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パーティーを組む

「かわいいねぇ」


「うん、かわいい」


「かわいい、かわいい」


 とつぜん俺たちをパーティに引き入れたお姉さんたちは、ララのことをだいぶん気に入ったみたいだった。

 頭をなでて、小さな動物みたいに可愛がっている。


 薬草で助けられたライオンはもとより、薬草が大好物なウサギ、薬草の品質をいまだに疑ってすんすんにおいを嗅いでいるサンショウウオも、なんだかんだで認めてはいるらしい。


 みんなララの薬草籠を中心にまとわりついて、なごんでしまっていた。

 ララも獣耳や尻尾をもふもふ撫でて、にこにこしている。

 友達ができたのはいいことだけど、なんだか不安だった。

 あんまり素行のよさそうな女の子たちには見えないし、ララの事が心配になってしまう。


「そだそだ」


 ライオンは、獣っぽい手で山の奥を指さして、言った。


「私ら、いま狩りに向かってるんだけど、一緒に来てみる?」


「何を狩るの?」


「Wi-Fiバーンの討伐」


「Aランク討伐対象じゃないか」


「ふぇぇ」


 と、ララは変な声をもらした。

 いきなりAランクの討伐に向かう、というので、驚いている。

 ララは意外とランクのことがしっかり分かっているらしい、いいことだ。


 Wi-Fiバーンは、空を飛ぶドラゴンだ。

 体長5メートル、体重100キロ。

 ドラゴンの中では小ぶりだが、アンテナみたいな角から特殊な電波を出して通信を行い、仲間同士で連携した狩りを行う。

 群れをなすと、とても厄介だそうだ。


「なんでAランクなんか狙ってるの?」


「砂漠の町がワイファイバーンの被害にあってるんだよ」


「なんとかしてーって依頼があったの」


「砂嵐を起こすし、畑も荒らしてるんだって、ひどいと思わない!?」


 ウサギはぷんぷん怒っていた。

 ウサギがいうと、ぜんぶ食べ物がらみの問題に聞こえるけど、じっさいそうらしい。


 Wi-Fiバーンは魔素の消費が激しいため、魔素のわき出るパワースポットを探して世界中を飛び回っているという。


 さらに電波通信で世界中の仲間とその情報を共有していて、SNSでとある魔素の穴場が話題になると、ミーハーな奴らが1日に数十キロもの距離を飛んできて、一か所に大量に集まってしまうという。


