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王都に来た!

「通るぞー! 出発!」


 数時間かけて、撤去作業にようやく目途がついた。

 まだ河原みたいに大小の石が散らばっているものの、ようやく馬車が1台通れそうな隙間のできた道を、商人たちは馬車を押すようにして通過させていった。


 アルケミストたちの馬車も、商人たちが左右からがっちり組み付いて、押し出されるようにして瓦礫地帯を抜け、普段の山道へと進んだ。


 ごとん、ごとん。ごとととととん!

 山を降りる馬車は、想像よりもずっと激しく揺れた。

 ジェットコースター並みだ。

 俺はどれだけ揺れたところでバランスを崩さないのだが、ララは薬草籠にしがみついて、いっぱいいっぱいになっていた。


 知らない大人たちに囲まれているから、緊張しているのが見て取れる。


 俺たちと乗り合わせている冒険者たちは、いずれも揺れなんてへっちゃらなタイプだった。


 俺が山からララを連れて戻ってくると、飛び跳ねて喜んでいたアルケミスト。


 スキンヘッドでいかつい顔の冒険者リーダー、そして勝気なお姉さん風の剣士。


 あとの5人も、名うての冒険者たちだ。


 ララの緊張をほぐすために、俺はリーダーとなんとか話をしてみた。


「パーティの構成的に、回復係がアルケミスト一人ですね」


「わしらは、もともと魔法学園が素材を収集するために私設したパーティだからな。アルケミストが安全に回復薬を作ることができる範囲でしか活動してはならない規則で、それ以外の回復係が基本いらんのだ」


「へぇー、それだと、かなり活動範囲が狭くなりません?」


「ああ、正直狭い。Aランクなのに、小僧のお守りをするせいで、王都周辺でくすぶっているのはわしらぐらいだな」


「そういえばこの前、ドラゴンと戦ったって聞きましたけど」


「人間は時にストレスを発散する必要があるのだ」


「うっ……だめだぁ!」


 俺がリーダーと話していると、アルケミストは何か叫んだ。

 アルケミストは、ララの薬草籠からあふれてくる薬草を使って、ポーションの合成を試みている。


『自動採集』のスキルを持っているララは、馬車で移動している間も、その辺の薬草を勝手にゲットしてしまうため、薬草籠には次から次へと新しい薬草が入ってきた。


「食べても食べても出てくる」


 ララは、歩かなくても自動で出てくる薬草をもしゃもしゃ食べているのだが、彼女一人では消費がとても追いつかず、あまった薬草が馬車の荷台にあふれかえってしまっていた。


 見かねたアルケミストが、合成アイテムの素材にして、数を減らそうとしているのである。

 初級ランクのポーションなら、魔素を測定する補材がなくても、合成成功率は9割をこえるそうだ。補材なしで挑戦していた。


「リーダー! ぼくのイベントリがポーションで満杯になっちゃいました! これ以上は、薬草を処理しきれません!」


「持ちきれない薬草なんて捨てていけ! 荷台の後ろから投げ捨てればいいじゃないか!」


「できません!」


「なにぃ!?」


 リーダーに反発したアルケミストは、リーダーの鋭い眼光を怖がるみたいに、目をぎゅっとつぶったまま、びしっと敬礼をした。


「じ、じぶんは、薬草やポーションを手に入れられずに死んでしまった先輩の無念を常に考えて素材収集クエストをしています! せっかく摘み取った薬草を捨てるなどということは、魔法学園を代表してこのぼくが許しません!」


