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【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。  作者: 奈津みかん
1.令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

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17/40

17.

 しばらく森の中を進むと、水が流れる音が聞こえてきた。その音の方に進むと、緩やかに小川が流れる場所に出た。水は透明で透き通っていて綺麗だった。


“川だ! 川だ!”

“遊ぼう!”


 妖精たちは口々に叫ぶと、近くに生えている大きめの葉っぱを千切って、それを持って川に飛んで行き、水に浮かべて船のように乗って流れて行った。ジャックは川に足を浸けて、ぱしゃぱしゃ音をさせながら水を飲んでいる。


「さて」


 アルヴィンはそう言うと、川辺にしゃがみこんで私を手招きした。

 近づくと彼は川の中に掌を浸している。

 ――次の瞬間、川の水が生き物のようにうねって上へ伸びた。

 いくつも蛇のようにうねる水の塊が川から現れて、こちらへ向かってくる。


「きゃぁ」


 私は思わず声を上げて後ずさった。そんな私の手をアルヴィンががしっと握って引き留める。


「――水の精霊だ。魔力を与えると実体化して近づいてくる。メリルも話してみなよ」


「話すって――精霊は喋らないってさっき言ってなかった?」


「話すというか――対話? 横に来てくれ」


 言われるがままアルヴィンの横に行って、しゃがむ。アルヴィンは私の左手の上に右手を重ねて、指をからませると、そのままぐいっと手のひらを水に入れた。冷たい水の感触に思わず「わっ」と声を上げると、こちらに集まってきていた水の塊がちゃぷんっと跳ねて消えた。


 ……あれ? いなくなっちゃった?

 

 アルヴィンの顔を見ると彼はゆっくり私に語り掛けた。


「静かに、目を閉じて、ゆっくり呼吸してみて」


 ――よくわからないけど、目を閉じればいいのね――


 瞳を閉じて、空気を鼻で吸って口で吐くを繰り返す。アルヴィンが握ってる右手の感覚だけが鮮明だった。冷たい水の感触に、温かいアルヴィンの大きい手の感触――温かいを超えて、熱いような――?


 その瞬間、閉じた瞼の裏側に青く渦巻くたくさんの『何か』が見えた。


 何か言いたげにくるくる渦巻いているように見えるそれに、私は心の中で話しかけた。


“――こんにちは?”


 返事をするようにそれはくるくる回る。言葉は聞こえてないけれど、何となく私に挨拶を返しているように思えた。


“あなたたちが水の精霊?”


 話しかけると、それは返事をしたように思えた。

 私は言葉を続ける。


“よろしく――ね?”


 その時、右手からアルヴィンが重ねていた自分の手を離すのを感じた。

 思わず目を開く。そして瞳を見開いた。


 目の前には、大きな水の壁がそびえ立っていた。正確には、川の水が大きく壁みたいに上に伸びて私の身体を飲み込むようにこちらに迫ってきていた。


「わぁ!」

 

 思わず叫ぶと、その壁は四方に弾けた。どばどばどばっとバケツの水を被ったみたいに大量の水の粒が全身にかかってずぶ濡れになる。


「うわっ」


 横でアルヴィンも叫んだのが聞こえた。呆然と横を見ると、慌てて黒いローブのフードを被ったようなアルヴィンも間に合わなかったらしく頭からずぶ濡れになっていた。


 アルヴィンは黒い長めの前髪を顔に張り付かせて呆然としながら、私を見た。


「――びっくりした」


「ごめんなさい、あなたが急に手を離すから――」


 私はわたわたと釈明する。


「悪い悪い。一人で精霊と対話出来てるみたいだったからさ。はは、びしょ濡れだ」


 アルヴィンは笑って、指をくるっと回した。

 びしょびしょの服から水滴が浮かび上がって、川に戻って行った。

 あっという間に服は乾いた状態に戻っていた。

 ……本当に便利。


「――あとは、今のを繰り返してみよう」


 アルヴィンは頷きながらそう言った。


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