 今回、話題になったパワースポットが砂漠のオアシスだったらしく、日に多いときで数百匹も集まり、その周辺にあった町が被害を被ってしまった、ということだった。


 討伐の依頼を受けたライオンたちも、数百匹も群れられるとさすがに手が出せないので、巣に戻っていくところを1匹ずつ討伐しよう、という作戦になったらしい。


 そこではるばる北の山まで追いかけてきたのだ。


「こんな近くに巣があったんだ……けどこの世界で農業をしていく上では、避けては通れない問題だよなぁ」


 薬草をもしゃもしゃ食べているウサギが言った。


「しょうしょう、ララしゃん、のうぎょうは、むしとびょう魔とのたたかい、がいじゅう駆除くらいはできにゃいと」


「なんとなーくいいことを言っているのはわかった」


 たとえドラゴンだろうと、畑を荒らす以上、それは害獣の一種だ。

 畑を作る者を志すのならば、それを荒らすものとの戦いも当然、経験しなくてはならない。

 ララも、同じことを考えたらしい、俺の方をじっと見た。


「討伐したら、カブのおじさん喜ぶかな?」


「少なくとも、安心はできるはずだよ」


「やります」


 むん、とやる気を見せたララ。

 やる気なのはいいけど、危ないから隅っこで見ているだけにしろよ。


 * * * * * * * *


 獣耳メンバーは俺たちを連れ、獣耳をふるふるふるわせながら、どんどん山の奥まで進んでいった。


 先日から、Wi-Fiバーンの巣穴には目星をつけていたらしい。

 先頭をいくのはライオン。

 するどい嗅覚で、風や土のにおいからモンスターの気配を探り当てる。


「近いよー、もうすぐだし」


 ライオンたちは、ララや俺を置いていくような勢いで、どんどん先に進んでいった。

 ララは、さっきからやる気が感じられる。

 堂々と地面を踏みしめながら歩いていた。

 けれども、全体的にすごくのんびりしている。


『薬草摘み(グリーナー)』は、もともと機動力のない職業だし、山道を慌てて進むのは危険なのだ。


「あ、ハスラセンニチソウ!」


 みんなから遅れがちだったララは、さらに珍しい薬草を見つけては、地面にしゃがみこんではせっせと採集をするのだった。


「ララ、置いてかれちゃうぞ」


「ライダーも食べて」


 ハスラセンニチソウをもぐもぐ食べると、薬効で体がぽかぽか温まってきた。

 ステータスを見ると、機動力が微上昇している。

 どうやらスタミナを回復する薬草のようだ。

 ボス戦の前にはもってこいだな。

 同じ薬草を食べたララは、しゃきーん、と元気を取り戻し、いきおいよく立ち上がった。


「みんな早いですね。追いつけるかしら?」


 そうこうしている間にも、獣耳メンバーはさらに先に進んでいて、俺たちは彼女たちの揺れる尻尾を完全に見失ってしまっていた。


 かと思うと、ちょっと山を登った先で、リーダーたちはその辺の岩のにおいをすんすん嗅いでいた。


 ライオンはにおいを嗅いでいる最中に、ぶーっ、と噴き出し、お腹を抱えて笑い転げた。


「うひゃひゃひゃひゃ! 草生える!」


 獣人たちは、かわるがわるその岩のにおいをかいだ。

 ウサギがきゃははは、と笑って、サンショウウオもくすくす笑った。


 ララもにおいを嗅いでみたけれど、なにが面白いのかわからなくて、首をかしげていた。

 においで笑うって、いったいどういうシチュエーションなんだろう。


「この前、私たちがケモノモジを書いたところなんだよ」


「ケモノモジ?」


「においを使った文字、獣たちの文字」


 どうやら、獣がよく使っているマーキングの習性を、獣人たちが独自の文化にまで発展させたものらしい。


 通常のマーキングにつかう自分のにおいだけではなく、獣の血、草、土の三種類の香りの組み合わせで、あいうえおの発音記号をあらわすという。


「誰かが書き込みしていったっぽくてさ、このおっさん、『上位の冒険者は下位の冒険者のためにうんたらかんたらー』とかすっげぇ真面目に説教たれてんのに、書いてる途中でメシ食ったみたいで、においにバナナが混じりはじめて」


獣戦士ベルセルクのおっさんか。ケモノモジなんて使えたのか」


「もー、お腹いたい。というか、この辺でバナナ取れるの?」


「ああ、この先のくぼ地は熱帯になってるから、バナナが生えてるよ」


「おお、そっちまだ通ったことないわ、いこう!」


 獣人は、紙も学校も持たないけれど、旅先のいたるところにある獣人の書き込みによって、色々な知識を学ぶのだそうだ。


 いままで何気なく通りすぎていた風景に、そんな文字が隠されているとは思わなかった。

 だからおっさんはソロパーティでも寂しくないんだな。


 獣耳たちは、ちょっと進んではその辺に書いてあるケモノモジのにおいを嗅いだり、自分たちで新しい書き込みをしたりしているので、けっきょくララとおなじようなペースで進んでいくのだった。


 ララも岩のにおいを嗅いでみていたけれど、人間にはたぶん読めない文字だろう。


「いいなぁ、私もケモノモジ、読んでみたいなぁ」


「そうだな、読めたら冒険がちょっとだけ楽しくなりそうだよな」


獣戦士ベルセルクになったら読めるのかな?」


「目標はひとつにしような、ララ」


 * * * * * * * *


 やがて、俺たちは山をひとつ、ふたつ越え、バナナの木が生い茂るくぼ地へとやってきた。

 ライオンは、きりり、と眉をつりあげ、尻尾をふりふり振って、まじめな顔になった。


「ララちゃん、こっから先はマジ危険だから、珍しい薬草とかみつけても、拾わずにダッシュよ」


「拾わずにダッシュ、ですね」


 まかせとけ、と頷くララ。

 なんだか心配だけど、ララはやるときはやる子だから、大丈夫だろう。


 センニチソウを口にもごもご頬張って、さらに追加分を両手にぎゅっと握って、ダッシュの準備は万端だった。


 くぼ地に降りていくと、バナナの木のそこかしこにぼんやりと光が見える。

 蛍の光のように点滅している光は、バルブーンの尻尾の光だ。


 バルブーンは、雷属性のサルだ。

 顔が真っ赤で、全身が真っ白いふかふかの毛におおわれていて、尻尾の先端がガラスでできた電球のバルブみたいになっている。


 果実が好物で、バナナを食べると、ばちばちっ、とその電球の中でアーク放電して、フィラメントが白熱し、光が強くなったり弱くなったりする。


 どうやら、この光で仲間とコミュニケーションをとるらしいのだが、詳しいことは分かっていない。


「おお、バルブーン……! 体長2メートル、体重80キロ、平地での移動速度は時速30キロと心もとないが、注目すべきはその性能だ!