「よし、言ったなアルケミスト! ならばその薬草、ぜんぶお前が喰え!」


「かしこまりましたっ!」


 アルケミストは、作ったポーションをぐい飲みしては、薬草をかき集めてポーションに変える、を繰り返した。

 普通に食べた方が効率いい気もするが、胃の細いアルケミストにはポーションの方がいいのかもしれない。


「アルケミスト、半分よこせ」


 一人ではとても大変そうだったので、俺も薬草をもぐもぐかじって手助けしてやった。

 こういう時は助けあいだ。


 3人で頭をつき合わせて薬草をもぐもぐ、ポーションをぐびぐびしていると、ララはニコニコして、すっかり緊張がほぐれたみたいだった。


「馬車って楽しいですね」


「だろ」


 3人で食べているおかげで、薬草はみるみる減っていった。

 けれど、このペースでずっと食べ続けなければならない、となると、王都まで俺たちの胃が持つか心配である。


「そうだ、馬にも食べさせよう」


 俺はふと妙案を思いついて、馬車を引っ張っている馬の口元に、薬草をひとつかみ持って行った。


「ほら、お食べ」


 馬という生き物の食事量はすさまじい。

 つい先ほどまで岩場で立ち往生していたから、さぞ腹も減っているだろう。


 がりっごりっという、何か硬い木の実を噛んだような音をさせながら、馬は薬草を飲み込んでいった。

 馬の歯は丈夫で、硬い物でも平気ですりつぶして食べてしまうのだ。

 俺は気にせずほいほい食べさせ続けた。


「ぶるるっ! ぶるるるっ!」


 薬草を食べた馬が、とつぜん興奮しだした。

 全身から湯気をくゆらせ、馬車をひく勢いがどんどん加速してゆき、他の馬車を大きく引き離してしまった。

 どうやら薬草の効果か、パワーアップしてしまったみたいだ。


 がたごと、がたごと、と荷台の揺れは激しさをまし、風景の流れる速度もぐんぐん速くなっていった。

 馬車の移動速度があがると、『薬草摘み(グリーナー)』が自動採集する薬草の量もさらに勢いを増し、ぶわぶわと薬草籠から薬草があふれ出してきた。


「加速したぞ!」


「前が見えない!」


 アルケミストのポーション精製スピードが追い付かなくなり、薬草がふたたび荷台にあふれかえった。

 冒険者たちも薬草に埋もれ、冒険者リーダーはスキンヘッドが薬草からかろうじて見える程度に埋もれてしまった。


「薬草が減らない!」


「アルケミスト、がんばれ!」


「ぜんぜん間に合っておらんじゃないか! ええい、ワシも食う!」


 リーダーは、両手で薬草をつかんでは口に放り込み、がつがつ食い始めた。

 それを見習って、他の冒険者も目前に迫った薬草の壁を手づかみし、がつがつ食い始めた。


 アルケミストも薬草をがつがつ食い、冒険者たちもがつがつ食い、馬も食い、馬車は一転、フードファイトの様相を呈し始めた。


 もしゃもしゃ口を動かしていたララは、うずたかく積もる薬草の向こうを見上げて、なにか発見したらしい、のんびりと声をあげた。


「あ、きれいなお城」


 見上げると、白石を積み上げた城門が、青空にたかく伸びあがっていた。

 ハスラ王都を守る、世界有数の美しい城門である。

 ぽーっと見とれてそっちを向いたままになっているララに、俺は教えてあげた。


「ようこそ、ララ。ここが王都だ」


 * * * * * * * * * *


 城門から突入するや否や、俺たちの馬車は大量の薬草をばらまきながら、大通りを走り抜けた。


 馬車一杯になってしまった薬草を、誰ともいわず道路に投げ放った。

 朝日にキラキラかがやく緑色の薬草を、人々は歓声をあげて拾い集めていた。


 貧民街の人々も、老人も、子供も、我も我もと貴重な最高薬草を拾い集めていた。

 謎のマハラジャと化した俺たちを、みんな大喜びで迎えてくれる。

 アルケミストもテンションがあがったのか、イベントリを埋め尽くしていたポーションを次々と投げていた。


 さすがに石造りの街中までくると、自動採集で薬草が増えることはなくなった。

 ララの薬草籠は徐々に空っぽに近づいてゆき、馬車を埋め尽くしていた薬草もどこかにいってしまった。

 俺たちは重たくなった腹を押さえながら、馬車から降りた。


「もう薬草見たくない」


 誰が言ったかまでははっきりしないが、みんなその通りだと思った。

 騎士団の馬屋にウマをつないで、あちこちに薬草の残っている馬車を見習い兵に任せ、そこで冒険者のリーダーたちと俺は分かれた。


「騎士団への報告は俺たちがやっておく。ライダー、お前はララに街を案内してやってくれ」


「どうしてライダーなんですかぁ!」


「お前に任せられると思ったか、アルケミスト!」


 とにかく、俺たちの誰かが崖崩れのことを騎士団に報告しなくてはならなかった。

 アルケミストは魔法学園の責任者として顔をだす必要があるのだろうけど、俺も騎士団から依頼を受けているので、遊んでいる訳にはいかなかった。


「すいません、俺も騎士団に報告をしたいんですが」


「ライダー、いくらなんでも、迷子の女の子を後ろに連れたまま任務完了ですなんて報告するのはプロの仕事じゃない。『薬草摘み』の力を借りたのはお前だ、最後まできっちり面倒を見ろ」


 なるほど、リーダーの言う事は、的を射ている。

 ただでさえ、騎士団は崖崩れの処理で大変になるのに、迷子の女の子の世話みたいな仕事までさせてしまうことになる。

 まずは、俺に出来る範囲で、仕事をきっちり片付けておかなければ。

 ララの身の安全を確保するのは、最優先だろう。


「お姫様をお送りするのもライダーの仕事よ? がんばって」


 女剣士は、片目をぱちん、とつぶった。

 どうやら俺は信頼されているらしかった。

 お姫様を送迎する仕事なんてやったことがないんだけどな。

 悔しがるアルケミストを連れて、冒険者パーティは騎士団の砦へと行ってしまった。

 俺とララだけが残された。


「行こうか、ララ」


「はい、ライダー」


 俺はララを連れて、街中をてくてく歩いた。

 普段、移動式テントで生活している彼女は、石でできた建物を珍しそうに見ていた。

 ただの交差点、橋、二階建ての建物、何を見ても目をキラキラ輝かせている。


「うわぁ」


「珍しいか、ララ」


「はい。これ、全部人が住んでるんですね」


「まあ、全部が全部じゃないんだけどな」


 王都は、人口6万人ほどの大きな街だった。

 交通の要所となる大通りの左右に石造りの建物が並んで、どこから湧いてくるのか人口の倍くらいの人でごった返している。

 俺は、とりあえず一番ララの役に立ちそうな建物を紹介して歩いた。


「さっきの砦が騎士団の詰め所だ。団長はいい人だから、なにか困った事があったら相談するといい」


「団長ですね? 覚えました」


「大通りの東には商店街、西には俺たちの冒険者ギルドがある。あの高い尖塔は王都のどこにいても見えるから、道に迷ったらあれを目印にするんだ」


「はい。あ」


 ララは、とつぜん地べたにしゃがみこんで、石畳の隙間から生えてきた白い花をいじっていた。

 街中でよく見る雑草で、魔素はほとんど含まれていない。

 けれども、どうやらそれも薬草の一種らしかった。


「薬草なのか?」


「はい、ハスラオウレン。これ、胃薬になるのよ?」


「そうか。後でみんなに持っていこうな」


 ララは、都会に来ても相変わらずマイペースで、道草ばかり食っていた。

 先を急がなければならないはずなのに、俺はすっかり彼女のペースに慣れてしまっていた。

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