嘘つきの王様
二場 文芸部室 二月十五日 火曜日
ゆうな、上手から登場。日めくりカレンダーを破る。
自分がいつも座っている席を机ごと上手に向けて、下手に背を向けて座る。何か書き始める。
まこと、上手から登場。ゆうなをちらりと見るが、何も言わずに自分のいつもの席に着く。何か書き始める。
暗転
明転 二月十六日 水曜日
まこと、上手から登場。日めくりカレンダーを破る。
自分がいつも座っている席を机ごと下手に向けて、上手に背を向けて座る。何か書き始める。
まこと、上手から登場。ゆうなをちらりと見るが、何も言わずに昨日上手に向けたままの席につく。何か書き始める。
暗転
明転 二月十七日 木曜日
日めくりカレンダーはすでに十七日になっている。まこととゆうな、背中を向けあったまま何か書いている。
ゆうな、いきなり顔を上げる。
ゆうな 出来た! (読む)「 天使に聞いてみた。『この噴チョコレートは何ですか?』 天使は答えた。『これは寿命を表しているのです』『誰のですか?』『もちろん、あなたのですよ』『ずいぶん短いような気がしますが』『これは、あなたの罪を表しているのです』『そんな、覚えがない!』『自分が覚えていることだけが、自分がしたことだとは思わないほうがいい』」
まこと やかましい!
ゆうな え? せっかくわたしの名作を聞かせてあげてるのに。
まこと どこが名作なの! 筆力がないからファンタジーに逃げてるだけでしょ!
ゆうな 小説なんて、どれもこれも、結局ウソだからいいんだよ。
まこと たとえウソでも、作者が信じられるようなウソじゃなきゃダメなんだよ!
ゆうな なるほど。わたしたちの中でいちばん筆力があって、入賞経験もあるまことは、自分がついたウソも信じられるんだ。さすがだねぇ、嘘つきの王様!
まこと わたしは女だ!
あかり、上手から登場。
ゆうな 嘘つきの女王、ライアークイーン!
まこと 何その、頭悪そうな英語は。正しくは、クイーン・オブ・ザ・ライアーでしょ!
あかり ふたりとも、まだやってたの?
ゆうな まことが執念深いから!
まこと 執念深いのはそっちでしょ!
あかり 喧嘩するんだったら来なきゃいいのに。
まこと・ゆうな それじゃ、逃げたことになるでしょ!
あかり ああそう。だったら二人とも勝手にして! わたしもう知らないからね! いるだけで喘息が出そうな所にいたくない!
まこと・ゆうな あかり!
あかり、上手に退場。
ゆうな、上手に追いかけていくが、もどってきて、何も言わずに荷物をまとめて上手に退場。
まこと、荷物をまとめて上手に退場。
暗転しない。ライトがついたまま。
第三場 二月十八日 金曜日
まことが上手から登場。日めくりカレンダーを破る。続いて、ゆうな、あかりが登場。
まこと 昨日、部室の電気がつけっぱなしで、鍵が開けっ放しだったんだって。わたしが衿名に怒られた! 昨日ゆうなが、戸締りしていくって言ってたのに!
ゆうな は? わたしは…。
あかり そんなことより、さっさと帰らないと、電車が止まるよ。それでなくてもわたしは、こういう低気圧が来ている日は、喘息の発作が出やすいんだ。
まこと まったく、大雪って…。ここ掛川だよ! そんなの聞いたことがない!
あかり 掛川市にとっての大雪ってことだと思うよ。雪なんか降らない地方だからこそ簡単に電車が止まるんじゃないかな。
ゆうな 私は徒歩だから関係ないけどね。
あかり 早く帰らなきゃならないのに、なんで二人とも部室に来たの?
まこと・ゆうな 来ないと、逃げたことになるでしょ!
あかり まだやってたの…。
まこと ゆうなが執念深いから…。
ゆうな まことが執念深いから!
あかり もう、いい加減にしようよ…。わたしはこういう日は喘息の発作が出やすいんだよ。目の前でケンカされるとストレスが高まる。家でも両親がケンカばっかりしてるのに。学校でもやられたら…。
まこと あのねえ、あかり。ストレスなんて誰にでもあるんだよ。あかりだけが特別じゃないんだ。
あかり それはそうだろうけど。
まこと だいたいなんで今日は部室に来たの? 早く帰りたいんでしょ。
あかり それはそうなんだけど、一応部長だし、衿名先生から、昨日部室が開けっ放しだったから見ておくように言われたんだ。
まこと あかり、部長だったよね。たしか、「部長の自分が毎日戸締りを確認する」って言ってたでしょ。なんでわたしが怒られるの?
あかり えっ…。
まこと たしか昨日言ってたでしょ。自分が毎日戸締りするって!
あかり そんなこと言ったかな…。
まこと まったく、どいつもこいつも無責任な発言ばっかりして!
あかり うん…。言ったかもしれない。ごめんなさい。
まこと 「かもしれない」じゃなくて、言ったんだよ!
あかり うん。言ったと思う。これから気をつけるよ。
ゆうな あんた、いい加減にしなさいよ!
まこと なに!
まこととゆうな、しばらくにらみ合っている。あかり、上手に行き、二人に隠れてスマホを取り出して操作し、ジャケットのポケットに入れる。
まこと いい加減にしてほしいのはこっちだよ! まったく、どいつもこいつも、自分が言ったことに責任を持つってことをしていない。
あかり上手に一端退場。すぐに登場。
あかり ドアが開かないよ。
ゆうな え?