊かで隆盛を誇っており、筆頭公爵として議会での発言力も絶大だ。


「叔父上は、今の話には関係ないだろっ」

「アルマディア嬢と婚約を結んだことで、バルドゥール公爵閣下は殿下の後見となられたのですよ。他の―――例えばリンデル侯爵令嬢を正妃として娶ったら、どうなると思いますか?」


殿下と顔見知りで、たおやかで儚げな印象のご令嬢を上げてみる。

まあ殿下より五歳年上で、すでに婚約者がいるので、殿下のお相手になることはまずないが。


「あれなら悪くないな。大人しそうだし、あれこれ口煩くないだろう」

「リンデル嬢は、確かに素直な性質に見えますね。でも、言い換えれば従順な性格だと言うことです。従順な娘は、父親の意向に従いやすいんですよ」

「それがなんだ?良いことはではないのか?」

「リンデル侯爵は開戦派ですよ。アムネル王国との」

「なっ!」


アムネル王国は、殿下の祖母―――王太后様の生国だ。

今でこそ友好国だが、百年前は敵国だった。

その領地の一部は、昔リンデル侯爵領であったが、戦争で奪われ国境が引かれて、現在もアムネル王国の領土だ。


リンデル侯爵は、先祖の土地を取り返したいと考えているんだろう。

良質な鉱山を有し、肥沃な大地は国にとっても魅力的だが、必ず勝てるという見込みはない。


「殿下はアムネル王国と戦争をしたいですか?」

「……戦争は、いやだ」

「それを聞いて安心致しました。つまり、殿下の伴侶となる女性の、その実家の発言力も上がるということです。殿下のお相手ともなれば、自ずと高位貴族となり、権力を有しているんです。国王陛下と言えど、議会の意見は無視出来ません」


この辺のことは、改めて俺が説明せずとも、すでに習っているはずなんだがな。

具体的に、どの貴族がどんな思想なのかは、さすがにまだ把握出来ていなくても仕方ないとは思う。

たぶんアルマディア嬢は、その辺りのことは当然のように熟知してそうだが。


少し話が横に逸れたせいか、ついでに殿下の意識も逸れて、アルマディア嬢への怒りは収まったようだ。


やれやれと、俺はこっそりため息をついた。

この時の会話でフレデリクが思ったこと↓


(高位貴族だから親もうるさいのか。なら低位貴族の娘なら、親の力も強くないし問題ないんだな!)


フィリップに心の声が聞こえてたら「なんでそうなる!」って突っ込んだことでしょう。

斜め上の思考をするフレデリク。

ここで男爵令嬢を選ぶ下地が出来ました。


もちろんフィリップは、そんな意図で言ったわけではありません。


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