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8.

 ――妖精が見えるのは『特別』だから――


 アルヴィンのその低い静かな声が告げた言葉がじんわりと全身に響いて、私は思わず嗚咽を漏らすと、目の前にある黒髪の首元に頭を埋めた。


 自分と同じように彼ら《妖精たち》が見える人が目の前にいるという安心感と、それが恐ろしいことや気味悪がられることだけじゃなくて――ただ『特別なこと』だと認められたことで、心に抑えこんでいたものが一気に外へあふれ出すような気がした。


 呼吸を整え、聞き返す。


「――魔法の力?」


「そう。君は練習すれば――強い魔法が使える魔術師になれる」


 薮道やぶみちを進みながらアルヴィンは話を続けた。


「妖精が見える人というのは稀にいるみたいだけど――、その中でも、妖精たちが自分たちの世界へ連れて行きたがる人間のことを――君や、昔の俺みたいな人間を『妖精の愛し子』と呼ぶと、俺の師が言っていた」


「妖精の愛し子――」


「そう。妖精の愛し子は――強い魔力を持っているのに、その使い方に無自覚な人間で――、妖精たちにとっては無限の蜜を持つ花のような存在だと、師匠は言っていた」


 さっきの『昔の俺』という言葉がひっかかって、私は聞いた。


「あなたは――今は――『妖精の愛し子』じゃないの?」


「大人になって気がついたら――、あいつらは俺の前にあまり姿を見せなくなってたよ」


 アルヴィンは肩をすくめる。


「大人になったら――かぁ。もう18なのに――」


 私は苦笑した。16歳で成人になるから、私はもう十分大人なはずなのに。妖精たちは昔と変わらず私の周りを飛び回っているのは何でだろう。


「18――、そうか。君はそれくらいなのか」


 アルヴィンは一度私の方を振り返って納得したように頷いた。

 

 ……それは、どういう反応なの?

 

 下に見えたってこと? 上に見えたってこと?

 私は恐る恐る聞いた。


「――いくつに、見えた――?」


 アルヴィンは「悪いね」と詫びた。


「だいたい10代――かなぁと……。他意はないんだ。あまり外の人間と会わないから――、人の年齢がいまいちピンとこないだけで」


 だいたい10代――、――って……ものすごく大雑把だ……。

 私は思わずふっと笑って、それから首を傾げた。


「アルヴィン、あなたは――何歳なの?」


 足を止めて、彼は少し考え込む。


「ここに戻ってきたときは、21だった」


 ――変な言い方だ。

 私はそう思ってから、周りが明るくなっていることに気付いた。

 目の前には開けた場所があって、石畳の道が一本、奥へ延びている。その道の先に一軒のレンガ造りの家が見えた。見上げると、青空が広がっていて、太陽の光が柔らかく降り注いでいる。


「明るい……?」


 夜だったはずなのに。私は後ろを振り返った。

 そこには――歩いて来た方には――真っ暗な夜の森が広がっている。

 

 また、前を見る。

 その開けた家のある場所だけ、明るいのだ。


「ここが俺の家だ」


 アルヴィンはそう言うと、私を地面に下ろした。


「ここは――時間が止まっているんだ」


 彼はそう呟いて肩をすくめた。


「だから――ここに戻ってきてからは、自分の年を数えていない」


「そう――なの――」


 何と返事していいかわからず、私は呆然として呟いた。

 全てが不思議だった。


「――とにかく――、どうぞ」


 彼はそう言って笑うと、石畳の道を進んで行った。私はその後を追う。

 ふと、道の途中で立ち止まったアルヴィンは私を振り返って聞いた。


「君は、どこから来たんだ? ――君の家は――どこ――というか――、どの国――?」


「ごめんなさい。名前しか言ってなかったわね。私はメリル=グリーデン。アジュール王国の、グリーデン侯爵家の屋敷から――逃げ出してきたところだったの」


 「アジュール王国」と繰り返してから、アルヴィンは私を見つめた。


「国王は――、今もケイレブ?」


 私は目を大きく見開いた。

 ケイレブ様は――、現国王のオリヴァー様の祖父だ。


「――今の国王様は、オリヴァー様よ。――ケイレブ様は、オリヴァー様のお祖父じい様――」


 呆然とそう呟くと、アルヴィンは俯いて地面に向かって呟いた。


「――そうか、外では――もうそんなに時間が経っているのか――」


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