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9.

 私はアルヴィンの言葉に唖然としていた。

 『ここは、時間が止まっている』――さっき彼が言った言葉を心の中で反復する。

 そんな不思議なことがあるなんて……。


 その時、周りが急に騒々しくなった。


“メリル、さっきの面白かったよ!”

“風がビューンって!!”

“アルヴィン! もう一回やって!!”


 楽し気な声が周囲に響く。

 ――どこから戻って来たのか、さっきアルヴィンの起こした魔法の風に巻き上げられて空に飛んで行った妖精たちがキャッキャと笑い声を立てながら周囲を飛び回っていた。


「あれ……?」


 私は目をこすった。今まで小さな光の塊にしか見えていなかった妖精たちの姿がはっき見える。親指くらいの大きさの小さな子どものような姿をしていて、皆それぞれ違った色や形の花びらでできたような服を着ていた。髪は光でできていて、長い子もいれば短い子もいる。


「あなたたち――こんな姿だったの?」


 思わず呟くと、妖精たちが私の周りを取り囲んだ。


“すごーい、ボクらの姿はっきり見えるようになったんだ!”

“ねえ、誰が一番かわいい?”

“私だよね!”

“ボクだよ!”


「ここは魔力が濃いから、妖精の姿もよりはっきり見えるんだろ」


 アルヴィンはそう言うと、家の方にスタスタと歩きながら、また指をくるっと回して周囲に小さな風の渦巻きをいくつか作った。


“わーい!”


 妖精たちはその渦巻きの中に歓声を上げながら飛び込んでくるくると回り出した。

 私はそのあまりに楽しそうな様子に思わず頬を緩めた。

 そうすると、彼らはぱっと私の周りに戻って来た。


“メリル、笑った?”

“良かった! もう怒ってない?”

“良かった!”


 私はこの子たちに対してどういう反応をしていいかわからず、硬直した。

 私がこんな風に、家を飛び出さなきゃならなくなったのはこの子たちのせいだって思っても、一方では、いつだって私の一番傍にいてくれたのは、またこの子なんだ。


 アルヴィンは振り返ると私に笑いかけた。


「こいつらが君を好きなのは本当だよ。――適当に遊んでやって、うまく付き合えばいい。――こういうことくらいなら、君もすぐにできるようになるだろうから」


 彼はまた竜巻を起こしてやり、妖精たちはその中に飛び込んで楽しそうな笑い声を立てた。


 ***


 石畳の道をレンガの家に向かって歩いて行く。

 周辺には花壇があって、色んな花が咲いていた。

 だんだん近づいて来る家は、2階建てで日当たりの良いデッキもあって、立派な家だった。


「――ここにはあなた一人で住んでいるの?」


 私は首を傾げる。一人暮らしにしては広そうな家だった。


「今は俺とジャック、あと、猫のサニーがいるよ。昔は俺の師匠――“迷いの森の魔女”イブリンが住んでた。彼女の名前を聞いたことはない?」


「イブリン――」


 私が首を傾げながら呟くと、アルヴィンは残念そうに俯いた。


「やっぱり――知らないか」


「ごめんなさい。でも、――あなたの名前と音の響きが似てるのね」


 アルヴィンとイブリン、何となく似たような名前だ。

 

「ああ――、師匠もそんなこと言ってたなぁ」


 アルヴィンはぱっと顔を上げると懐かしそうに呟いた。


「――イブリンさんは、あなたの師匠はもういないの?」


「ああ。亡くなったよ、ずいぶん前に」


 彼は悲しそうに呟くと、家の扉を開けた。キィィィィと木のきしむ音がして、ドアが開く。


「お邪魔します」


 私はその家の中に足を踏み入れた。


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