 罠回避スキルに、運動スキル、加えて簡単な魔法なら真似して使いこなすという安心の知性!

 さらに尻尾の明かりが周囲を照らし、木から木へと飛び移りながら、昼も夜もなく移動し続けることができる!

 森で出会ったら、ぜひ乗ってみたいモンスターの一匹だ!」


「あれが乗り物に見えるんだ……」


 獣耳の女の子たちに軽く引かれていた。


 噂では、バルブーンの群れがひとたび覚醒すると、昼みたいに明るくなるらしいが。

 いまは、みんなランプの明かりが薄暗い。

 微灯、といったところだろうか。


 ライオンは、剣を腰に構え、他のメンバーに言った。


「バルブーンたちは私が引き付けとくしー。

 適当に痛めつけたら逃げるから、みんなはその隙に道を確保しといてねー」


「ライオンさん、ひとりで大丈夫?」


「へーき。じゃあ、あとはよろしく」


 こくん、と頷くメンバーたち。

 これが、このグループのいつもの連携なんだろう。

 けれど、今は俺もこのメンバーの一員なんだ。

 俺は手をあげた。


「俺も引き付け役をやらせてくれ。引っ掻き回すだけだったら俺も得意だ」


「そっか。じゃあライダー、先に行くから、ケガすんなよ?」


 俺はライオンと共に、バナナの森へとわけいった。

 バルブーンは俺たちの気配を機敏に感じ取って、電球の光を最大限に明るくする。


「きーっ! きーっ!」


 びかーっと、光が頭上から降り注いできた。


 辺りが昼のように明るい。

 まぶしすぎて目が明けていられなかった。

 さらに、バルブーンたちはきーきーと鳴き声をあげて、あたりを飛び回っていた。


「ちゅーか、遅すぎー」


 俺がようやく光に目が慣れる頃、ライオンは、樹上まで飛び上がって、バルブーンを次々と切り倒していた。

 強い、強い。本当に強い。


 見てばかりではいられない、俺は騎乗するために、適当な一匹を見繕った。


「よしきた! ラァァァァイド・オーン!」


 俺はようやく木からころげ落ちた一匹を捕まえ、騎乗ライド・オンのスキルを発動した。


 びかぁっ、と光が放たれる。


 がしゃん! と頑丈なハーネスがバルブーンの体に巻き付けられ、背中にリュックサックのようなくらが装着される。


 俺はそれにまたがろうとするが、どうやらこのバルブーンは大けがをしていて、足を引きずっているのが見て取れた。


「ああ、これじゃさすがに走れないよな……ん?」


 ふと、地面を見ると、薬草が一束落ちていた。

 たぶん回復系の薬草だ。

 ララの薬草籠に入っていたのを見たことがある。

 きっと走っているうちに落としていったんだろう。


「よし、これ食え。さあ、元気出せ」


 弱っているバルブーンに、もしゃもしゃとその薬草を食べさせた。


 ララの最高薬草は、モンスターにも効くだろう。

 乗り物が元気になれば、引っ掻き回し役は『騎兵ライダー』の得意分野だ。

 あとはいつも通り、適当に時間を稼げばいい。


 ふと、地面をよく見ると、ララの落とした薬草は、点々、と先の道へと続いている。


 どうやら、走っている間も『自動採集』が発動しつづけるから、ララの薬草籠から薬草があふれて、行く先々にぽとぽと落ちているらしかった。


 ララは、ウサギたちと一緒に、一生懸命ダッシュしている。

 目をつぶっていて、薬草を落としているのにも、まるで気づいていなかった。


 ああ、もったいない、とか、そういう次元の問題ではなかった。

 なんと、ライオンに倒されたバルブーンたちが、地べたを這いずり回って、その薬草を必死でつかみ、もしゃもしゃ、と食べ始めたのだ。


「あ、やば」


 ララの摘む最高薬草は、高濃度の魔素を含んでいる。

 バルブーンたちは目をびかっと光らせ、「ぐもおおお!」と言って立ち上がり、その身長はめきめきと音をたて、2倍くらいに膨らんで見えた。


 どうやら、最高薬草の力で、バルブーンたちは一斉にレベルアップしたらしかった。

 これは大変だ。

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